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2020年02月04日
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カテゴリ:鈴木藤三郎

駿河みやげ(国府犀東 斯民第1編第10号明治40年1月23日発行 38ページ~ )

 

駿河みやげ(報徳行脚) その1

駿河みやげ(報徳行脚) その2

駿河みやげ(報徳行脚) その3

駿河みやげ(報徳行脚) その4  


駿河みやげ(報徳行脚) その5


駿河みやげ(報徳行脚) その6

駿河みやげ(報徳行脚) その7



◎朝食を追えて服装を理(おさ)め、玄関に出れば、農場をめぐるの用意にとて、馬4頭静かにわれらを待つ。大鈴木氏その一に乗り、岡田氏その次の一に乗り。われまたその次の一に乗る。馬背得々として出で立つ。

◎さきに登りし丘に行き、南方なる一丘に馬をつなぐ。小林ありて林外に一亭あり、林中に小神祠を置き、そのかたわらに古石碣(いしぶみ)あり、『柾薗貞純親王塔』と鐫(せん:彫る)す。
更にそのかたわら近くに一碑を建て、鈴木氏その由来を書してこれに刻す。白石氏そを写し取れるに曰く、『古塔発見記。明治三十七年十月。余初巡視農園。距御嶽神社二町。得一大石于竹林中。抜地五寸。則令人発掘、陰々有文。桃園貞純親王塔七字。或曰此石元在神社境内。或曰昔時有計埋塔者。今不知其何故。然至塔之為神社域中之物。復実不可争也。則更移之于茲云。明治三十八年四月鈴木藤三郎』と。

◎前宵桃園貞純親王の事、端なく話頭にのぼる。中川望氏曰く、『我が家、もと中川瀬兵衛に出づ。系図によれば遠く貞純親王に出でぬという』と。奇なるかな、期せずしてその後裔たる中川望氏が端なくもその祖先の古塔に礼するの機を得たらんとは。


◎農場を望めば、茶圃つゞき、茶圃連なり、上に富士の霊山厳然たり。丘下に瀑園の流崖に迫って急灘(きゅうたん)を激せしむ。再び馬に登って農場に向かう。途中、鈴木氏その馬をとめて下方を指し、『定輪寺の旧地域は、昔時この辺にも及びしが、今は挙げて農場の中に入る』といいて、寺が一山を隔つるを指し教ゆ。

◎宗祇法師が終焉の地は、桃園山定輪寺に在りしと聞きしが、さてはこの地すなわちこれなりしか。たゞ赴きてその墳を弔い得ざりしを惜しむのみ。宗祇の辞世に曰く、『はかなしや鶴の林の煙にも立をくれぬる身こそうらむる』と。自画賛に曰く、『うつしをくは我影ながら世の憂きも知らぬ翁のうらやまれぬる』と。俳諧に曰く、『世にふるはさらにしぐれのやどりかな』と皆定輪寺に伝えられぬべし。義経の頼朝に対面したる黄瀬川も、程遠からぬ地なるべきか。

※定輪寺(じょうりんじ)は、裾野市桃園にある。弘法大師空海が開創したとされ、清和天皇の第2皇子貞純親王が桃園山定輪寺と名付けた。当初は真言宗の寺だったが、永享12年(1440年)に曹洞宗に改宗した。寺は室町時代の連歌師宗祇と深い縁があり、箱根湯本で客死した連歌師宗祇の墓や句碑が置かれ、直筆の写経も伝わっている。

◎馬隊は先に立てよという。予ら馬背の一群先に立ちて農場をめぐる。一小屋あり四面ガラス戸にて、報時鐘(ほうじしょう)などをもそこなる尖頭にかけたり。牛舎をもめぐりしその小屋ある処に憩う。農場監視の場なりとか。茶圃の間を行きぬ。黄牛斑牛そこらに遊び、桃林牛を放つの趣きあり。行き行きて地ますます高し。宛然たる裾野なり。農場の最高処にあたる。地を界するに桜樹一列をもってす。旧この地を経営したる静岡武士が武士の誇りとして植えたるものならめ。右に大野が原を望む。茶褐色にして林木薄黒し。上に富士山咫尺(しせき:距離が非常に短いこと)の前に直立して手に攀(よ)づべきを覚ゆ。馬背得々として引き返す。

◎午餉(ごしょう:昼飯)をおえぬ。汽車発着の時刻も迫りたればとて、倉黄(そうこう:慌てて)暇を告げて立ち出ず。鈴木氏馬背に鞭を横えて来り送る。我が馬その後に従い、一馳せすこぶるはやし。心もとなき馬術なれば、跳ね落とされんとするもの数回、瀑園の南、橋上馬を立てゝ劉備の渓関を飛び越えし当年を想う。馬一散に駆け出して停車場近し。一行皆列りて汽車の発すること間髪をいれず。『サヨナラ』の一声、車轆々(ろくろく:音を立てて走るさま)たり。     (をわり)





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最終更新日  2020年02月04日 04時58分45秒



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