カテゴリ:行動のポイント
森田全集第5巻の中に早川さんの話がある。
早川さんは、昭和5年1月から2か月ぐらい入院した人だ。 入院中、観念的で理屈ばかり考えることが多く、実践・行動が不足がちであった。 そのうち入院していることが苦しくなって、退院すれば楽になると思って退院した。 退院の時、森田先生から、「現在たとえ治らなくとも、家の人には治ったといって、普通のように働き、学校へも行かなければいけない」」といわれた。最初はその言葉に従った。 しかしその後、自分が全治していないということがしだいに苦になりだして、ついに森田先生の言葉に背いて、「自分はまだ治っていない」ということを家人に告げた。 その後6月からは、学校を休校した。家では掃除もしないで散らかし放題。 あらゆることが癪に触って、当たり散らしていた。 母からはまるできちがいのようだといわれていた。 (森田全集第5巻 143ページより要旨引用) 早川さんは頭のいい人で、着眼点がよく森田先生によく褒められている。 ところが、それに酔ったようなところがあって、実践や行動が進まなかった人だ。 その早川さんが強いて退院するとき、森田先生は家人に嘘をつきなさいといわれたのだ。 それが「現在たとえ治らなくとも、家の人には治ったと言え」という言葉だ。 嘘をつくのは許せないという「かくあるべし」を持っている人にとっては、聞きずてならない言葉かもしれない。医者のくせに神経症を治すことができないで放りだすとはなにごとかと。 森田先生の真意はどこにあるのだろう。 早川さんには、森田理論を観念的に納得できるまで理解して、深耕させていくやり方はまずい。 観念中心の生活態度を益々助長することになってしまう。 これでは森田の目指しているところから離れていく。 それよりは、規則正しい生活を取り戻す。 日常茶飯事に丁寧に取り組み、毎日きちんと学校にも行く。 形を整えることに重点を置くことを忠告されているのだと思う。 「外相整えば、内相おのずから整う」という言葉があるが、まさにそのことを言われていると思う。 森田理論は理論学習と実践・行動が同じ比率で進行していかないといずれ問題が出てくるのだ。 これは見落としがちだが、大きな問題なのです。 むしろ森田理論を知らない時の方が、まだ苦悩や煩悶が少なくてすむ。 私たちの森田理論の学習は、ともすれば理論ばかりに偏っており、実践は各自に任されている。 誰も指導してくれる人はいない。 それをいいことにして、学習のみにのめりこみ、実践力、行動面、生活面に見るべきものがないという人は問題である。理論面がよく理解できた人は、森田理論学習よりも、むしろ体験、体得学習に軸足を移していく必要があるのである。そして森田理論の理解と実践・行動のバランス具合を検証していくことが肝心である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.04.02 06:20:04
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