くれーじーくえいる　ぶろぐ

　冒頭で書くネタがないので（苦笑）、コンビニで読んだビッグコミック最新号の『ゴルゴ13』最新話についてでも。
　医療業界の重鎮の人物から息子を悪の道に引き込んだ不良グループたちを抹殺する依頼を受けたゴルゴ13が、最後に残った女性の始末を何故か数ヶ月延期すると依頼人に通告。その理由は・・・？　久々に１話完結の短編ですが、"標的の抹殺は冷徹に実行するが、一方で無関係の生命は尊重する"というゴルゴ13のポリシーの一端が垣間見える良作でした。

〔Target.29：配役（キャスティング）〕　　原作：リイド社ＳＰコミックス第30巻収録（1976年初出）

CAST　　エリック：山路和弘　　ウィルソン：西村知道　　ブライアン：沢木郁也　　ジーン・バーバラ：甲斐田裕子　　ポール・ドミニク：花輪英司

　アメリカ・ロサンゼルスに空路でやってきたゴルゴ13。だが、その行動を密かにカメラで撮影する者たちの姿が・・・その撮影クルーを率いているのはハリウッドの映画監督エリックだった。
　エリックはある人物から、女優が自分を裏切った男を殺し屋に依頼して殺害するという内容の映画の制作依頼を受けていた。スポンサーたる人物からの条件は２つ、一つはシナリオの改変の禁止、そしてもう一つは劇中で女優が主演の俳優の殺害を殺し屋に依頼するシーンに本物のプロの殺し屋を使うというものだった。当然、主演俳優は本当に死ぬことになるが、それすらも映画のラストで起きる監督しか知らないハプニングとして織り込み済みであった。完成した映画はスポンサーが責任を持って全世界に配給し、世界にまたとない映画になるだろうと依頼人は豪語する・・・そのプロの名はゴルゴ13！　そこには、ゴルゴ13を巡るスポンサーたちのある思惑が秘められていた・・・

　話に乗ったエリックはスポンサーからの提案により、映画のシナリオと同様に男に裏切られて殺し屋に殺害依頼をしようとした過去を持つ女優ジーン・バーバラを映画に起用し、主演俳優のポール・ドミニクに裏切られる役どころの彼女がゴルゴ13に彼を殺す依頼をするシーンの撮影に臨む。
　その夜、衣服に小型マイクを仕込んだジーンの元にエージェントから依頼を受けたゴルゴ13から電話が入った。ジーンは彼の指示通りにタクシーを拾い、車内でタクシーの運転手に変装した彼と接触する。相手が本物の殺し屋だとは知る由もない彼女は、自分の過去と映画の内容を重ね合わせた迫真の演技でゴルゴ13にポール・ドミニクの抹殺を依頼。二人のタクシーを車で密かに尾行して撮影するエリックは、マイクを通じて聞いたゴルゴ13の声を「いい声をしている。スターの声だ」と絶賛する。
　翌日、エリックたち撮影クルーはプライベートでゴルフ場に赴いたポールを密かに撮影し、彼がゴルゴ13に狙撃される瞬間をカメラに収めようとする。そして、ゴルフ場に現れたゴルゴ13は林の中からプレー中のポールをM16A2で狙うが、その時、彼の利き腕がジーンの言っていた左手ではなく右手であることに気付く。周囲を警戒したゴルゴ13は木陰に潜むエリックたちの車を発見すると、ポールを狙撃せずに姿をくらましてしまう。
　その夜、ゴルゴ13はジーンの部屋に現れ、事の真相を彼女に問い質す。何も知らないジーンは相手が自分の身体目当てだと思い込んで自ら身体を開こうとするが、その場でゴルゴ13に殺されてしまう。彼女の死の現場に駆け付けたエリックはシナリオが狂ったことに愕然とするが、それでも何としてもこの映画をものにしてやると開き直り、ジーンの遺体をカメラクルーに撮影させると撮影済のフィルム一式を車に積んでスタッフたちと共に逃げ出す。だが、待ち構えていたゴルゴ13はエリックの車の運転手を狙撃、エリックたちを乗せた車は道路を飛び出して列車に激突、フィルムもろとも炎上してしまったのだった。

