カテゴリ:最新の脳科学
林成之先生のお話です。
プロ野球のバッターは、時速150キロものスピードで向かってくる豪速球を打ち返しています。これは、少し考えてみれば神業ともいえるすごいことで、脳の高度な働きなくしては不可能な運動なのです。 ピッチャープレートとホームベースの間の距離は18.44mです。 ピッチャーが時速150キロ以上のボールを投げたとき、ホームベースに到達するまでの時間は単純計算で0.45秒を切ることになります。 一方で、プロのバッターがバットをスイングするのにかかる時間はおよそ0.2秒といわれています。また、脳が体に命令を下してから実際に体が動くまでの神経反応には、約0.3秒弱を要します。すると、脳がボールを見て「打て」と体に命令してから、実際にスイングを完了するまでには合計で0.5秒弱の時間が必要ということになります。 つまり、ほんの少しだけボールが到着する時間のほうが短いため、理論的にはバッターが150キロのボールを打つことはできないのです。 しかし実際にはプロの選手は150キロ以上のボールでもホームランにしてみせることがしばしばです。これはいったいなぜなのでしょう? 「イメージ記憶」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。 これは、物事をありのまま記憶するのではなく、その物事についてのイメージを自分の頭の中で作り上げ、それを記憶することを言います。 バッターは、ピッチャーが投球動作をしている段階から、ボールが手元にくるまでの軌道のイメージ記憶をもとに予測して、バットを振るのです。 経験を積めば積むほど、ボールの軌道の記憶はたくさん蓄積されていきます。 バッティングの達人とは、過去に成功したときのイメージ記憶を膨大に蓄え、それをあらゆるボールに対して当てはめることができる人です。 記憶中枢は海馬と言われています。しかし海馬の記憶は短期記憶です。 短期記憶は、すぐに忘れ去られてしまいます。 短期記憶をバッターが脳内で再構成して「イメージ記憶」としていかにたくさん蓄積しているかどうかが肝心ということになります。 (勝負脳の鍛え方 林成之 講談社現代新書参照) この話は、森田理論学習をしている私たちにも大変興味深いものです。 私たちが行動する時には、過去の「イメージ記憶」を引っ張り出して思案しています。「イメージ記憶」にはプラスとマイナスがあります。 小さな成功体験を積み重ねている人は、プラスの「イメージ記憶」が積み重なっています。それが下支えとなって、「大丈夫、今度もきっとうまくいくはず」と勝手に思ってしまいます。 すると、その情報は腹側被蓋野に送られて、ドパミン主導の報酬系神経回路を駆け巡ります。側坐核や前頭前野が強力にバックアップしてくれますので、今度もまた成功の確率が高くなります。 ミスや失敗の体験が積み重なっている人は、マイナスの「イメージ記憶」が積み重なっています。それらの情報は青斑核に送られて、ノルアドレナリン主導の防衛系神経回路を駆け巡ります。脳全体が専守防衛態勢を敷いてきますので、仮に手を出したとしても、また失敗を積み重ねることが多くなります。 この理屈が分かれば、いかに小さな成功体験を積み重ねることが大切かが分かります。その体験をプラスのイメージ記憶として整理して蓄積していく。 日常生活の中で小さな成功体験を積み重ねて、日記などに書いていくという習慣が大切になります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.05.12 07:42:55
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