カテゴリ:野菜作り、花、風景、川柳、面白小話など
この本は歌人長塚節の人生を扱った小説である。
文庫本575ページの長文である。読むのに骨が折れる作品である。 これは小説というよりも、残された資料に基づいた精密なドキュメンタリー作品である。この小説は、第20回吉川英治文学賞を受賞しているが、選考委員の言葉は一様に、この作品が節に関する事実問題の追及において、恐るべき執着を持って精密を極めていることに触れていた。 藤沢周平氏は、「長塚節全集」「啄木全集」「佐千夫全集」「赤彦全集」などのほか、長塚節に関わるものはすべてを精読している。 参考文献の数は63部に上っているという。 さて長塚節は咽頭結核を患い37歳で夭折している。 生家は裕福だったが、父親が茨城県の県会議員として活動をしているうちに散財し、家計は借金で火の車だった。 節は長男として必死になって再興を企てたが叶わなかった。 歌人としての長塚節は正岡子規門下である。写実を重視している。 伊藤佐千夫とともに一目置かれた存在感を示していた。 伊藤佐千夫はリーターシップを発揮するタイプであったが、長塚節は茨城県に住んでいたせいもありほとんど裏方であった。 節の作品は、写実に徹し、肺結核に陥ってからの歌の評価が高い。 その他、夏目漱石の推薦を受けて、朝日新聞に「土」という小説を連載している。 節は肺結核を抱えながら、作歌の為各地を精力的に旅行している。 特に晩年の九州の日向方面の旅行は圧巻であった。 肺結核の療養を兼ねての旅行であったが、病気の為次々と宿泊先を追い出されている。この旅行は養子に行った弟順次郎の援助のおかげであった。 相思相愛の黒田てる子という女性がいたが、肺結核のため結婚は叶わなかった。 節の人生は、経済苦、病苦、結婚苦、歌人仲間の人間関係に翻弄された。 それは20代で肺結核にかかり、教師の道をあきらめて療養生活に入らざるを得なかった藤沢周平氏の人生と重なる部分が多かった。 藤沢周平氏の作品は、苦悩でのたうちながらも懸命に生きている人に光を当てている。俳人小林一茶という作品もそうだった。 一茶はユーモラスな作品を数多く残しているが、一茶の人生は苦悩との戦いであった。 様々な困難を抱えながらも、与えられた命をいとおしみ、命の続く限り生き抜かねばならないという核はしっかりしている。 私はこの作品を読んで、藤沢周平氏の作品はすべて読破してみたいと思いました。今3分の1くらいです。これからの楽しみと目標ができました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.04.07 23:43:02
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