カテゴリ:トピックス
大正ロマンを代表する画家で詩人の竹久夢二の油彩画「西海岸の裸婦」をX線調査したところ、初めは下腹部に布をかけた絵にしようとし、のちに全裸に描き直した跡が見つかったという話題。 ウエブトピックスより、 竹久夢二の裸婦画、当初は下腹部に布 迷った跡みつかる 美術界では、これは夢二が裸婦の美しさをどう描き出すか葛藤したものと解釈されているようです。 竹久夢二については、私は「宵待草」の作者だということを知っている程度で、画家としても詩人としてもまったく詳しく承知していません。ただ当時の文壇に多く見られたように夢二も多情で赤裸々な恋愛の遍歴者だったということは、ものの本で読んで知っていました。 その夢二が裸婦の下腹部を晒すか隠すか逡巡したのはなぜだろうか? 浅田次郎が、時代の大きなうねりに翻弄された大正時代、末端の庶民に味方する粋でいなせな江戸っ子の怪盗を描いた「天切り松 闇がたり」。この第3巻「初湯千両」の第3話「宵待草」に竹久夢二と、女掏摸(すり)のお紺とのやり取りが出て来ます。 妻のある身ながら絵のモデルであった彦乃(別名しの)との恋愛に溺れてしまった夢二。彦乃を病気で失い失意にくれる夢二の前にお紺が現れる。
お紺に悲恋に終わったしのを重ね合わせる夢二は、お紺にモデルになってくれるよう頼む。夢二ファンであったお紺は、これを受け入れ夢二のアトリエについて行くのであったが。 「おこんさん、あなたへのたってのお願い。この指輪をもらって下さい。どうしても捨てられないのです。・・・しのと同じくらい美しいあなたに、この指輪を捧げようって。しのを愛した日から僕の描く絵のモデルはみんなしのになってしまった。・・・すべてしのの顔、しのの姿なのです」 ここまでは良かったのだが、夢二の発した最後の文句が、江戸っ子のお紺姉さんの気にさわった。 「あなたをモデルにして新しい絵を描こうと思います。そしてその絵を次の文展に出品して、王道を歩みだそうと思うのです」 「おっと先生。結構なロマンスを拝聴さしていただきましたが、肝心の下げにァちょいと了見できません。王道って、何のこってす」 するすると帯を解き始めるや、襦袢も腰巻もかなぐり捨てて胡坐をかき、背中に彫られた弁財天を見せつけるお紺。 お紺姉さんもお紺姉さんなら、夢二も夢二。ひるむどころか憑かれたように絵筆を動かす夢二が描いたのは、裸婦ではなく着物を着て草むらに横向きに座る女の絵。 文展ではなく絵葉書にしようという夢二に、絵の題を「宵待草」にと奨めるお紺。すると夢二はその絵の裏にするすると筆を滑らせた。 まてど暮らせど来ぬひとを 宵待草のやるせなさ こよひは月も出ぬさうな 浅田の筆によれば、この時の夢二は裸婦の美しさをどう描き出すかなど端から迷いなどしなかったということになりますね。 はたして夢二は、裸婦の美しさを描くのにいかなる思いを抱いたのだろうか。凡人にはとても思いの及ばぬことですが・・・。 蛇足ですが浅田の描こうとしたお紺姉さんの気っ風の良さは、夢二の描いた裸婦像よりずっとわかり易い。夢二がくれた指輪をお紺姉さんはどうしたか?「宵待草」の章を最後まで読めば、思わずう~んと唸らずにはおれません。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年09月18日 17時56分54秒
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