歩く ルイス・サッカー
米国で人気のある作家ルイス・サッカーの本を、読んでみた。初めて読む作家だが、物語の展開のうまさ、スピード感に圧倒された。児童文学の括りに収めておくのは勿体無い、大人が読んでも充分に楽しめる作品だった。茶目っ気たっぷりで肩肘張らず、リラックスして読めるのがいい。きっとこんな本なら、どんなに本嫌いの子供でも、夢中になって読んじゃうだろう。アメリカ南部独特のほら話のスパイスが効いて、ユーモラスな会話と肝冷やすようなスリリングな冒険。そして、ラブロマンスが色を添えてくれる。気がつくと、一気に読んでしまった。米社会に根付く人種差別やドラッグ問題等、避けて通れない苦い背景も織り込みながらも、読む人に、明るい希望の光を与えてくれる。この本のテーマである「人生の中で、小さな一歩を踏みしめていくことの大切さ。」が、じんわりと身にしみて感じられる。主人公アームピット(セオドア)とジニー、二人の友情が、爽やかで胸が熱くなる。子供達は純粋で、偏見と欲に眩んだ大人達が見失ってしまった大事なことを、失くさずにしっかり持っている。人を信頼し、互いに支えあえる存在があるって、素敵なことだ。アームピットは、更正施設出身で、社会から見れば少々問題ありの危険な少年なんだけど、本当は心根の優しい人間だ。混じりっ気のない目で人を見れる、ハンデのある人への本当の思いやりが何であるかを、理屈でなくわかっている聡明な子供だ。彼の親は、過去の素行から、現在の等身大の彼をきちんと計れない。親には、どうしても、こんな部分がある。自分の子供には責任があるがゆえに、力が入りすぎて本当の子供の姿が見えなくなる矛盾。この部分は、自戒を込めながら読んだ箇所だなぁ。メキシコと国境を接するテキサス州・オースティンは、古くは奴隷制の歴史があったアフリカ系アメリカ人が多く暮らす街。更正施設出所者の再犯率73%という数字に、彼らへの偏見もある中で、決して公平でない人生を、一歩一歩大地を踏みしめるように進む主人公の姿に、励まさせる若者も多いだろう。人生はいつからでも、やり直せる。ゆっくりと進めばいい。この本は、子供たちの背中をしっかりと押してくれる。金原瑞人氏&西田登氏の訳も秀逸。ノリノリのラップ、ロック歌詞のパンチが効いていた。アームピットが数々の経験を積んで、それまでの険しき人生を切り開いていく姿は、爽快!この作品は、著者の「穴」(HOLES)のスピンオフだそうで、前作の「穴」も読んでみたいと思う。ISBN 978-4-06-214040-9 SMALL STEPS Louis Sachar