カテゴリ:書籍・雑誌
無音の斬り込みが長久保一円の眉間に吸い込まれ、長久保の巨体に衝撃が走って硬直した。直後、
とととっ と長久保一円が後退した。すると真っ二つに斬り割られた眉間から血飛沫が、 ぱあっ と飛んで、 どどどーん と後ろ向きに倒れ込んだ。 (佐伯泰英著 「居眠り磐音 江戸双紙 朔風ノ岸」より) アルバイト先の古本屋さんでの日々の主な仕事は、文庫本の補充や整頓であーる。店に並ぶ5~6万冊は優に超えるであろうそれらは、新刊を並べている書店とは異なり、余程の売れ筋でも同じものは2、3冊が限度で、ほとんどは1作品につき1冊だ。古今東西の数百(いや数千?)という作家さん達の作品がどこに並んでいるかを頭に入れておくだけでも結構大変なのだが、本好きにはなかなかに楽しく、嬉しい仕事といえる。 本当に人気がある作品はあまり入ってこない(お客さんが手放さない)もので、入ったとしても当然すぐに売れてしまう。 佐伯泰英さんの人気シリーズ「居眠り磐音 江戸双紙」もその一つ。いつも在庫切れでお客さんに迷惑を掛けているのだが、たしかにこのシリーズは読み始めると癖になる面白さがある。 元々は全く興味がなかったのだが、一日に2度もお客さんにこのシリーズについて尋ねられたことがあり、そんなに面白いものなのか?と、試しに読んでみたら案の定、あまりの面白さにすっかりハマってしまった。とはいっても、現在刊行されている30冊のうち、まだ5冊ほど(それも順番バラバラで)しか読み終えてないのだけれど(^^ゞ 主人公の坂崎磐音は豊後関前藩の中老・坂崎正睦の嫡男であるが、故あって江戸深川の金兵衛長屋に住んでいる。剣の腕は呆れるほどに強いが、剣を構えた姿が縁側で日向ぼっこをして居眠りしている年寄り猫のようなので、「居眠り剣法」と呼ばれている。鷹揚で欲が無く、朝は早くから鰻割きの仕事を2時間ばかりこなし、夜は江戸六百軒の両替商の筆頭・今津屋の用心棒をしたりして糊口をしのいでいる気のいいヤツである。(後に結婚したり、道場を継いだりするようだが、すんません、まだそこまで読んでません) が!この主人公、欠点がないのが欠点で、どうも今ひとつ魅力を感じにくいのであーる。性格よし、剣の腕よし、人望も厚くて方々から引っ張りだこだが欲は無く…と、嫌味なほどいい人なので、なんとなく心情的に近寄りがたいのだ。 それでもこの作品に惹かれてしまうのは、磐音の周囲の人々が魅力的だから。個人的には磐音の用心棒仲間で、その後も磐音のよき友である貧乏御家人の次男坊・品川柳次郎がお気に入り。 それともう一つ、このシリーズが多くの人から愛される所以は、冒頭に挙げた一節からも分かるように、何といっても読みやすさだろう。“とととっ、ぱあっ、どどどーん”って… 実際、短時間でスラスラ読めるので、司馬遼太郎作品を読むように根気や時間をさほど費やさなくてもすむのが助かる。但し読後の感動もまあ、両作品では天地ほどの開きはあるけれど。 早く読み進めたいのだが、図書館でも大人気なようで、いつ覗いてもほとんどが貸出中だ。たまに棚に並んでいても順番がまちまちだったり。仕方がないのでそのまちまちなままで借りてきて読んでいるが、やはり物語が分かりにくい。当たり前だけど、シリーズものは順番に読まなきゃせっかくの面白さも半減するわな。嗚呼、早く全巻読みたくてウズウズする~。 時代小説には興味があるけど何となく面倒そう…と思っている方におすすめです お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.08.30 02:38:43
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