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“とざい東西、江戸は神田の橋本町、ものもらいや大道芸人ばかりが住んでいるおかしな長屋。天気がよければ稼ぎに出かけるが、雨や雪でもふれば、大の男が朝から晩までごろごろ寝て暮す。そこで、だれいうとなく-なめくじ長屋”
時代小説に登場する江戸市井の人々の多くは、人情あふれる裏町の長屋で暮らしている。多くは六兵衛長屋だの伝兵衛長屋だのといったありふれた名前の長屋なのだが、時折ちょっと変わった呼び名の長屋もあったりする。冒頭で紹介した都筑道夫さんの「なめくじ長屋捕物さわぎ」のなめくじ長屋などがその例だ。 今回はそんな風変わりな長屋の名前をいくつか探してみた。 芦川淳一さんの「三匹の仇討ち」の主人公・伏木作之助らが暮らす長屋は橘町一丁目にあり、通称・おこげ長屋。独り身の男ばかりが多く、夕餉どきになると、おこげの匂いがあちこちで立ち込めるからだそうな。 風野真知雄さんの「穴屋佐平次難題始末」に登場する、穴屋を営む佐平次やヘビ屋のお巳よらが暮らす長兵衛長屋は本所緑町にあって、まるで長屋全体が夜鳴そば屋のように、夜になるとガタゴト動き出す連中が多いところから夜鳴長屋と呼ばれている。 押川國秋さんの「見習い用心棒 本所剣客長屋」の長屋は入江町一丁目にあって、その名も柿(こけら)長屋。屋根が昔からの?葺きで、何度か瓦にしようという話が持ち上がるも、そのたびに吝嗇で小心者の大家が反対してきたため。 鳥羽 亮さんの「はぐれ長屋の用心棒」に出てくる本所相生町の伝兵衛長屋の通称はタイトルどおりのはぐれ長屋。住人の多くが、食い詰め牢人、大道の物売り、その道から挫折した職人などのはぐれ者だったため、そう呼ばれるようになったのだとか。 どぶ板長屋というのは様々な作品にちょくちょく出てくるが、小杉健治さんの「どぶ板文吾義侠伝」のどぶ板長屋は浅草八軒町にあり、露地の真ん中にどぶが流れ、その上のどぶ板を踏むとみしみし音がするためだという。みんな、そのままやん…(^^ゞ あ、そのままといえば、村咲数馬さんの「くしゃみ藤次郎始末記」に出てくる長屋もそう。元・北町奉行所例繰方だった榊藤次郎らが暮らす浅草今戸町の鼠長屋は、鼠がよく出るからだって。 「ひと~つ人の世生き血をすすり、ふた~つ不埒な悪行三昧、 みぃ~つ醜い浮世の鬼を、退治てくれよう…桃太郎!」の決め台詞でお馴染みの時代劇「桃太郎侍」、当然ながら山手樹一郎さん原作の小説にこの台詞は出てこない。その桃太郎こと若木新二郎がひょんなことから暮らすことになったのが、浅草聖天裏にあるお化け長屋。そういえば落語で「お化け長屋」という噺があったっけ。 桃太郎を演じた高橋英樹さんがこれまた主演の、愛すべき超級お気楽時代劇「ぶらり信兵衛 道場破り」の松村信兵衛らが暮らしていたのは木挽町一丁目の十六店(じゅうろくだな)という長屋だったが、このドラマの原作である山本周五郎さんの「人情裏長屋」に“ゆうれい貸家”という話があり、何とやんぱち長屋という長屋が!場所は京橋炭屋河岸。どうでもいいけど、ちょっと嬉しい。 明治初期が舞台となっている和月伸宏さんの漫画「るろうに剣心」に登場する、元・赤報隊準隊士にして喧嘩屋だった相楽左之助が住んでいた長屋は破落戸(ごろつき)長屋。でもって左之の友人で、人気絵師だった月岡津南が住んでいたのはドブ板長屋。どぶ板長屋、人気ですな。 …とまぁ意味もなくつらつらと挙げてみたが、気になる長屋はありましたか? ンなもん、ねェよ!! えッ…!? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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