三日坊主~Dプロジェクトの裏側で(多分、後編)
※これは後編です。こちらの前編からを読む事をおススメします。※前回までの三日坊主のあらすじ※遅刻が多い従業員、西郷どんに「時間にルーズなところを改めるようにずっと言っていたのに、改めないならこちらとしても考えないとならない。嫁が遅刻の理由とされているがどう考えているのが知りたいので明日呼んで来い」と話した翌日、西郷どんはこなかった。また遅刻なのか行方不明なのか分かりかねた旦那は奥さんの携帯に電話をした。すると「夕べは帰ってこなかったし、携帯の電源も切れてしまっている」ということだった。やはり、今までの経緯は奥さんには話してなかったのか…それにしてもおかしいというか不思議だったのは奥さんは西郷どんの交友関係を全く知らない、ということ。例えば「友達と会う」と聞いてもどんな関係の友達なのか、どこに住んでいる友人なのか、いや、性別どころか名前すら知らないという。だから、居場所が分からないから探す手立てがないそうだ。とりあえず旦那は仕事には出なくてはならない。そこで、今後のことは夕方改めて話すことになった。そして3月12日の夕方。まだ居所がつかめない、という奥さんに今回のきっかけであろう「うちで嫁も交えて話し合う」ということになった話の経緯を説明した。やはり、全然聞いていなかったそうだ。自分が遅刻のいいわけになっていることを。だがうちだってこのまま遅刻を黙認するわけにも行かないし、かといってくびを言い渡すのも辛い。いずれにしても西郷どんの生死…いや、安否が分かってからの話なので、連絡が取れ次第にお互いに連絡することで電話を切った。翌13日の朝7時頃、西郷どんから電話があった。やっと西郷どんと連絡が取れた奥さんからうちに電話するように、と言われてのことだった。「色々ご心配をかけてすみません。…実は今、静岡にいるんですが、これから帰るので今日、そちらに伺います。」奥さんに促されてのことならば、きっとこれまでの経緯も聞いているはずだ。その上で連絡をしてきてうちに来るという事は結果がどうなるにしろ、きちんと話をするということなんだろうな、とあたしたちは思った。んが、夕方になっても来やしねえ。んもう、振り回されてはかなわないや、と話をしていると西郷どんからの着信が。「今、まだ静岡にいます。これからそちらに帰るので8時頃に…」おいおい、困るよ、それは。だって今日はDプロジェクト、春のD祭りのイベントが9時から始まるんだから。ということでだんなに目配せをし、「10時過ぎにして」と頼む。なんでうちが向こうの予定に付き合わないとならんのだ?朝、静岡にいるって電話があり「これから帰る」と言ったのに何で1日中静岡にいるわけ?あたしの頭では理解不能だわ。夕食をそそくさと済ませ、子供たちの寝るしたくも済ませ、9時になって「世界一まずいD」と言われるサルミアッキを口に含む。しばし悶絶してDプロメンバーたちの健闘ぶりをROMっているとうちの玄関チャイムが鳴った。来た。そこには西郷どんとその嫁、そして生後数ヶ月と2歳の子供がいた。まずは座ってもらい、お互いに対峙しながらもお互いの様子を窺う。そして、話の核心に触れる前に、一体この2日間どうしていたのか?と聞いてみた。やはり、夕方うちで切り出された話が引き金だったという。どうしても言い出せなくて逃げてしまった、と。だが、ここからが理解不可能なのだが、彼の説明を引用させてもらうことにしよう。まず、車(うちが貸与しているもの)を走らせて焼津まで行き、そこに車を捨てて電車で浜名湖まで行った。浜名湖に着いたはいいが、 ここでお金が底をついてしまう。そこで歩いて焼津に捨てた車まで戻ることにしたのだが、その途中で今度は携帯の電源が切れてしまった。ようやく車に戻り、車載充電器を使って連絡したのが夕方のことだった、と。つまり、朝から晩まで1日中歩いていたということ?あぁ、そういえば、あたしの卒業した高校の強歩大会では確か1日で40~50キロの距離を歩いたからそう考えれば夕方までかかっちゃうよね、 …って帰りの電車賃を残しておこうという頭がなかったんだろうか?力が抜けて、旦那もあたしもその部分につっこむのも嫌になってしまった。そこで、それは聞かないかったことに、というかすっ飛ばして遅刻の原因を聞いた。「うちでは奥さんのお酒に付き合って遅くなるから遅刻をすると聞いているんだけど?仕事に支障が出てくるのが本当に困る」と。あたしのイメージでは奥さんは気が強くて何にでも噛み付くタイプを想像していた。だが、実際に会ってみるとうすいさちよ そっくりで表情の暗い女性だった。彼女いわく「(自分の連れ子の)長男が今思春期で少し荒れている。学校からも呼び出しがあったり、悩み事がたくさんある。血はつながっていなくても同じ男同士、話をして欲しいし相談に乗って欲しい。でも、子供たちがいる前でこんな話はできない。だから、子供達が寝静まってから話をしようとすると深夜になってしまう」そうだ。そしてその遅くなってしまう理由が今ここにいる2歳の息子で、信じられないが普段でも12時すぎまで起きているそうだ。