　エリックに映画制作を依頼したスポンサーのウィルソンとブライアンは、エリックたちの死を知って自分たちの計略が失敗したことを悟り落胆する。彼らの真の目的は、ゴルゴ13の狙撃を映画として全世界に公開することで彼の存在を世間に晒し、彼の活動を封じ込めることであった。しかし結局、ウィルソンとブライアンもゴルゴ13の銃弾に斃れることに――――――

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　ゴルゴ13シリーズにはゴルゴ13を社会的に抹殺する策略を仕掛けてくる敵が何度か登場しますが、本作もその一つ。映画という衆目に晒される媒体にゴルゴ13の仕事を登場させることで彼を社会的に干してしまおうとする敵の陰謀と、映画人としての執念故にそれにのめり込んでいく映画監督の姿が描かれます。

　基本的には原作と同じ流れですが、改変点もいくつか。原作では、監督のエリックは弱小の映画制作プロダクションを営んで売れないポルノ映画作りで日銭を稼ぐ日々だったところへゴルゴ13の映画の制作話を持ちかけられるという展開で、女優のジーン・バーバラもエリックとは旧知のポルノ女優なのですが、アニメ版では流石にＴＶ放映を考慮してか改変されています。また、ジーンがゴルゴ13にアドリブで"標的"のポールへの恨み辛みを語るシーンは、原作では二人の乗るタクシーがトンネルの中を通ったため盗聴マイクの電波が途絶えてしまいエリックたちは彼女の言葉を聞くことはないのですが、アニメ版では普通にエリックたちも彼女の言葉を聞いてその迫真の演技に感心するも、それが彼女の痛恨のミスとは気付かないという演出になっています。
　一方、"依頼人"であるジーンの言葉の僅かな瑕疵を見逃さず、そこから映画を利用した自分に対する陰謀を察知して徹底的に叩き潰すゴルゴ13の徹底した分析眼と用心深さが今回も光ります。原作ではジーンとエリックたち映画撮影クルーは殺される一方、大元の黒幕は狙われず生き延びている点に若干の消化不良感を覚えるのですが、アニメ版では黒幕もきっちり始末され、自分の脅威と判断した対象へのゴルゴ13の容赦なさぶりがより強調されています。
　それにしても、マイク越しにゴルゴ13の声を聞いたエリックの「いい声をしている。スターの声だ」という台詞ですが、アニメ版では館ひろしがゴルゴ13役を演じているだけにギャグめいて聞こえてしまうのがちと困りものですね（笑）

　なお、原作でもアニメ版でもエリックたちが撮影した映画のマスターフィルムはゴルゴ13の狙撃による車の炎上で消失したことになっていますが、原作が描かれた1970年代はともかく、現在の映画制作では映画をデジタルデータ化して管理することも珍しくなくなっており、もしかするとエリックたちの死によってマスターデータがすべて消えたわけではなく、どこかのサーバーにコピーが残っている可能性も考えられます。この辺は世界観を2008年の現在に置き換えたことによって生じた設定上の粗ともいえ、作中で何かフォローがあってもよさそうな気はしますが、エリックたちのクルーが原作同様に貧乏映画スタジオということならそこまで厳重に管理する器材も資金もないでしょうから、あまり深く考えなくてもいいのかもしれません。


　最後に余談。本記事のサブタイトルの"フィニッシュ・シューティング"（finish shooting）とは、英語で映画や番組の撮影終了を意味する言葉で、逆に撮影開始を意味する言葉は"スタート・シューティング"（start shooting）といいます。日本語で映画の撮影開始／終了の意味に使われている"クランクイン""クランクアップ"は昔のクランク式の手回しカメラから連想した和製英語なのだそうです。ゴルゴ13の銃弾によって唐突に"フィニッシュ・シューティング"される映画・・・うん、我ながらいいタイトル付けだと思います（爆）