図書館で『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』という本を手にしたのです。
巻頭のカラー写真の数ページを眺めると、確かにおぞましいというかヤバい感じを受けるわけで・・・高野さんの胃腸はどうなっているのかと思ったのです。
【辺境メシ ヤバそうだから食べてみた】
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高野秀行著、文藝春秋、2018年刊
<「BOOK」データベース>より
人類最後の秘境は食卓だった!食のワンダーランドへようこそー辺境探検家がありとあらゆる奇食珍食に挑んだ、驚嘆のノンフィクション・エッセイ!
<読む前の大使寸評>
巻頭のカラー写真の数ページを眺めると、確かにおぞましいというかヤバい感じを受けるわけで・・・高野さんの胃腸はどうなっているのかと思ったのです。
rakuten辺境メシ ヤバそうだから食べてみた |
「Ⅲ章 東南アジア」からアジア納豆を、見てみましょう。
p122~124
<絶品! 納豆バーニャカウダ>
納豆は日本独自の伝統食品だと思い込んでいる人が多い。かくいう私もその一人だったが、実は中国南部から東南アジアの内陸部、さらにはヒマラヤまで、納豆を食べている民族がいることを知って驚いた。結局、アジア大陸諸国の納豆を調べ回って本を一冊書いてしまったほどだ。
私はこれらを「アジア大陸納豆」、略して「アジア納豆」と呼んでる。アジア納豆は日本納豆とは作り方がちょっとちがう。日本では伝統的には稲わらで煮豆を包んで発行させるが、アジア納豆は大きな木の葉で包む。バナナの葉やシダ、パパイヤの葉で包むところもある。どんな葉で包んでも二、三日経つと、ネバネバと糸を引く、あのくさい匂いのする納豆ができあがる。
確認のため、ミャンマーとブータンの納豆を持ち帰り、東京都立食品技術センターで検査してもらったところ、作用している菌は日本の納豆菌と「ほぼ同じ」という結論をえた。要するに納豆菌はどこにでもいて、稲わらを含め、どんな植物で煮豆を包んでも納豆になってしまうのだ。
さて、アジア納豆の食べ方はどうなのか? これが日本の納豆とはだいぶ異なる。というより、アジアの納豆民族のみなさんは日本の納豆を見ると、首をひねる。「どうしてナマでしか食べないの?」「どうしてご飯にかけて食べるだけなの?」
実際私はミャンマーの少数民族であるシャン族出身で、東京に長く住んでいる人にそう訊かれて絶句してしまった。彼曰く「私たちシャン族は、納豆を生だけじゃなく、焼いたり煮たり蒸したりして食べてるんですよ」。
衝撃である。だって、考えてみてほしい。もし魚を生でしか食べないという民族がいたら、どう思うか。「まだ文明化されてないんじゃないか?」と疑いかねない。つまり、、私たち日本人は“納豆後進国”の疑いさえ持たれているのだ。
では、逆に“納豆先進国”はどこなのか? 私が調べたかぎりでは、納豆料理が最高度に発展しているのは前述のミャンマー、それもシャン族が住むシャン州だ。シャンの人たちは新鮮なものは生のままでも食べるが、多くの場合、豆を臼で潰して平らに伸ばしてから天日干しにし、薄焼きせんべいそっくりのものを作る。保存がきくからだ。
このせんべい納豆はそのままひに炙っておやつにしても香ばしくて美味しいが、砕いて粉にすると、調味料に早変わりする。汁物でも炒め物でも何でもその納豆粉を入れてしまう。納豆はアミノ酸を多量に含んでいる、言わば「うま味の固まり」だから、どんな料理に入れてもダシが出ておいしくなる。
シャンの人たちが日常的に食べる料理で、しかも私が「世界の納豆料理ベスト3」に入れたいと思うのは、「納豆と川海苔のディップ」。
まずせんべい納豆を揚げ、それを川海苔、ピーナッツ、ニンニク、生姜、ネギ、パクチー、湯むきしたトマト、茄子、炒めた唐辛子と一緒に石臼に入れ、丁寧に潰す。最後に納豆を揚げた油を少し垂らし、水を加えるとディップ(タレ)が完成。そこに茹でた野菜や生野菜をつけて食べる。納豆バーニャカウダとも呼べる。
これは絶品の一言。納豆独特の風味はしっかり残っているのに、川海苔などと合わせているせいか、なんとも爽やか。粘り気はないが代わりにコクとうま味が凝縮されている。これほど体によさそうで、でも食べ応えのある料理はない。しかも、初めって食べる外国料理なのに無性に懐かしい。限りなく和食に近い、いや和食の斜め上を行く料理とでも言おうか。
残念ながら、日本人は納豆のごく一部しか知らないと、つくづく思った。でも、同時に納豆の恐ろしいほどの可能性を知って感動してしまったのだった。
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納豆といえば・・・かつお節とともにご飯の上に乗せてかき混ぜて食べるものと、バカの一つ覚えであったが、今後はシャン族風にアレンジしてみるのも一興であるなあ。
『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』3:エチオピアの珈琲道
『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』2:デーツ
『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』1:はじめに