Pastime Paradise

　今では腐女子だのヤオラーだのと呼ばれ、すっかり市民権を獲得したＢＬ（Boys Love　男性同士の同性愛モノ）。女なんかいらないから、とにかく格好いい男の子だけが見たい！というストレートな欲求に、呆れるほど豊かな妄想を加味したＢＬ漫画は、ある種女性の理想的恋愛像を描いていると言えよう。過激且つありえない性描写は勘弁してほしいが、あの甘美な世界は一度ハマるとまるで底無し沼のようにズブズブと引き込まれてしまう…
　昨今ＢＬといえば性的な関係をメインにした同人漫画を指すことが多いが、広義のＢＬ（少年愛モノ）作品は７０年代からすでに大人気だった。
竹宮恵子さんの「風と木の詩」などがその代表だ。

　７０年代半ばにプリンセスで連載された青池保子さんの「イブの息子たち」は、ＢＬと呼べるかどうかは微妙だが同性愛集団の爆笑歴史（？）ギャグ漫画だ。

　イブがアダムの肋骨から作られたことは知られているが、天使ドジエルはドジってイブの肋骨から男を作ってしまい、イブの息子の子孫達はヴァン・ローゼ族として長い年月の間に世界中に散らばった。一族の者は皆同性愛者で、古今東西の歴史上の人物の多くもこの一族だった。
　英国青年３人組―ゲイで詩人のバージル、同じくピアニストのヒース、自称ノーマルだがなぜかサド心をくすぐる人気歌手のジャスティン―は或る日ドジエルからヴァン・ローゼ族の一員であることを告げられ、一族の住む異空間（アトランティス大陸やエデンの西、地獄等）に毎回無理矢理召喚されては、一族と敵対する女たちとの騒動に巻き込まれる…というストーリー。

　実はヴァン・ローゼ族だったという歴史上の人物はナポレオン、諸葛孔明、ジンギス汗、ヘンリー８世、ヒットラーなど錚々たる顔ぶれだが、揃いも揃って変態扱いされている
　一方の、一族に敵対する女たち…クレオパトラ、卑弥呼、ジャンヌ・ダルク、サッポー、マリー・アントワネット、北条政子などもこれまた化け物扱い。
　そんな変態だらけの中、１巻に一人もしくは二人だけは色男が登場し、主人公３人組と恋や友情を育む。ジャスティンはマホメットに淡い恋心を抱き、ヒースは太陽神アポロや高杉晋作と親交を深め、バージルはヤマトタケルや森蘭丸、無名の端役（チェーザレ・ボルジア）とのスリリングな恋に賭ける。
　同性愛漫画だからというより、歴史上の偉大な人物の壊れっぷりが大好きだった。

　コミックス最終巻に収録されている番外編では、青池さんの代表作「エロイカより愛をこめて」のクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐（長ッ！）や彼の部下Ｇ、“怪盗エロイカ”ことドリアン・レッド・グローリア伯爵やドケチ計理士ジェイムズくんも登場
　余談だが、伯爵のモデルはレッド・ツェッペリン（LED ZEPPELIN）のロバート・プラント（Robert Plant）であり、ドケチで貧乏性のジェイムズくんのモデルは言うまでも無くジミー・ペイジ（Jimmy Page）であることは、ファンの間で広く知られている。

　学生時代、この漫画にずっぽりハマってしまったおかげで同性愛漫画に目覚め、後に「ONE PIECE」や「封神演義」などの同人誌に走ることになってしまった…
　しかし、おかげで「東方」にハマり、熱く同人について語る息子（ちょっとアブない）に共感出来ることから“話の分かるオカン”として息子の友人達から評価を得ていると聞き、万事塞翁が馬という言葉をつくづく思い知るのだった。