アメリカの新聞では、とっくにデジタル読者数が紙の読者を上回っているそうだが、やはり新聞は紙で読みたいと思うアナログな大使である。
ところで、経営破綻した新聞ばかり75紙も手中に収めたデジタル・ファースト・メディア社の最高経営責任者ジョン・ペイトン氏へのインタビューが興味深いのです。
ジョン・ペイトン氏へのインタビュー
<デジタル最優先の新聞社>
(デジタル朝日ではこの記事が見えないので、2/16朝日から転記しました・・・そのうち朝日からお咎めがあるかも)
ジョン・ペイトン氏
Q:米国では伝統ある新聞が次々と休刊しています。
A:米新聞界は2005年を境に、急坂を転げ落ちています。わずか7年の間に広告収入が半分に減りました。正真正銘の5割減です。もっと緩やかな衰退だったなら、手の施しようもあったでっしょう。でもこれほど激しく急落すると凡百の経営者にはなすすべがない。思いつくのは「コスト削減」と「人減らし」だけ。それが米新聞界の現状です。
Q:あなたの会社の新聞の発行部数は、わずか2年で全米第2位になりました。いったい何をどうやった成果ですか。
A:私が掲げる「デジタルが第一、紙の新聞は最後」という方針が、経営の行き詰まった新聞社の社主や投資家たちに支持された結果です。まず、18紙を抱えたまま倒産したジャーナル・レジスター社の債権者から請われ、2年前、CEOにつきました。ついで昨秋、デンバー・ポストなど57紙を抱えて行き詰まったメディア・ニュース社の経営を任された。グループ全体で従業員1万1千人、刊行先は18州に広がりました。
Q:部数は伸びているのですか。
A:そういうわけじゃない。経営を託された二つの新聞チェーン現有部数を足したら300万部になっただけです。ただ、紙の部数を比べて喜んでも意味は無い。私の会社は毎月、雑誌や週刊誌を含めると紙の刊行物を1600万部出していますが、紙を購読しないデジタル読者は4100万人に達しています。勝負は紙よりデジタルです。現状ではグーグルやヤフーに及ばず、全米で16位のサイトですが、これを5位まで押し上げたい。
Q:紙の新聞を捨てて、デジタル専門のニュース社に脱皮したいと?
A:違います。私は新聞社という陣容のままでデジタルビジネス界に打って出たのです。収益基盤である新聞を捨てるわけがない。私は毎朝、自分の新聞と競合紙を読み比べることに深い喜びを感じます。いま54歳の私が生きている間に新聞が地上から消えてなくなることはない。しかし、産業論で言えば、紙の新聞にもう未来はない。週7回発行の週3回か4回に細り、最後は週1回か休刊するか。それが運命でしょう。だから私は何度でも言うのです。「紙の新聞で育った連中の声にはもう耳を貸すな」と。
Q:あなた自身、紙の新聞で育った一人です。。
A:私はカナダの新聞の事件記者でした。1978年にトロント・サン紙に入り、社会部で犯罪報道に明け暮れました。でも正直に言うと、できる記者ではありませんでした。デスクになって「俺は記者よりデスクのほうが向いているな」とほくそえんでいたら、尊敬する上司から「君はデスクに向いていない」と言われました。「じゃあ私は何に向いているのか」と尋ねたら、「経営をやれ」それで腹を決めました。
Q:記者より経営者の方が向いていたわけですね。
A:もう断然。新興紙オタワ・サンの編集局長をやり、後に社長をやりました。大きく育てたサン紙を売却したら、驚くほどの金が私の口座に入った。まだ43歳でした。農園を買ったフランスでブラブラしていたが、やはり新聞の仕事をやりたい。ニューヨーク圏の外国語新聞を買収して米新聞界に参入しました。
Q:「デジタルが先、紙は後回し」と強調しています。紙育ちの社員に対するショック療法ですか
A:そうじゃありません。真意です。紙の新聞で長年うまくやってきた経営者たちは、だれも消極的な思考に陥ります。「我が社はあと何年持つだろうか」とか、「自分が経営陣の一角にある間だけ持続できれば御の字だ」とか。いま世界中どこの新聞社を訪ねても、紙の新聞を作る部門とデジタル新聞を作る部門が別々に置かれています。そしてどの社も経営幹部は紙育ちです。朝日新聞社もきっとそうでしょう。せっかくデジタルで打って出ると決意した社員がいても、その声は経営中枢に届かない。新聞社で意識改革が進まない最大の原因です。
Q:では、あなたは社員の意識をどうやって変えたのですか。
A:一つは、優れた社員にデジタル特命を与えること。傘下の全新聞社から18人を選抜し、iPadやアンドロイド携帯などの装備と月500ドル(約4万円)の手当てを支給した。「これで何か広告が付くような地元向けの新しいサイトやブログ、携帯向けアプリをつくり出せ」と。期間も1ヶ月に限定しました。
Q:どんな成果が?
