カカオ80%の夏 永井するみ
高校2年生の女の子が、夏休みに書置きを残して失踪する。同級生の友人が、彼女の消息を辿る、軽快なミステリー。巧妙な罠にはまり、知らず知らずに犯罪の片棒を担がされている女子高生の姿に、冷や冷やしてしまった。所謂お嬢様校の都内私立高校に通う子が、大人のいいように利用されていることに気付かず、あまりにも行動が無防備なのだ。若い子には、(そして特に女の子には)普段のなにげない生活の中に、罠は潜み隙を狙っていることを忘れないで欲しいと思う。同じ年頃の子供を持つ親の立場で、この本を読むと色々考えさせられる箇所がある。道端で手軽に入手でき、若年者間でもじわじわと広がるドラッグ。主人公がイザと言う時に頼るのが、肉親でなく、他人なのだ。それも、ネット上で知り合ったばかりの素性もまだよく飲み込めてない相手だったり。これはなんだか、切ないと感じた。たまたま相手が良心的で運よく事件が解決して行くのだが、実際はこの物語とは程遠いものだろう。主人公の凪は、仕事で不在がちな母親や離婚して米国在住の父親は、端から当てにしていない。また、出来ないのだ。経済的にも不自由なく暮らしているし、一人で立っていける独立心旺盛な子でも、心の奥底はやっぱり寂しさを抱えている。渋谷のお洒落なバーのマスターに食事を作って貰い、癒される凪。緊迫した状況下で友人を追う時もサポートしてくれる優しく包容力のあるバーのマスターなんて、物語上は存在しても、そんな都合のいい人間は現実にはいないだろう。しかし一人では無力でも、関わる人の温かい協力を得て、真相に迫っていく過程は面白かった。少々ご都合主義的な部分を割り切って読み進めると、軽快で爽やかな筆致の青少年向けミステリとして楽しめる。