ハル・マクーシック 『トリプル・エクスポージャー(Triple Exposure)』
スマートにしてハイレベルな代表作 ジャズ奏者の中には、若くして亡くなったことでそれ以降の演奏が聴けなくなったことが悔やまれるプレイヤーもいる。一方、長生きしたにもかかわらず、作品を残さなかったという理由でその音楽が聴けないというケースもある。後者の典型の一人と言えそうなのが、ハル・マクーシック(Hal McKusick,マクシックまたはマキュージックなどと表記される)である。2012年に87才で亡くなっているが、彼が演奏を後世に残したのは限られた期間にすぎなかった。 そんな彼は、1940年代から演奏活動を始め、1950年代後半にいくつかのリーダー作を残している。その後、60年代初頭にはいくつかのセッションにサイドマンとして参加しているものの、いつしか引退してしまったようだ。彼の作品は10指に届かぬ程度の枚数みたいだけれど、その中でよく名が挙げられる作品といえば、このプレスティジ盤『トリプル・エクスポージャー(Triple Exposure)』である。 ところで、唐突ではあるが、動物園には二種類ある。一つはサファリパーク型で、動物が“放し飼い”されていて、人間がバスや車に乗ってその中へ入っていく。もう一つは従来型の動物園で、この場合、人間が自由に動くことができて動物たちは檻や囲いの中にいる。音楽もこれと同様に、サファリ動物園型と通常動物園型の二種類がある。前者はライヴ体験(疑似体験含む)として楽しめるもので、後者は離れた場所からスタジオを見つめるかのごとく聴くタイプのもの。別にこの盤に限ったことではないのだけれど、本盤は確実に後者に属する部類だと思う。 そのようなわけで、本盤の最大の特徴は、室内楽として静かに鑑賞するのに向いているという点である。同じ西海岸的ジャズでも、アート・ペッパーを聴いていたらしばしば“サファリ型”を求めたくなるのとは不思議と異なっている。中に入って聴いて感動するのではなく、スタジオで演奏する姿を想像しつつ離れたところからスピーカー経由で届く演奏を楽しむ、そんなイメージである。 さらに、もう一つ本盤の特徴を付け加えるならば、楽器のヴァリエーションだろう。マクーシック自身がアルトサックス以外にテナーサックス、クラリネットも演奏しており、さらに演奏メンバーにはトロンボーン奏者も含まれている。なお、このトロンボーンのビリー・バイヤーズがなかなかいいサポートをしているほか、ピアノのエディ・コスタも要所要所でおもわず耳が釘づけにされる好演奏を披露している。結果、本盤の演奏はスマートかつハイレベルで、完成度の高い室内楽的盤にしあがっていると思う。[収録曲]1. Interim *2. Saturday Night3. Don't Worry 'bout Me *4. Con Alma *5. Something New6. Blues Half-Smiling7. A Touch of Spring8. The Settlers and the Indians9. I'm Glad There Is You*1., 3., 4.はCD追加曲。[パーソネル、録音]Hal McKusick (as, ts, cl)Billy Byers (tb)Eddie Costa (p)Paul Chambers (b)Charlie Persip (ds) 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、“ぽちっと”クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