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2016.12.05
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カテゴリ:古代ギリシア
古代世界において、至高の詩人と讃えられたピンダロス。その現存する作品を収めた『祝勝歌集/断片選』を読み終えました。祝勝歌というジャンルには初めて触れますが、取り扱われている神話が壮大であり、詩の至るところに現代においても通ずるような思想が散りばめられていたので、非常に楽しく読むことができました!


ピンダロスの祝勝歌は、基本的には競技祭で優勝した個人の賛美がメインになっていますが、途中途中でギリシア神話のエピソードや詩人自身の思想へと話が飛躍します。したがって、大雑把に祝勝部分と飛躍部分の2つに分けられると思います。

この飛躍部分が個人的にはめっちゃ楽しめました!何せ、非常にそそられる神話(例えば、テュポンの胸板の大きさが分かる記述とか。なんと、シチリア島からナポリに至るまでの巨大さです!)や、現代でも心に響く名言(「人間とは影の見る夢である」など、人々の傲慢さを戒めるもの)が詰め込まれているんですから!


もちろん、祝勝部分も非常に興味深かったですよ!
とりわけ面白かったのが、優勝者の天性を証明するために、優勝者一族と神々との繋がりを示していたことです。当時、詩人は詩歌女神ムーサイによって真実を語ることができると考えられていたため、ピンダロスが優勝者と神々の繋がり(優勝者は神々の子孫であるということ)を唄えば、それが真実となりました。

現代人からすれば、とんでもない話ですよね。オリンピック金メダリストを神々の眷属と大真面目に信じるようなものです。
しかし、古代ギリシア人からすれば、全然「とんでもない話」なんかじゃなかったんですよね。

古代ギリシア人は、競技会を神々へと捧げているので、そこで勝利すると、「神々のご加護があったからだ」と考えます。実力ももちろん必要でしょうが、古代ギリシア人たちは本番で己の力量を最大限発揮できるかどうかは全て運次第であると見抜いていたので(だからオリンピア祭では、戦車競技のスタートラインに運命の女神モイライが大々的に祭られていました)、「ちゃんと実力を発揮することができた=神々が運を授けてくれた」と考えました。
神々の恩恵を一身に受けた人こそが、競技会で優勝する。そう思っていたので、優勝者=神々が援護してくれる人=神々に近しい人と連想しても不思議ではありません。

古代ギリシアでは、偉大な功績を上げた人を神として崇めることは珍しいことではありません。ペロポネソス戦争で著しい功績を上げたスパルタの将軍ブラシダスは、死後アンフィポリスの中心広場に埋葬され、英雄神として祭られましたし、スパルタ王アゲシラオスもタソス人によって神と同一視されました。(彼に関してはまだ生きているのにも関わらず、です)スポーツ選手でも、オリンピア、ピュティア、ネメア、イストミアなどの名立たる全ギリシア的競技会を連覇していたテオゲネスは、死後マラリアから守ってくれる医療の神となりました。

偉大な人は、神々によって偉大であることを許されている時点で、神々に近しい存在であり、神にもなれる存在だと考えられたのです。それはスポーツにおいても同様で、だからこそ、ピンダロスは優勝者の天性を証明する必要があったのでしょう。


これらを考慮すると、飛躍部分で語られる神話や名言(優勝者の傲慢さを戒める)の数々も、ただの飛躍ではないことが分かります。
全ては一本の線で繋がっています。

優勝者の天性を賛美すると同時に、神話の数々によってそれを更に強調し、最後には「だからと言って驕り高ぶったら神々に見放される」と友のように忠告する。

・・・飛躍部分は、優勝者をおざなりにするものではなく、むしろ優勝者の偉大さを強調し、謙譲さ(傲慢さが嫌われた古代ギリシア世界において、謙譲さは破滅しないためにも極めて重要)を説くことで、優勝者に更なる誉れをもたらそうとしているのです。そう、全ては優勝者を中心に、壮大な軌道を描いて回っていたのです!


このように、ピンダロスは祝勝部分と飛躍部分を高次元で融和させることで、緩急の伴った壮大な詩の創造に成功しており、まさに「至高」の名に相応しい詩人でした。この本、結構お値段が高めだったんですが、買ってよかったなぁと心底思いました。値段の2倍は価値があると思います!笑

今回は和訳で読みましたが、訳されていては本来の詩の凄さは分からないと思うので、機会があれば原文を読み解いてみたいですね。東京オリンピックの時にでも読もうかな。笑





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Last updated  2016.12.06 00:19:14
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