図書館で『宇宙へ』という本を、手にしたのです。
著者は神戸市生まれの理系女性で、宇宙エレベーターに関するハードSFを書いているのがええでぇ♪
【宇宙へ】
福田和代著、講談社、2012年刊
<「BOOK」データベース>より
【目次】
職業メンテナンスマン。仕事場は、宇宙!2031年、原田拓海は宇宙へ上がる。天に向かい、まっすぐ伸びていく“宇宙エレベーター”で。誰もが宇宙へ行ける時代の到来。夢のその先には、誰も味わったことのない未知なる“お仕事”が待っていた。 遙かなる宇宙の歌/メンテナンスマンはマタ・ハリの夢を見るか?/アストロノーツに花束を/わが名はテロリスト
<読む前の大使寸評>
著者は神戸市生まれの理系女性で、宇宙エレベーターに関するハードSFを書いているのがええでぇ♪
rakuten宇宙へ |
なにはともあれ「プロローグ」の語り口から、見てみましょう。
p4~5
<プロローグ>
船はずいぶん沖合まで来た。
上下する波と、エンジンの振動が全身を心地よく揺さぶる。
出港は昨夜の午後8時だった。宵闇を透かしても、海の向こうにはときおり行きかう船の灯火しか見えなかった。原田拓海は、船室のリクライニングする座席に座り、毛布を身体に巻き付けてほんの少しだけ眠った。緊張と期待が高まり、おまけに座席は拓海の体格には窮屈で、うとうととしたと思えばすぐ目覚めるような浅い眠りだ。
夜明けが待ち遠しかった。
じりじりとして、待っていた。
窓から光が射しこむと、もうじっとしていられなかった。
「おい・・・真人。デッキに行くぞ」
隣の座席で眠っている篠原真人を揺さぶり起こす。真人のやつは、こんな時でも平気な顔をして、ぐっすり眠ってやがったのだ。
「うん?・・・なんだ、えらく早いな」
真人は腕時計を見て、呆れたような顔をした。
冷たい風が吹き付けるデッキに出ると、先客の姿がちらほら見える。拓海と同じように、到着を待ちきれず波濤のかなたを眺めているのだ。みんな、水平線の向こうに目をこらしている。
「あれか・・・!」
思わず声に出して叫んだ。
それはある意味、異様な光景だった。
きらきら輝く水平線のかなたから、直立して天に向かう四本のケーブル。
まっすぐ、まっすぐ・・・どこまでも伸びるケーブルの終着点がどこにあるのか。正確に知っている人間は、まだ少ないかも知れない。
拓海はデッキの手すりにしがみつき、もっとよく見ようと身を乗り出した。
「興奮して海に落ちるなよ、拓海。おまえ、それでなくても背が高いから、バランス崩して落ちそうなのに」
真人が冷静な表情で双眼鏡を渡してくれる。こいつは端正な二枚目で、いつだってクールぶっているのだ。
「おまえ、よくそんな平気な顔で見ていられるな。あれを! あんなすごいものを!」
「だって俺は、一年も前からあそこで働いてるんだぞ。何回も見ているからな。今度だって、休暇で1週間ちょっと離れただけだし」
真人のやつの言い草に、拓海は軽くむっとする。自分は、これから初めてあの場所に向かうというのに。
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