親になったら子どもをきちんとしつけることが大事になります。
その一つに我慢できる子どもに育てるというのがあります。
大平光代さんのしつけ方が参考になります。
おなかがすいて泣いた時、あわててミルクは作りません。
「ミルクを作ってくるからちょっと待っていてね」と声をかけて、台所に引っ込みます。
激しく泣き続けてもそのままにしておき、頃あいを見はからって「お待たせ」とミルクを持っていくのです。
そしてその待たせる時間を少しずつ長くしていきました。
抱っこをせがまれた時も同じ。「お母さんは今、お片づけをしているからちょっと待っていてね」と声をかけてから、台所に入ってしまいます。
泣きわめいてもそのままにして、10分ほどたってから出て行って「はるちゃん、お待たせ」と両手を差し出します。
でも敵もさるもの、すねて寄ってこない。
「じゃあ、いいのね」私が台所に戻りかけると、ギャーギャー大泣き。
そこで手を差し伸べると、飛びついてきました。
こうしたことを繰返していくうちに「待っていてね」と声をかけると、ちゃんと待っていられるようになりました。
長時間ワーワーギャーギャー泣き叫ぶのを聞いていると、抱いてやるほうがどんなに楽かと、何度思ったかしれません。
でも負けてしまうと、「泣いたり、ごねたりすれば、なんでもいうことを聞いてもらえる」と親をなめるようになってしまいます。
スーパーへ買い物に行った時もそうです。
買い物中に「ジュースが欲しい」と泣き叫ぶことがあります。
その場で買い与えれば泣きやむわけですが、私は「お買い物がすんでからね」と言い聞かせるだけで、そのままにしていました。
とにかく、「あなたのいいなりにはなりません」ということを教えないといけないのですから。
すると子どもはしだいに、泣いても言うことを聞いてもらえないということを自覚するようになりました。
ミルクを飲まないときは、「次はお昼まで飲めないよ、それでいいの」と言い聞かせ、その間で「おなかがすいた」といっても飲ませません。
はじめは目に涙をいっぱいためて抗議をしていましたが、泣いても無駄だと分かってから、口元に少し力を入れてモグモグ。ミルクを吸うまねなのです。
そうやって、けなげに耐えている様子を見ていると、子供心にも我慢することを理解してくれたようで、嬉しくなります。
私はダメという場合は、ちゃんとその理由を言葉で説明するようにしています。
そして約束したことはどんな小さなことでもきちんと守ります。
「ミルクを作ってくるから少し待っていてね」と事前に説明し、その通りにすることで、最初泣き叫んでいた子どもも「お母さんはミルクを持って必ず私のところに来てくれる」ことを学習します。
我慢することと同時に、人を信頼する基礎が培われるわけです。
自分の思い通りにならないことがあるということを自覚できることは大変重要なことです。
我慢することができるようになった子どもは、一つの能力を獲得したのだと思います。
この能力を持って大人になった子どもは柔軟性があります。
人との調和、調整能力としていきてきます。
こういう人がリーダーとして活躍できるのだと思います。
そして現実、現状、事実を受け入れることにつながります。
それは神経症とは無縁の世界に身をおくことにつながります。
(今日を生きる 大平光代 中公文庫より引用)