A:ある記者は、起きた事件をライブで伝える犯罪ブログを立上げました。強盗事件が発生し、容疑者は逃げ、警察は住民に自宅待機を指示した。現場に出た記者とカメラマンはツイッターとブログを使って、断片情報を約90分ごとに更新していった。刻々と事態が変っていく経過を住民が面白がり、ページビューを稼げましあt。
販売社員は、豪雪地帯に住む購読者向けに、天気予報が降雪を告げた日だけメールを使って電子版を届け、晴れた日は紙の新聞に戻すという購読プランを効果的に宣伝した。雪による不配や遅配の苦情は消え、輸送費も減りました。広告社員は、趣味の馬術についての専門ブログを自社サイト内に立ち上げ、馬に関連した広告を呼び込みました。
Q:それだけでデジタル会社に生まれ変われるとは思えません。
A:ほかにもたくさん試みています。いくつかの傘下紙では編集会議を読者に公開しました。読者を会社に招き、翌日の新聞に何を載せるのかを伝え、読者の要望に耳を傾ける。その模様をネットで生中継するのです。住民からは「今まで近寄りがたい存在だった新聞社が身近になった」と歓迎されています。
Q:あなたの「デジタル最優先」という理念は、日々の報道にどう反映されているのですか。
A:劇的に変りましたよ。例えば昨夏、米東海岸をハリケーンが襲いました。記者たちはまず、襲来がいつごろかという情報を読者に短いメッセージを伝えました。そして災害専用に立ち上げたサイトやツイッターに断片情報をアップしていく。停電や浸水などの情報は住民に寄せてもらう。そういったデジタル用の作業を済ませた後の夕方になって、記者はようやく翌日の朝刊向けの新聞原稿を書くわけです。文字通り、紙の仕事が最後に来るのです。
Q:四六時中、デジタル発信させると、記者が消耗しませんか。
A:忙しすぎるという声は出ました。しかし、いつの時代も革新的な道具が記者の働き方を進化させてきた。タイプライターしかり、ワープロしかり、パソコンしかり。道具に不平を言う記者はどの時代にもいます。いま私たちはネットやツイッター、フェイスブックによる産業革命のただ中にいる。ジャーナリズム存続のためには避けて通れません。
Q:他方、あなたは大量に記者を解雇することで知られています。
A:それは違う。たしかに社員総数は減らしましたが、取材記者は逆に増やしました。この2年間で社員の17%に辞めてもらった。印刷と配送、経理などの部門が主な対象でした。編集と営業に力を集中したいからです。今どき「記者を増やした」と言うと、どの国の新聞人にも驚かれますが、記者こそ増やさなくてはいけない。私の社は、どの街でも競合紙よりも記者の数が多いことで知られています。記者が増えれば、ニュースも増える。ニュースこそ新聞社の商品です。記者の人数で他紙に劣るようではダメ。取材もしないでずっと社内に座っている記者は何も生産していない。「外へ出ろ、街を歩け」と尻をたたいています。
Q:デジタル強化で収益が本当に改善するのか半信半疑です。
A:この2年間でジャーナル・レジスター社は、デジタル読者が2倍に増え、デジタル広告収入は5倍になりました。紙に載せる広告に比べるとネット向けの広告は単価が低いので、米紙幹部たちは「」と嘆き合ってきました。しかし、紙の稼ぎがガタ落ちした結果、デジタルの細かな稼ぎを積み上げると結構な額に届くようになったのです。
Q:あなたの新聞社では、ウォールストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズのようにデジタル読者に課金はしないのですか。
A:報道サイトの有料化には懐疑的です。お金を払わないとニュース全文が読めないサイトはまちがいなく読者を遠ざける。読者が遠のくサイトに広告を出してくれる企業はありません。サイトは無料にして何の壁も設けず、編集会議ですらネットに公開して、徹底的に読者を自陣に呼び込むことが大切です。しかも無料のニュースサイトだけではまったく不十分。記者全員がもれなくニュースブログを書き、ツイッターで発信し、フェイスブックを更新する。紙の新聞には鋭い解説と読みごたえのあるコラムを載せる。それ以外に、新聞社が生き残れる道はありません。
<取材を終えて>
ジョン・ペイトン氏に対する米国内の評価は真っ二つに割れている。メディア研究者やIT企業家らは、「衰退著しい米紙を救う改革者がようやく現れた」と熱い期待を寄せる。対して、既存メディアの幹部らは「ありきたりのネット戦略。とても新聞社の経営再建ができるとは思えない」と冷ややかだ。なかには「倒産した新聞社を安く買ってリストラを済ませては高値で転売するハゲタカ投資家の先兵でないのか」と警戒する声もある。広告より販売収入の割合が高い日本の新聞社とは収益構造が違うため、単純に比較はできない。前例のないデジタル急転換策が果たして軌道に乗るのか、無残な結果に終わるのか。各国の新聞界が注視している。
(ニューヨーク・山中季広)
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朝日新聞のネット記事の一部が有料のデジタル朝日でしか見えなくなり、その被害を被っている大使であるが・・・・
ジョン・ペイトン氏の新聞はデジタル読者に課金はしないそうです。(太っ腹やで♪)