米ブルッキングズ研究所中国センターのケネス・リバソール所長がインタビューで「日米中対話は好機」と説いているので、紹介します。
ケネス・リバソール氏へのインタビュー
<米中不信の時代が来るのか>
尖閣で日中紛争がいつ勃発してもおかしくない状況が生まれているが、米国は領土問題には踏み込むことはないようです。
同盟国アメリカに全幅の信頼を置けない中で、日本は拡大する中国リスクにどう対応すべきか、リバソール氏の意見を拝聴してみましょう。
(デジタル朝日ではこの記事が見えないので、7/21朝日から転記しました・・・そのうち朝日からお咎めがあるかも)
Q:米中が信頼し合うことは難しいのでしょうか。
A:日々の政策課題をめぐる意見の相違が、米中関係全体を揺るがすことはありません。しかし、10年、15年後にそれぞれが何を達成しようとしているかという「長期的な意図」となると、お互いを信用できないのです。軍事面を例にとれば、米国は基本的に中国との紛争は起きないという前提で全体的な政策を組み立てていますが「ヘッジ(最悪の事態への備え)」も怠っていません。
Q:なぜでしょう。
A:米側の不信の背景にあるのは、政治体制の根本的な違いから来る相互理解の難しさです。米国人には、独裁、しかも共産党が主導する政治体制は信用しないという傾向があります。米国の歴史に根ざしたアイデンティティーの問題でもあります。
Q:対中政策の基本ですか。
A:いや、問題があっても米国は双方にとって有益な関係を持つことは可能だし、望ましいことと考え、信頼と協力関係の構築に努めてきました。強く安定した中国が世界で建設的な役割を果たすことを歓迎する―それが米国の基本線です。でも、中国はそれを信用しないのです。
Q:中国側に問題があると。
A:大きな問題は、中国側の主な政策決定者たちが、米国との関係を長期的には、片方の利益が片方の損失になるという、いわゆる「ゼロサム」で見ていることです。当面は対米協調を追及しても、長期的には米国は中国の台頭を邪魔すると見る。だから中国が豊で強い大国になるためには、米国を弱体化させなければならないと考えるのです。そうなると米側も中国の思い通りにさせるわけにはいかないとなって緊張が生まれる。これが根本的な問題です。
Q:しかし、中国側からは、対米関係を「ゼロサム」では見ていないとよく聞かされます。
A:それは表向きの決まり文句であって、私的な会話ではそんなことは言いません。その理由はいくつもあります。
まず、近代史を通じて中国は、世界とは情け容赦のない所であって他国の善意を信じてはいけないという教訓を得ました。米国のような「覇権国」はその地位を自ら進んで明け渡すことはないとも考えています。米国が民主主義を広めようとしていることも理由です。中国は自分たちを狙ったもので、国の統治システムに対する脅威だと考えています。
Q:中国は当面、民主化しないとみているのですか。
A:歴史に「絶対」はありません。しかし、少なくとも私が生きている間に、中国が開かれた民主主義国家になることはないと言えます。民主化への道のりは長く険しいでしょう。中国には民主的プロセスを支持する市民社会が育っていません。しかも中国は大陸です。小国と違って簡単には変われません。
Q:一方で、米中関係の現状は良好だと論文で評価していますね。
A:ええ。(1979年の国交樹立以降)30年以上の関係構築の蓄積がありますし、現在、米政府の各機関は少なくとも週1回は中国側と接触しています。政府間の公式な対話のチャンネルは60以上にのぼります。それは国務省や国防総省にとどまらず、エネルギー省、住宅都市開発省といった役所にも及んでいます。その結果、両国は、個々の意見の相違を経済関係全般やより広い外交関係に広げてはいけないという共通認識を持つに至りました。
Q:それなのに、長期的にはなぜ相互不信となるのでしょう。
A:08年のリーマン・ショック以来、中国の相対的存在は劇的に拡大しました。中国が次々手を打ったのに対し、ほかの国々は躊躇したからです。09年末以降のコペンハーゲン・国連地球温暖化会議での中国の姿勢、尖閣諸島沖漁船衝突事件などを通じて、中国が自らの将来像を、より強い姿勢に出る大国として描いているとの認識が、米国内で生まれました。一方、米国は自らの将来について、それほど明確なイメージを持てなかったこともあり、両国関係に不透明感と不信が募ったのです。
Q:不信感がぬぐえない理由は。
