【内容情報】(「BOOK」データベースより)
たかむら画廊の青年専務・篁一輝と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、 出産を控えて東京を離れ、京都に長期逗留していた。 妊婦としての生活に鬱々とする菜穂だったが、 気分転換に出かけた老舗の画廊で、一枚の絵に心を奪われる。 画廊の奥で、強い磁力を放つその絵を描いたのは、まだ無名の若き女性画家。 深く、冷たい瞳を持つ彼女は、声を失くしていたー。 京都の移ろう四季を背景に描かれる、若き画家の才能をめぐる人々の「業」。 『楽園のカンヴァス』の著者、新境地の衝撃作。
主題である絵画の世界はもちろんのこと、京都の文化や優美さも堪能できる 読みどころ満載の魅力ある作品だった。 登場人物がほとんどセレブ的であり、一般人にはなじみの薄い美術関係の世界なので、 読む人によっては感情移入がしづらいかもしれない。 菜穂が優れたキュレーターであるのは、習得していった能力ではなく、 天性のものとして描かれている点に、ややわだかまりを感じるのも否めない。 しかし、無名の若き女性画家、樹(たつる)の才能が親譲りであったことや、 菜穂との関係などが明らかになっていく展開は、ドラマチックで引き込まれた。
画家がその才能を存分に開花するには、 優れた審美眼を持つ庇護者が必要なのであろう。
『異邦人(いほうじん)』と書いて、『いりびと』と 果たして本当に読めるのか疑問であるが、 カミュの「異邦人」を連想せぬよう、そして、和風に読むことで、 あくまでも日本画家、日本の画壇、日本人を書いた作者のこだわりであろうか。
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