ブッシュ前政権と日本の温暖化対策
引き続き科学者である明日香氏の論文「地球温暖化問題懐疑論へのコメント Ver.3.0 」(最後の部分)を紹介します。 2006 年3 月29 日のホワイトハウスでの記者会見にてブッシュ前米大統領は、温暖化が起きていることは認めるものの、人為的二酸化炭素排出が原因であることを疑うような発言をしている。すなわち、懐疑論者と同じことを公式の場で発言している。 そのブッシュ前大統領に関して、(・・・)ポール・オニール元財務長官(・・・)は「米国が京都議定書から離脱した理由は、温暖化対策が石炭・石油業界などのブッシュ政権の支持基盤の利益に背くと大統領およびチェイニー副大統領が判断したため」という趣旨の発言をしている(サスキンド 2004, p.160)。 このように、温暖化対策を遅らす余裕を人類は持たないはずなのに、ドロドロとした政治や利益集団、そして彼らに意識的、あるいは無意識的に操られた懐疑論者が足を引っ張っている。 「地球温暖化問題懐疑論へのコメント Ver.3.0 」85頁 米国のブッシュ政権時代の上記現実、そして、その時代に数多く流布された「温暖化対策の必要性に対する懐疑論」の悪影響など、今の日本、そして、これからの世界を考えていくうえで貴重な教訓にしていく必要があるのではないでしょうか。 「1990年比で4%の排出増を中期目標とすべきだ」と主張してきた産業界(経団連)は「懐疑論」を利用しながら「自己利益のために温暖化対策に反対しているのではないか」という批判に充分応えることができるのでしょうか。 明日香氏も次のように述べています。 温暖化対策を進めることは、温暖化防止のためだけではなく、(・・・)資源の有効利用、貧困削減、そしてエネルギー安全保障という側面でも非常に重要な意味を持つ。したがって、自己利益だけのために温暖化対策に反対する人々に都合よく使われ、温暖化対策は必要不可欠という社会意識の醸成を阻むボディーブローのように効いている懐疑論に対しては、(・・・)一つひとつ丁寧に反論をしていかねばと思う。 「地球温暖化問題懐疑論へのコメント Ver.3.0 」85頁 しかし、産業界(の一部?)は「懐疑論」も利用しながら次のように主張するかもしれません。「そもそも京都議定書の取り決めや1990年という基準年が不公平だったのだ」と。この問題についても明日香氏は上記論文で言及しています。 (・・・)イギリスとドイツの京都議定書の数値目標に関して言えば、欧州連合(EU)全体での削減数値目標はマイナス8%であるものの、欧州連合(EU)の国の中の分担ではさらに厳しい目標を課せられていて、イギリスはマイナス12.5%、ドイツはマイナス21%とそれぞれなっている(ともに1990 年を基準年)。 一方、日本は、ほぼ日本だけのための特別権利のようなものとして森林吸収分としてマイナス3.8%を得たため、実質はマイナス2.2%(-3.8+6)とも言える。だから、この数値だけから判断すると、日本はかなり有利とも考えられる。(・・・)温暖化対策の分野で、日本あるいは日本政府が必ずしも優等生ではないことは、もう少し定量的な議論でも補足できる。例えば、(1990年以降・・・)上位70 カ国では、日本とイランが化石燃料の中の石炭の割合を他国に比べて極端に増やしている。 (・・・)結局、日本の場合、温暖化対策の優先順位が他国、特に他の(ブッシュ政権時の米国をのぞく)先進国に比較して低かったと考えざるをえない。実際に、化石燃料に課せられている税金は、日本の場合、先進国の中でもかなり小さい。(・・・) さらに、しばしば日本に不利だと指摘される1990 年という基準年も、逆に日本に有利なのでは、という議論もある。なぜなら、日本にとっての1990 年というのは、景気が良いバブルのときだったからである。 実際に、削減目標を達成するために、日本とイギリスとドイツが何年前までの排出量に戻らなければいけないかというと、日本は1990 年の2 年前の1988 年だが、イギリスは1947 年、ドイツは1960 年の排出量までに戻す必要がある。 「地球温暖化問題懐疑論へのコメント Ver.3.0 」82~83頁 以上、「懐疑論」や「温暖化対策への日本の消極的対応は当然という主張」には根本的に無理があるようです。しかし、具体的に何をどのように動かしていけばいいのでしょうか。例えば自然エネルギーの急速な普及等、現状を望ましい方向に動かしていくためには、問題点の所在と、解決の方向性を見出していくことが必要です。 次回は、飯田哲也(いいだ・てつなり)氏の文章をもとに、この点について触れたいと思います。 日本ブログ村と人気ブログランキングに参加しています ↑ よろしければクリックして投票・応援いただけますか(一日でワンクリックが有効です) 教育問題に関する特集も含めてHPしょうのページに(yahoo geocitiesの終了に伴ってHPのアドレスを変更しています。)