A:まず、歴史的にみて現在は、世界における中国の役割が劇的に変化する節目を迎えているということです。同時に、米国の役割がどの程度変わるのかについて、疑問が呈されています。いずれに関しても将来の見通しは開けていません。両国は世界1位、2位の経済大国で国土も巨大です。しかし、政治システム、文化、近代史の面で大きく異なっています。これまで紛争があまり起きていないことこそ驚くべきです。
Q:具体的な課題は。
A:問題の根底にあるのは、米中両国が長期的な問題を語る際、紋切り型の決まり文句を超えて、具体的な中身に踏み込むことがないということです。たとえば朝鮮半島問題です。私は今後10年間の展開には、非常に幅広い可能性があると思います。北朝鮮が中国型の改革に乗り出すことがあるかもしれません。あるいは、核兵器開発を続けて敵対的姿勢を維持することも考えられます。北朝鮮が崩壊して、米中を巻き込む混乱に陥るかもしれません。さらに南北統一です。どれも可能性としては否定できないでしょう。それなのに、中国とはそのような可能性について全く何も話していないのです。これではお互いが朝鮮半島でどのような目標を持っているかについて、信頼を構築することはできません。両国は「北朝鮮の非核化」には合意していますが、その先は、きわめて不透明なのです。
Q:米国は世界最強国としての優位を守ることを諦め、中国と「パワーシェア(支配権の分担・共有)」をすべきだとの論も出ています。
A:現時点でリーダーとしての役割を果たす能力と意図があるのは米国だけだと思います。中国にしても地域あるいはグローバルなリーダーシップを担うとは言っていません。引き続き米国がこの役割を果たすことが重要だというのが米国の考えです。昨年の日本での津波と原発事故に際しても大きな役割を果たしました。米国がもしこうした役割から身を引いたら、世界の紛争の多くが深刻化し、通商への脅威がより差し迫ったものになると感じています。
Q:日中間では尖閣諸島をめぐって相互不信が募っています。どうしたらよいでしょう。
A:尖閣は難しい問題です。率直に言って答えは持ち合わせていません。領土問題は解決が困難です。とりわけ資源など利権が絡む場合はなおさらです。
Q:日本政府は「日米中」の戦略対話立ち上げを提唱しています。不信解消に役立つでしょうか。
A:米国は現在、日、印、豪などアジアの同盟、友好各国とさまざまな組み合わせで3、4ヶ国間協議、いわゆる「」に参加しています。しかし、中国が加わっているものはひとつもありません。結果として、アジアの分断を助長する傾向を生んでいます。不信軽減のため中国を招くことは重要です。その意味で日米中対話は役立つだろうと思います。
<取材を終えて>
リバソール氏は、米国の中国専門家の中では「穏健派」として知られる。それにもかかわらず、「米中」の将来に厳しい見通しを示した。強大になっても民主化しない中国とどう信頼関係を築き、共存していくか。時代の挑戦を前に呻吟する米国を象徴しているようだ。 難しさの背景にあるのは、中国の二面性だ。米国にとって、政治・安全保障面では脅威となる可能性をはらむのに、経済・通商面ではもはや離れられない濃密な相互依存関係にある。日本を含めた地域諸国からすると、安全保障は米国に頼る一方、通商では中国が最大の相手国という「二重依存」の構図となり、ジレンマが生まれている。
これが、旧ソ連が明確な「仮想敵」だった冷戦時代との根本的な違いだ。さらに、中国の経済成長が依然として上向きなのに対し、日米欧はなかなか低迷から抜け出せないという「国力ベクトルの逆転」という新たな要素も加わる。
こうした中、中国は経済力にものをいわせた軍事力の増強で、西太平洋の安全保障面での優位もうかがっているように見える。一方、米国は、政治、軍事、経済それぞれの分野で、それなりの対中政策を組み立てているが、横串を刺すような包括的戦略を打ち出せないでいる。
これは日本にもあてはまる。対中「関与」と「ヘッジ」の間で揺れているという点で何ら変わりはない。「二重依存」のジレンマを超えて、どう包括的な対中戦略を練り上げるか。日本は政策手段と国力が限られるだけに、米国以上に深い思索と果敢な行動力が求められる。
(編集委員:加藤洋一)
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先日行われたリムパック(環太平洋合同演習)にはロシアも含めて22カ国の海軍が参加したそうだが・・・・
言い換えると、これだけの国が中国の覇権的軍拡に不信感を深めているということである。それにしても、ロシアのバランス感覚がなかなかのものですね。
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