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カテゴリ:いま生活者の求めるもの
ある意味で日本の近代のエンタメ産業の草分けは東宝である。 戦後の混乱期の娯楽として爆発的な人気を博した映画産業は、東宝に代表される企業が牽引した。大映は、一時期は6割配当(!)していた時期があるそうだ。 しかし、東宝は労働争議を転機として、映画製作のための俳優や監督、カメラ、美術などの社員を別会社化し、本社は作品の選択と映画館という系列チャネルに映画ソフトを流通させる興行機能に徹するという改革を断行した。その前まではあの黒澤監督や有名な俳優達も東宝の社員だったそうである。 その改革の特徴は、系列外の独立プロダクションからの作品も受け入れ、系列内の会社の作品と同列に評価して売れそうな作品だけを自社の系列映画館に流す点だ。 いわばオープンな競争原理の導入である。東宝に作品を提供する製作会社は120社にのぼった。その提供作品の中から年間数本の大ヒットがあれば、十分な利益を上げることが出来る構造だ。 つまり、映画製作とそれを選別し、興行を行う機能とを分離したのである。これにより、東宝は生き残ることが出来た。
さて時は流れ、それから約30年を経て昭和から平成に変わり、1980年代から1990年代にかけて全く同じ事業構造を確立して莫大な利益を上げた会社がある。
ファミコンで一世を風靡した任天堂だ。 ファミコンは日本ではいわずと知れた家庭用ゲーム機の草分けだ。ファミコンというハードで利益をあげるのではなく、各家庭にあるファミコンという系列チャネルにゲームソフトを流す事業を開発したのである。 ・・・なんと、実によく似た事業構造ではないか。 しかも、ゲームソフトを企画開発して提供した会社は約120社という。それらからの提供ソフトのうち、年間数本ヒットが出れば大儲けだ。あまりにも東宝との共通点があり、驚くばかりである。 もっというと、東宝と比べて、ファミコンハードという系列チャネルをお客様に投資させた点でよりすごいビジネスモデルだ。ハードで利益を出さなくても良いわけである。
このようなエンタメソフトの提供を受け、選別して自社の系列チャネルに乗せて、天秤にかけ売れるものだけを売り続ける産業を私は「天秤産業」と呼んでいる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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任天堂に限らず売れ行きに胡座をかかないで
欲しいと思う時があります。 欲しい時に手に入らず宣伝だけは流しっぱなし で泣いてる子供もいます。 ユーザーに子供が含まれる商品には注意が必要と 思うのですが・・ (Sep 11, 2006 12:47:16 AM)
エナジャイザー akiraさん
>講義を無料で受けさせていただいている感覚です。 ----- 僕もakiraさんとまったく同じコメントが、 頭に浮かびました。 「タダでいいんすか?」って感じです。 イニシアさん、今後もいろいろ教えてください<(_ _)> (Sep 11, 2006 08:21:18 AM)
任天堂に労働組合がないのは、製作部分を外に出しているからってのもあるのですね~
やっぱり、製作部分が一番大変な「労働」でしょうから・・・ 東宝がそんなだとは知りませんでした。 阪急東宝グループの社員だったのですが・・・私。 (もう10年以上前の話ですが・・・) (Sep 11, 2006 08:32:28 AM)
以前、テレビで見たのですがソフト開発担当室の方たちは一日中テレビを見たり物凄い量の漫画本を読んだりしているのだそうです。それでインスピレーションをということらしいです☆
4~5人の大人がそうしている光景はちょっと異様な感じを受けました。 (Sep 11, 2006 11:58:40 AM)
エナジャイザー akiraさん
>また、10月にお会いできることを楽しみにしております!! ----- はい、とても楽しみですね。 よろしくお願いいたします。 (Sep 11, 2006 12:34:30 PM)
四季咲ネムの木さん
>ユーザーに子供が含まれる商品には注意が必要と >思うのですが・・ ----- そのことは任天堂さん固有ということではなく、エンタメ産業全体に対して私も感じているところです。 受け手は、単なる楽しみのための「よこマズロー」なのですが、提供側は「たてマズロー」的視点で、ビジネスを企画・実行して欲しいですね。 単なる自分たちの生存の欲求のためのビジネスなのか、自己実現なのか、社会貢献なのか・・・どのレベルでモノを見るかでビジネスが違ってくると思います。 永く続くためには、社会貢献的な視点が必要ではないかと思いますね。 良いご指摘をありがとうございました。 (Sep 11, 2006 12:39:03 PM)
峰松大介さん
