カテゴリ:森田療法と他の療法について
30代のある男性の会社員の方が1年前に内勤から営業に異動になりました。
初めの数ヶ月はなんとかこなせていました。 ところが半年を過ぎたあたりから、朝家を出ると頭痛がするようになりました。 通勤には1時間ほどかかりましたが、痛みのために、電車から降りることも度々ありました。 精神科医の森下医師の診断を受けると「軽症うつ」でした。 その後、自宅療養に入りましたが、頭痛はなかなか改善しません。 脳腫瘍ではないか、何か別の悪い病気があるのではないか、職場に復帰できるのだろうか、自分は怠けているのではないだろうか、自分はダメな人間だ。次から次と不安を溜め込んでいたのです。 このカラクリを森下医師は次のように分析されています。 痛みという刺激が慢性的に続くと、脳の頭頂葉にある知覚を感じる感覚野という領域の神経回路に変化が生じます。 痛みという刺激に対して、過剰に反応するようになるのです。 するとごく軽い刺激でも「とても痛い」と感じるようになります。 さらにここから感情を司っている前帯状回という部位への出力が異常に高まり、その機能を低下させます。 前帯状回は、感情のコントロールや痛みに対する反応の仕方に関係しており、痛みを理性によって和らげている場所です。 この部位が正常に反応できなくなると、理性によるコントロールが破綻し、痛みの原因が取り除かれても痛みの感覚と不快な感情が残ってしまいます。 この方が自宅療養に入ってからも頭痛が改善しなかった理由です。 不安も同様です。不安をもたらす刺激が短時間であれば、不安という感情はそれを起こさせる出来事(刺激)に対する結果でしかありません。 しかし、慢性的に不安が長引くと、単なる結果では終わらず、逆に「脳に対する刺激」として作用するようになります。 不安が刺激となって脳に作用すると、理性を司る前頭前野という場所の働きが抑えられます。 このことによって、物事を客観的、冷静に判断できなくなるのです。 (「軽症うつ」を治す 森下克也 角川ssc新書 82ページより引用) 集談会には慢性疼痛で苦しんでいる方もお見えになります。 その方達のお話を伺っていますと、確かに器質的な痛みがあるのですが、そこに過度に注意や意識を向けることによって、その傷が何倍にも増幅されているようにも思われます。 森下氏は脳の仕組みから、慢性疼痛で苦しんでいる方が、多分に心の問題と結びついていると言われています。 これは不安や恐怖、不快感や違和感に対しても同じことがいえます。 これらは脳の中では、主に扁桃体に刺激として入っていきます。 扁桃体の役割は、不安、恐怖、悲しみを受けたとき、ストレスホルモンを出す司令塔となっています。 これが魚にあるおかげで、魚は、即座に敵から素早く身をかわして逃げることができる。 ところが、不安や恐怖がいつまでも続くと大変なことになる。 ゼブラフィッシュという小魚を、天敵であるリーフフィッシュという魚と一緒に水槽に入れると、最初は盛んに逃げ回るそうだが、最後は逃げることをしなくなる。そして容易に食べられてしまう。 これが人間に起こるとどうなるか。 ストレスホルモンが過剰に出続けた結果、扁桃体や海馬などに委縮や破壊が起こり、自分の命を守るという意欲や行動がなくなってくるのだ。 神経症が固着する過程は、不安や恐怖を目の敵にして精神交互作用で増悪していく過程である。 その中で、脳の中では扁桃体や海馬、前帯状回、前頭前野の神経細胞が損傷を受けていることが十分に考えられる。 脳の神経細胞はいったん破壊されると修復しにくいと言われている。 だから神経症の原因となる不安や恐怖は、精神科医やカウンセラーによって取り除いてもらうことも必要である。 それと、森田理論学習によって不安の役割、不安と欲望の関係についてよく学習していくことが大切であると思う。森田には予防精神医学としての役割がある。 精神を健康に保つためにも生涯教育として森田理論を学んでいく価値は十分にあると思われる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.03.31 06:30:04
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