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上生的幻想

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2007/05/17
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テーマ:★お菓子★(2818)
 
 今日はちょっと趣向を変えてまず、写真から。
 
こなし
 
070516 008.jpg
 
   
上用
 
070516 003.jpg
 

 
 さて、「この銘をあててみ」と買ってきた奥さん。
 上用はともかくも、こなしについては一目見るなり「なんてもっさいの買ってきたんや」と僕。
 ま、たしかに、今は新緑の季節で、家のモミジもまあ、こんな感じといえばこんな感じだが。
 それにしても「当ててみ」と言うからには、ちょっとした銘なのかも知れない。
 
 
「新緑」と見たままの答えをいってみる僕。
「まあまあ、そんな感じやけど、ちょっとちがう」
 と、僕の想像力が貧困なのか、頭から「もっさい」と思ってしまってあまり喚起力を発揮してくれないのか、とにかくそれ以外の銘も思いつかず、ギブアップ。
 
薫風」(くんぷう)
 
「ほう、薫風ね」
と、銘を聞くなり、今までは単に「もっさい」こなしだったのが、なにやらキラキラときらめいて見えるこの不思議さ。さっきまではあんまり面白みもないのでさっさと食べてしまおう、と思っていたのが、にわかに、食べるのが惜しまれてくる。
 新緑のもみじを渡る爽やかな薫風がなにやら耳元でキラキラと輝いている風情。
 これもまた、上生菓子のおもしろさのひとつ。命銘の妙。
 しばし、じっと「薫風」に見入る僕。
 
 中は、思った通り白漉し餡。
 こなしはもっちりとか弾力があるとかではなく、また、とくにしっとりというわけでもなく、白餡とおなじ水加減、やわらかさ、塩梅。こなしより甘めの白餡。
 こなしと白餡はよく馴染んでいて、かたさ、風味とも絶妙の調和。
 癖のない白餡の風味のあとにまるいぼんやりとした甘みがほんのりとやってくるのは、シャープな甘みのアタックから入ってくる俵屋吉富や鶴屋吉信などとは対照的。
 ふっくらした、落ち着いた、ほどよい雰囲気のスタイル。
 ただ、風味そのものにもスタイルにも花が感じられない。華やぎや色気といったものが、まったく感じられない。いやいや、もし「花」があるとしてもそれは凋んだ花。「わび・さび」」とか言うのでもないし、「渋い」とか言うのでもない(あえて言うなら、紹鴎的「わび」かな?)。「老松」という店の名前そのもののような、そんな雰囲気(奥さんに言わせてみると、これは能舞台のバックのあの黒松なのだそうだ)。古くさい感じもしないが、新しくもない。やっぱり歳月を超越した「老松」スタイル?というわけなのか?
 僕の好みとしては、なにか花が欲しいところ。
 
 
 
 さて、上用。「還燕」、「来燕」、「返燕」など、「燕」がつく言葉を適当につくったりしながら思いつく限りあげてみるが、ぜんぶハズレ。
 
 「飛燕」(ひえん)、とそのままが正解。
 
 空色のぼかしの上部にツバメの焼き印。
 しかし、これも「薫風」ほどではないにせよ、素直な「飛燕」という銘が、「ほう、いいやん」と思わせてくれる。焼き印の、反ったツバメの姿もなかなかいい。
 「飛燕」という銘が季節的にそろそろ重いかなという上用をすっきりさせてくれる。
 
 種は黒漉し餡。色はやや薄く、黒いというより紫っぽい。
 かなりもっちりしっとりした皮、そして口溶けのよい、意外に軽めの餡。黒餡で軽いとか重いとか思ったことがなかったが、これは軽いところがなかなかいい。やはり、シャープさはない、丸い甘み。しかも、素材の風味のあとにやってきて、余韻として口の中に残る。
 もっちりしっとりした皮は実は口溶けもよく、口のなかでそれぞれの素材の持ち味を感じさせながら溶けていくのはなかなか。
 ただ、やっぱり、「花」がないのは、薫風とおなじ。
 それでも、この上用の方は、風味だけで言えば、こなしに比べると好感が持てる。
 
 
 「薫風」も「飛燕」も、スタイル的には、「夏柑糖」のあの素朴さに通じる。「夏柑糖」では「素朴」と感じて◎だったものが、上生菓子ではやや、△。
 このあたり、僕の個人的な嗜好であると同時に、上生菓子と普通の和(京)菓子に求めるものの水準の違い、ということだろう。





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Last updated  2007/05/28 08:41:05 PM
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