>イニシアさん、今後もいろいろ教えてください<(_ _)> ----- いえ、いつもこちらこそ色々と教えていただいていますので。。。 (Sep 11, 2006 12:40:03 PM)
ユウコ6077さん
>東宝がそんなだとは知りませんでした。 >阪急東宝グループの社員だったのですが・・・私。 >(もう10年以上前の話ですが・・・) ----- そうですか!! 阪急東宝グループでしたか・・・ 東宝が「東京宝塚」の略と知っている人は少なくなりましたね。 (Sep 11, 2006 12:41:56 PM)
いつも、すばらしい含蓄のある論評の数々。
誠にありがとうございます。 いつも何度も読み返し、しっかり勉強させていただいております。 さて、私は、この事業構造はサービスソフトを売る業界で 共通している事業構造だと考えています。 古くは、NECやIBMがハード仕様を公開してシステムサービスとしての付加価値を高めていったというビジネスモデルから、 今や壮大な面積のテナントで日銭を稼ぐ百貨店やGMSまで。 エンタテイメント軸でのビジネスモデルを応用した業界は、考えてみれば枚挙に暇ないかもしれません。 共通していえることは、“コト”=“時間消費”を コアコンピダンスとしていることだと思えてしまうのですが・・・ あくまで個人的な意見ですので、ご笑納いただきますと幸いです(^^;)。 (Sep 11, 2006 12:55:03 PM)
junpapakazuさん
>さて、私は、この事業構造はサービスソフトを売る業界で >共通している事業構造だと考えています。 > >古くは、NECやIBMがハード仕様を公開してシステムサービスとしての付加価値を高めていったというビジネスモデルから、 >今や壮大な面積のテナントで日銭を稼ぐ百貨店やGMSまで。 > >エンタテイメント軸でのビジネスモデルを応用した業界は、考えてみれば枚挙に暇ないかもしれません。 > >共通していえることは、“コト”=“時間消費”を >コアコンピダンスとしていることだと思えてしまうのですが・・・ ----- こんにちは ありがとうございます! さすがですね! ここに来てコメントいただける方のレベルがとても高いので、話題がすぐに次の展開に入ってしまいますね。(汗) (実は一瞬、最後尾に「百貨店、コンビニ、携帯電話・・・」と書いてすぐ消したのをご覧になりましたか?(爆)) ご指摘のとおり、天秤産業はエンタメ産業の成り立つためのモデルですが、しかし、エンタメ産業の専売特許ではなく、あらゆるサービス・ソフト業界が「よこマズロー性」つまり、エンタメ性が高まるときに天秤産業化が必要になるのです。 さらに詳しくは次号にて・・・・・(笑) (Sep 11, 2006 01:38:44 PM)
イニシアさん
お褒めいただきまして光栄です。 >----- >こんにちは >ありがとうございます! > >さすがですね! >ここに来てコメントいただける方のレベルがとても高いので、話題がすぐに次の展開に入ってしまいますね。(汗) >(実は一瞬、最後尾に「百貨店、コンビニ、携帯電話・・・」と書いてすぐ消したのをご覧になりましたか?(爆)) ミクロ視点では、GMSの棚に並んだ食玩、 プロモーション視点では、あのADKがプロデュースする“ガンダム”(サンライズはADKの子会社) インフラありきの軸では、携帯に付随する基地局インフラから携帯ショップ、(Docomoショップを運営する企業をみれば一目瞭然)着うたなどの携帯コンテンツ、 忘れてならないApple iTunes・・・ i PodやMac Book、そしてブロードバンドは、極論すれば、iTunesの受け皿ですからね・・・ Tower Recordsの倒産も、天秤のバランスを崩してしまった、と考えると至極納得できます。 ユーザーは時間消費を求めているのであって、 CDやDVDのプラスチックの円盤を買いに来ているのではないですよね(爆)。 > >ご指摘のとおり、天秤産業はエンタメ産業の成り立つためのモデルですが、しかし、エンタメ産業の専売特許ではなく、あらゆるサービス・ソフト業界が「よこマズロー性」つまり、エンタメ性が高まるときに天秤産業化が必要になるのです。 実は、住宅というのも同じ“コト”なのです。 それに気づいている企業が増えてきただけに、 現在、極貧予算のなかで戦っています。 > >さらに詳しくは次号にて・・・・・(笑) 次回がとても楽しみです。 ぜひ、直接御社にお伺いさせていただきたいのですが、 距離の差はいかんともしがたく、なかなか東京に行けません。 ----- (Sep 11, 2006 06:59:35 PM)
junpapakazuさん
>イニシアさん >お褒めいただきまして光栄です。 ----- いやあ、すっかりお株を奪われました!!(爆) ご指摘の点はすべてそのとおりです。 考えている事例が重なっているものもありますが、私の気づかなかった事例もあるので、まとめて共著ということで次号を編集させていただきます! (Sep 11, 2006 07:11:17 PM) |