図書館で『サイエンス・ブック・トラベル』という本を、手にしたのです。
【サイエンス・ブック・トラベル】
山本貴光著、河出書房新社、2017年刊
<「BOOK」データベース>より
“いま”と“これから”がわかる。気鋭の科学者ら30名が自然科学の眼差しで捉えた世界の姿!!
【目次】
1 宇宙を探り、世界を知る(この世界の究極の姿は何か?/人はなぜ宇宙を探るのか?/光より速く進むことは可能か? ほか)/2 生命のふしぎ、心の謎(心はどこにあるのだろうか?/動物はどんなふうに働いているのか?/生物は、細胞は、果たしてどう進化してきたのか? ほか)/3 未来を映す(私たちが“身体性”を備えるとはどういうことなのか?/科学的な思考とは何か?/未来の医療はどうなるだろうか? ほか)
<読む前の大使寸評>
追って記入
rakutenサイエンス・ブック・トラベル
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「進化」が語られているので、見てみましょう。
p50~52
<07 進化とは何か?:長沼毅>
この宇宙においてもっとも不思議な存在は「生命」である。その生命においてもっとも不思議な特徴は「進化」である。この地球に生命が生まれて進化し、やがて人間が生まれてついに宇宙のことを考えるようになった。その宇宙観が正しいかどうかはともかく、せいぜい1リットルちょっとしかない脳の中に、考えうる全宇宙の広がりと歴史が入ってしまったのだ。宇宙の立場に立つと、宇宙は自分の中に「宇宙のことを考える存在」が現れてウレシイと思うだろうか。
私たちが知っている生命は子孫(遺伝子)を残すことに全力を注ぐつつ進化して、宇宙の中で宇宙のことを考える存在(人間)をつくった。その人間の宇宙認識は、古代インドや古代ギリシャの天文学や宇宙論から現代宇宙論へと発展し、宇宙のはじまりや超々銀河団などの大規模構造まで理解できるようになった。
自分が何かを認知していることをわかっている。そんな客観的な認識を「メタ認知」という。その文脈で言えば、宇宙のことを認知している人間は「宇宙におけるメタ存在」とも考えられる。そのメタ存在たる人間は、自分を生み出した「進化」について、どのようにメタ認知してきたのだろう。残念ながら、進化が正しく理解されるようになったのは19世紀半ばになってからだ。
ダーウィンの『種の起源』(1859年)が出版されたのはガリレオの『天文対話』の227年後、ニュートンの『プリンキピア』から172年も経ってからのことである。そして、実はいまでも、進化はまだ多くの人に正しく理解されていない。
これは由々しき事態である。なぜなら、自分が「どこから来て、どこへ行くのか」を知ること、そして、その原理を知ることで、人間自身をより正しく知り、より良い未来を拓くことができるからである。
ダーウィンは『種の起源』できわめて明快な進化論を提唱した。それは「自然選択」という原理によって生物は複雑化し、種は多様化し、進化する、というものだ。ただ、発表当時は、知識人や一般大衆からの反発がものすごかった。
ダーウィン自身は病弱だったので、「ダーウィンの番犬(ブルドック)」と称されたハクスリーがダーウィンの代わりに進化論の普及に努めた。ダーウィンもハクスリーも亡きいま、ダーウィンの時代には知られていなかった「遺伝子」を引っさげて、現代の「ダーウィンの番犬(ロットワイラー)」が新しい進化論(総合説)の普及に励んでいる。
その人物こそ、著者のリチャード・ドーキンスである。本書はドーキンスが50歳の時(1991年)に行ったクリスマス・レクチャー(英国科学実験講座)の5回の名講演を再現したもので、なんと全世界に先駆けて日本で2014年のクリスマスに出版されたものだ。講演から出版まで23年の時間差があるが、その内容はいささかも古びていないし、むしろ、いまだにヴィヴィッドなくらいだ。でも、それは逆に言うと、この23年間というもの、ドーキンスの尽力にもかかわらず、いまだに「進化論」がきちんと理解されていないということである。
なぜ進化論はきちんと理解されないのか。それは正しい進化論が冷たくみえるからだ。進化論が依って立つ二大要因、すなわち「遺伝子の突然変異」は無目的・無方向であり、それに方向性を与える「自然選択」も無慈悲で機械的なのだ。だから、正しい進化論は冷たくて温かみがないのである。では、正しくないが温かみのあるニセ進化論とは何か。キリンを例にして説明しよう。
進化についてよく話題に上がるのは「キリンはなぜあんなに首が長いのか」である。ニセ進化論では「高いところの葉を食べるために」というソフトな目的論で答えてくれる。多くの人々は“人生の目的”とか“生きる意味”をわかりやすく求めるから、こういう生ぬるい答が欲しいのだし、それで満足してしまう。
それに対して、正しい進化論では「たまたま首が長くなった個体が高いところの葉を食べるようになった結果、よりよく子孫を残したから」という結果論で説明する。そう、正しい進化論はハードな結果論なのだ。そこには“人生の目的”も“生きる意味”もない、殺伐とした風景しかみえない。
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お薦めの3冊
1 リチャード・ドーキンス『進化とは何か』
2 フランク・ライアン『破壊する創造者』
3 ピーター・D・ウォード『生命と非生命のあいだ』
『サイエンス・ブック・トラベル』1