そして西郷どんに2歳の子供の寝かしつけを頼むと一緒に寝てしまうから話ができない、そうだ。…そりゃそうだろう。毎日、体を動かす仕事をしているんだから西郷どんだって疲れて一緒に寝てしまうだろうに。それが当たり前と思ってしまうのはあたしだけ?原因だ、と名指しされた2歳児。確かに10時過ぎていても目はランランとしているし、つまらないからなのか、母親に遊びたいとせがんでいる。んな、昼近くまで寝かせていれば夜、寝るのが遅くなるのは当たり前じゃん。上の子達が寝てしまうと寂しがって起こしてトラブルになるって…普通に学校に行っている子なら怒るにきまっているじゃん。だったらこの2歳児を朝早く起こして、サイクルを正常に戻せばいいのに。あたしから言わせれば、こんな話をしに来るのだから時間がかかることくらい分かっているはずなのに子供が遊ぶようなおもちゃも持ってこない、寝てしまうかもしれないとちょっとした毛布も持ってこないってそこからおかしいと思ったが、末っ子のミルクだけはかろうじて持参して来たことが救いなのだろうか。うちのおもちゃを出してかたわらで遊ばせるが、んもう元気すぎて話に集中できないくらいだ。うちの子供達がもらってきた風船の糸を放してしまい天井に行ったので取ってくれとせがむ。母親じゃなくてあたしに。「とてもひと懐こい子だね~、元気だし。」「いえ、うちの子はとても人見知りが強くてこんなに慣れているで実は驚いているんです」…そうじゃねぇよ、お前が子供を構ってないからそう思うだけだろうが。子供は自分の相手をちゃんとしてくれる人になつくんだよ。5人も子供産んでいるのになぜ分からない?「でも、本当、5人も子供がいると大変だよね、うちだって3人でもヒーヒー言っている状態だから。そりゃ、西郷どんにお米くらい研いでもらいたいよね。」「いえ、家事は一番上の子が手伝ってくれるので別にやってもらわなくてもいいんです。」…なんですと?じゃ、何がそんなに大変なの?確かに下の子2人を連れて何かするのは大変だけどそれはひとりでやらなきゃならないときだよね?上の子が家事も負担してくれて、子育てでも手を借りて、それで大変と言う意味を真剣に聞きたいんだけど?家事負担が減っていて、子供の面倒をみれる環境にいながら大変と言う意味がよく分からないんだけど?頭の悪いあたしに分かるように説明してくれないかな?グッとこらえて普通に聞いた。「え?じゃ、西郷どんにしてもらいたいことって何?」「この子の寝かしつけです」…まずはじめに、普通の時間帯に子供が寝るようにお前がきちんとしつけてからの話だろうがっっ!!!こういった言動から察するに、「こうしたらいいんじゃないか」とか「こうすれば楽になる」とか自分の頭で考えて工夫する事を知らない人なのかもしれないと思った。だが、西郷どんとの間に生まれた子に関して母親としての責任を半分受け持ってほしがっているがそれなら半分受け持ってもらった、その楽になった分は何をしているんだろう?この人は。収入的に負担しているわけでもない。これはうちには関係ないことだ。だが、あたしも思わず言ってしまった。「30歳過ぎたいい大人に説教するのも馬鹿らしいけれど、本当に甘すぎるね、二人とも。考え方が子供すぎるんだよ。5人もの子供を成人まで育てなきゃいけないんだから二人とももう少し自分の立場を考えて行動したら?うちが商売を始めて初期のころからずっと応援してくれてお付き合いしてくれるお客さんがたくさんいる。うちが今あるのはこのお客さんたちのお陰だし、その気持ちに応える仕事をしたいと思っている。ここまでの信用を作るためには、長い時間がかかった。でも信用を失うのは一瞬でできる。例えば1回くらいの遅刻なら『道具を持ちに行かせている』と言えても、それが何度も続けばうちがそんな従業員を使っているのか、とうち自体の評価も下がるし、お客さんに仕事をないがしろにしてバカにされていると思われても仕方がない。西郷どんが遅刻をすることで、西郷どんの評価が下がるだけではなく、うちの今まで苦労してきた物まで滅茶苦茶にされてはかなわない。」そんな事を話した。「…で、どうするの?」と旦那が切り出す。するとその瞬間、「すみません!もう一度がんばりますのでどうかお願いします!」そういって土下座した西郷どん。「…子供も見ているから頭を上げなよ」そういってあたしたちは頭を上げさせたがあたしたちははっきり言ってもう疲れていた。実際、この週にはもう求人も掲載される。もうどうでもいいや。こちらも眠くなって思考能力も落ちている。茶番に付き合っていられない、勝手にしてくれ、と思った。こちらがいくら頑張ったって本人たちが変わらなければ意味のないこと。人様の家庭の事情まで考えるのにももう疲れた。仕事をいい加減にするならクビにしよう。辞めたきゃ辞めればいい。求人に募集してくれた人の中でいい人がいたらその人のことを優先しよう。そう決めた。…っつーことで今も西郷どんはうちで働いている。あれから遅刻はほとんどなくなった。やればできるんじゃん、ボケ。