図書館で『文芸ピープル』という新書を、手にしたのです。
日本の現代文学が、いま英語圏で注目されているのはなぜか?・・・読むしかないでぇ。
【文芸ピープル】
辛島デイヴィッド著、講談社、2021年刊
<「BOOK」データベース>より
著名な賞の受賞、ベストセラー…、日本の現代文学が、いま英語圏で注目されているのはなぜか?アメリカ、イギリスの翻訳家、編集者、フェス運営者、デザイナーなど、本づくり&文芸に関わる人々=文芸ピープルを取材し、その声と仕事を伝えるルポ・エッセー!
<読む前の大使寸評>
日本の現代文学が、いま英語圏で注目されているのはなぜか?・・・読むしかないでぇ。
rakuten文芸ピープル
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終章で柳美里『JR上野駅公園口』を、見てみましょう。
p185~188
本書の最後に2020年11月上旬以降の最新動向を紹介し、その先にも目を向けたい。
<柳美里『JR上野駅公園口』の全米図書賞受賞>
2020年11月、柳美里『JR上野駅公園口』の英訳(Tokyo Ueno Station モーガン・ジャイルズ訳)が、アメリカ四大文学賞のひとつである全米図書賞の翻訳文学部門を受賞した。
全米図書賞の翻訳文学部門は、イギリスの国際ブッカー賞とならび、英語圏で最も注目度の高い翻訳文学賞だ。アジア圏文化の推進を目的とする「アジアン・アーツ・イニシアティブ」の代表で選考委員の1人の石井アンは『JR上野駅公園口』は「日本の全貌を解き明かす」重要な作品だという。
「アメリカでは、表象(representation)は重要だ」と、ことあるごとに言われてきました。朝鮮半島に出自を持ち、日本語が読める私のような人間にとって、柳美里の作品、そして彼女がモーガン・ジャイルズと共に全米図書賞翻訳部門を受賞したことは、私のアイデンティティーさながら、「二重(double)」に意義深いものに感じられます。
なぜなら、日本が自らの「文化的誇り」なるものを世界にアピールし、アメリカが自らの「多様性」なるものを世界にアピールする一方で、日本においては見過ごされてきた者たち、そしてアメリカにおいてはあまり知られることのなかった者たちの声が、祝福されるようなことはこれまでなかったからです」。
日本語からの翻訳作品が同賞の最終候補に残るのは3年連続。受賞は2018年の多和田葉子『献灯使』(The Emissary マーガレット・満谷訳)に続く2回目だ。
2018年の『献灯使』も、2019年に最終候補に選ばれた小川洋子『密やかな結晶』(The Memory Police スティーブン・スナイダー訳)も、英語圏の文芸コミュニティーで既に評価の定着しつつある著者とベテラン翻訳家のコンビの、長年にわたるパートナーシップの賜物だ。
一方、柳美里とモーガン・ジャイルズのコンビは、いずれも英語圏では(日本文学研究者や翻訳家コミュニティーの外では)無名に近い存在だった。
モーガン・ジャイルズは、「ブリテン諸島出版見聞日記」でも触れた、英国文芸翻訳センター(BCLT)のワークショップの常連メンバー。参加者たちによる翻訳作品集Book of Tokyoでは、山崎ナオコーラの短篇「お父さん大好き」(Dad,I Love You)を訳している。だが、単行本の翻訳はこの『JR上野駅公園口』が初めて。その本作で、2019年の英国作家協会主催のデビュー翻訳賞を受賞している。
柳美里の作品は、2002年に『ゴールド・ラッシュ』の英訳(Gold Rush)がアメリカで刊行されている。翻訳を手掛けたのは、小川洋子作品の訳者でもあるスティーブン・スナイダー。刊行後に日本で一緒に山道を30キロ走ったり、小説『8月の果て』のもとになった話について意見を交わしたのがよい思い出だと振り返る。だが、Gold Rushを出した出版社が倒産してしまったこともあり、2冊目の刊行が続かなかった。
「柳美里は、日本で差別を受けている人たちの立場を代弁する重要な役割を担ってきました。モーガン・ジャイルズにより見事に訳された『JR上野駅公園口』が世界的に注目されていることを、とてもうれしく思います」と語る。
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以前読んだ『JR上野駅公園口』を紹介します。
【JR上野駅公園口】
柳美里著、河出書房新社、2014年刊
<「BOOK」データベース>より
東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのため、上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国をー。構想から十二年、柳美里が福島県に生まれた一人の男の生涯を通じて“日本”を描く、新境地!
<読む前の大使寸評>
著者は南相馬市のFM放送で週一回のパーソナリティを務めているそうである。
毎度のことではあるが・・・
虐げられる者、ハンデキャップを持つ者に寄り添う著者のスタンスがいいではないか。
rakutenJR上野駅公園口
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『文芸ピープル』2:村田沙耶香作品の2冊目
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