BLASSREITER(ブラスレイター)。
良くも悪くも、日本の夏に広島と長崎の名前を聞かないことはないわけですが、あきらかに外国を舞台にしたこの作品の中に日本人キャラが出てきた時、そのキャラ(シドウ)がヒロシマ出身という設定だったのが妙に印象に残っています。普通は東京や大阪、伝奇モノや妖怪モノなら京都や東北辺りの出身ということもあるでしょうが、特に物語の本筋に直接絡まないかたちで『ヒロシマ』の地名を聞くこと自体が珍しい気がして、夏に広島を聞くたびにこのアニメのことも思い出してしまうという。そもそもこのアニメ自体近未来のドイツという舞台設定らしく、作品の中で描かれている社会的な問題やキャラたちの抱える事情も、現在の日本で大多数の中高生(基本的なアニメ視聴者層?)が日常的に実感しているとは思えない内容が多い作品です。平たく言うと、日本との距離感が半端じゃない。暗黙のうちに日本人的な思考や言動が織り込まれているであろうことは否定しませんが、どちらかというと外国映画や海外ドラマで見かけるキャラの感覚に近いものを感じます。社会の中にある移民やいじめ、差別などの結果としての「一般市民による暴力行為(いわゆるリンチ)」もハッキリと描写されており、一般的にイメージする日本的な「言葉や態度だけのそういった行為」とは異なる露骨さも、事前に覚悟がないまま見ればかなりの衝撃を受ける部分かもしれません。そうした中、日本人キャラとして中盤あたりから登場するシドウも戦国武士か侍のようなイメージ(礼儀正しいく義に厚い武人)のキャラで、むしろ外国から見た日本的なモノのイメージにそって作られた部分さえ感じられます。しかし、とにかく作品を見ている中で日本を意識する部分がほとんどない中での日本人キャラで、そこでヒロシマ出身という設定には何かしらのこだわりを感じずにはいられないなぁ、とも思えるわけですよ。いや、ほんと、作品的には本筋ではないんでしょうけどね。ブラスレイター VOL.3松風雅也(MATSUKAZE MASAYA)楽天ブックスで詳細を見る全体を一言でいえば、変身ヒーロー物という感じ。全編を通しての主人公がいて、各エピソードの主人公がいて、最後にはみんなの力を合わせ(やや唐突感のある展開でしたが)てラスボスと戦うと。物語として語られる部分では深刻で重いテーマが多く、それぞれのエピソードの結末も救いがなかったりやるせない話になっているので、鬱展開の多い作品だといえるでしょう。しかし、バトル部分では”オレつえー”や”最強兵器かっけー”といった感じの、どことなく子供っぽいカッコよさや強さを楽しめる感じも受け、個人的にはバトル展開のノリの良さで最後まで見れたという印象です。また、「デモニアック」という変身後のバトルは近未来的な超兵器ともどもCGがメインで描写されており、それを不自然と見るか異質なモノの表現として受け入れるか、かなり個人差も大きそう。つまり、かなり個性的でアクの強い作品なので、誰にでも気軽にお勧めできる感じではないと思います。キャラ的には我が強くどんなことがあっても最後まで意地を張り、その結果そのキャラが望む未来(希望?)とは異なる現実に打ち負けてしまうことが多く、死亡フラグ的な台詞や状況も繰り返し繰り返し描かれています。普通に考えればこれは、シナリオがワンパターンで陳腐だというよりもむしろ、「繰り返される悲劇や不幸の中でそれでも戦っていくという不屈さ」みたいなものを考えてもらいたいための演出だ・・・と読むべきではないかと思います。主要なキャラのほとんどに暗い過去や酷い現実が与えられていて、そうはいってもこれはちょっとやりすぎじゃないかな?と思うのも正直な感想ですよ。こってり味の豚骨ラーメンに、こってりしたソースをかけて食べているような気分というか、特に私はある程度まとめて一気に見たので胸焼けする気分を再三味わいました。唯一の息抜きがエレアというキャラで、ジョセフという全編の主人公が乗るガルムというバイクに組み込まれたホログラフなのですが、妖精のような外見をしています。他はあまりユーモアの要素が少なかった印象が強く、途中からは出てくるキャラが次々とまた不幸になってゆくんだろうなぁと、達観したような気分で見ていたのを思い出します。世界への絶望感を見ている人に持ってもらうためにキャラが動かされていた、という感じでしょうか。私はバトルの描写がそこそこ気に入ったので最後まで見たわけですが、ここでも無力感や敗北感がかなり意識された展開や描写が多い気がしました。特にデモニアック同士の戦いよりも人間対デモニアックの戦いにそれは顕著で、近未来の超兵器的なデザインはカッコいいと思えるものが多い反面、後半に登場する凄い性能の兵器もありえないような性能を見せつけてくれる部分と見かけ倒しすぎるという部分が同居していて、強いのか弱いのかサッパリわからんということがあります。デザインで強さが決まるわけではない、と言われればその通りだとは思います。ですが、登場した時の期待感があっさり裏切られたり、どうせダメだろうと思いながら見ていたら意外と効果がある感じに見えたり、そういう意味で飽きない戦闘描写だったかなと。ただし、前半の人間側は本当に無力感溢れていて、必死に戦おうとするキャラたちに少なからず同情してしまったぐらいでした。さんざん暗い展開や重いテーマを見せられて、じゃあ最後にどんな解決や答えが用意されていたのかといえば、色々あったけどやっぱりこれからも希望を持って頑張って生きてきましょう~みたいな、ちょっと抽象的で個別の問題については置き去り感の強い結末だったとは思いました。とはいえ、あれだけ繰り返し不幸や悲劇でお腹一杯になった後だと、意外と後味はサッパリしてたよねって気分になるので不思議ではあります。抽象的だったり観念的だったりする意味で作品を読み解こうとすればそれも可能なのかもしれませんが、個人的にはこの作品が持つダークな空気感に体力も気力も消耗させられてしまい、わざわざ自分で深く考えようという気にもなりませんでした。いちいち付き合っていたらもっと疲れるからもう勘弁してくれ、という気分になったというか。アニメ的には作画もよく、CGもスピード感や見応えがあり、楽曲でも十分な水準。しかし、内容的にはアクが強すぎて、うっかりと人に勧めることができません。嫌いな人は本当に嫌いだと思いますので、見ようと思う人はそれなりに事前に情報を集めてから見るかどうかを判断してもいいと思います。公式サイトやウィキペディアなども含め。いちおう最後に付け加えておくと、いじめなどの酷いことをするモブキャラたちの描かれ方が、本当に心底救いのないような悪人にしか見えないような感じがして、あの扱いだけはちょっと気持ち悪かったです。最低な人間を最低に描くという点では筋が通っていますが、単純に見ていて楽しくないし気持ちのいいものでもない。そして、たぶんそれは、完全にアニメの中のフィクションでしかないと切り捨ててしまえるほど簡単なことでもないんじゃないか?と思えることが、また気持ち悪い。どこかで何かを一歩間違うと自分も加害者のほうにまわるんじゃないか、と考えてしまうことがさらに・・・。