図書館に予約していた『米中ハイテク覇権のゆくえ』という本を待つこと3ヶ月でゲットしたのです。
アメリカに対して、新型ICBMをこれ見よがしに披露する中国であるが・・・
その覇権志向はかつてのソ連をしのぐものであり、怖い気がするのだ。
【米中ハイテク覇権のゆくえ】
NHKスペシャル取材班、NHK出版、2019年刊
<「BOOK」データベース>より
国家戦略のもと、ハイテク分野で急速な成長を遂げる中国。アメリカの強さの源泉であった「情報」や「金融」、そして「AI」などの分野で、その“覇権”に迫らんとしている。激しさを増す二つの大国の競争は、世界をどこへ導くのか?選択を迫られる日本の運命は?米中攻防の真実に迫る取材で大反響を呼んだNHKスペシャルを新書化。「新冷戦」の今後を読み解く一冊!
<読む前の大使寸評>
アメリカに対して、新型ICBMをこれ見よがしに披露する中国であるが・・・
その覇権志向はかつてのソ連をしのぐものであり、怖い気がするのだ。
<図書館予約:(6/30予約、9/25受取)>
rakuten米中ハイテク覇権のゆくえ
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「中国製造2025」の問題について、見てみましょう。
p51~55
<「中国製造2025」は何が問題なのか>
さらに、アメリカ側が批判を強めるのが、「産業育成」の名の下に行なわれる、中国政府の自国企業に対する不透明な補助政策だ。そもそも社会主義を掲げる中国では、市場化が進んだとはいえ、鉄鋼などの素材分野をはじめとする重要産業では、いまだに国有企業が大きなウェートを占めている。そうした国有企業は工場用地の払い下げにはじまり、銀行による事業資金の低利融資など様々な優遇を受けていると指摘されてきた。
「中国製造2025」で重要産業が指定されることで、中国企業が再び政府から様々な支援を受け、外国企業との公平な競争条件をゆがめることになるのではないかと、危惧されているのだ。
中国政府はそうした見方を否定するが、政策の発表された2015年から2年間で中国では政府が出資する産業投資ファンドが次々と設立され、その資金規模は2016年末時点で3兆元、日本円で50兆円を超える規模に達している。そのすべてが政府資金というわけではないが、こうしたファンドが出資・投資先を決定する際に、自国企業に対する審査が優先されるであろうことは容易に想像される。
そうした資金力が今後、アメリカをはじめ外国企業が中国と技術的に争っていく上で脅威になっていくかもしれないのだ。
<圧力を受ける中国。産業政策はどこに向うのか?>
アメリカからの圧力を受ける中国の産業政策。貿易交渉が進む中で、転換は進むのか。実は中国ではアメリカとの貿易摩擦が激化するにつれて、政府高官の発言や公式メディアなどから「中国製造2025」というキーワードがめっきり姿を消している。さらに、アメリカの有力紙「ウォールストリートジャーナル」も2018年12月、「中国指導部が『中国製造2025』の見直しを進め、2019年の早い時期に公表される見通しだ」と伝えた。
報道に反していまだに中国側から新しい産業政策の発表はなされてはいないが、2019年3月の全人代でその先行きを占う出来事があった。李克強首相の政府活動報告だ。2015年の全人代以来、政府活動報告で必ず触れられてきた「中国製造2025」という言葉が、2019年は報告中に一度も登場しなかったのだ。アメリカとの貿易交渉が佳境を迎える中、中国として相手方に十分配慮を尽したといえるだろう。
ただ、ここでも注意は必要だ。「中国製造2025」というワードこそ報告から消えたものの、李首相は今後の産業育成の方向性として「先進的製造業と現代サービス業の融合発展を促し、『製造強国』の建設を加速させる」とはっきりと言及した。
さらにビッグデータやAIの研究開発を応用・強化し、「中国製造2025」で挙げた次世代情報技術や新エネ車などを育成するとも強調した。つまり、「中国製造2025」の看板は下げたように見せつつ、従来の産業政策になんら揺るぎはないということだろう。
全人代期間中にはもう一つ、中国の産業政策を見る上で注目されるべき発言があった。中国の国有企業を管理する「国有資産監督管理委員会」のトップ、肖亜慶主任の記者会見だ。外国メディアの記者から「中国政府の国有企業に対する『隠性補貼=隠れた補助政策』」について質問を受けた主任は「我々の法律には国有企業に限定した補助金の規定はない」と述べ、アメリカが主張する優遇措置の存在を否定したのだ。
これらの発言を見る限り、「製造強国」を目指そうという中国の産業政策が根本的に変更されるということはありえないだろう。もちろん、従来の大量生産方式の「製造大国」から脱皮して、付加価値の高いイノベーション産業の育成を目指す中国の方針に対して、アメリカのみならず、外国が頭から否定することなどはできない。
しかし、ここまで力をつけた中国がさらに国家主義的な産業育成を続け、外国企業の市場参入を阻むような政策をとり続けるなら、それは西側諸国にとって大きな脅威となり、さらなる摩擦を招くことになりかねないだろう。
<「製造強国」へのもう一つの課題>
「序章」で触れた、中国がAIや自動運転といった分野で急速に技術力を伸ばした原動力となった海亀も、その摩擦の一因となり得る。
中国のAIや自動運転の分野の第一人者で、中国科学院自動化研究所の王飛躍主任は、「海亀」がこれまで果してきた役割を高く評価しつつも、それに頼った成長モデルには疑問を投げかけている。
(中略)
王主任は中国が一流の製造強国を目指すにあたっては「他人が歩んできた道をオーバーテイクするのではなく、自身の指針を作り出し世界レベルをリードしなければならず、国内で育成した人材に頼らなければならない」と提唱する。
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