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日本の作家が書いた歴史小説

April 29, 2021
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みなさん、こんばんは。聖火リレーが中止になった府県もありますね。みなさんのところはいかがですか?
今日も池波正太郎作品を紹介します。

鬼平犯科帳〈7〉
池波正太郎
文春文庫

 泥棒の世界がどういう仕組みなのかは、謎である。
もしかしたら、『元泥棒の告白』という資料があるかもしれないが、
それさえ、盗まれた側の証言と、いちいち突き合わせて見ると、矛盾が出てくる可能性さえある。こういう曖昧部分は、『歴史の空白』として、作家の執筆意欲を大いにそそるらしい。

 池波氏の『鬼平犯科帳』にも、多くの泥棒達が登場する。
彼等の一生は、概ね、こんな風だ。
幼い頃、親分に弟子入りする。いくつか、誰かの計画に加わる「すけばたらき」をこなした後に、独立。いわゆる「ひとりばたらき」ができるようになる。「ひとりばたらき」の初仕事は、元親分や、関わりのある人が助けてくれる事もある。独立すると、住居を決め、盗みとは関わりのない、もう一つの仕事をして、泥棒である事を隠す。
盗人として、やってならない事が3つある。
1.盗まれて難儀するものへは手を出さぬこと
2.つとめをするとき、人を殺傷せぬこと
3.女を手ごめにせぬこと

 メインとする職業が「盗み」でなければ、この過程は、まるで職人や芸の道に生きる人達の徒弟制度だ。第一、「盗め」と書いて、「つとめ」と読ませているし、「本格派の
大盗」なんて形容もある。大がかりな盗みには、二つの盗賊が手を組む事もあるのも、大がかりな建築に複数の親方を配する大工と同じだ。
場所を決めない「流れ盗め」は、流れ板のようだ。
読めば読むほど、職人の世界との共通点が浮かび上がる。

 本格派大盗と平蔵の攻防は、お互いを好敵手と認めあう者同志の一騎討ちの雰囲気すら漂う。かつて盗みの世界に身を置いた密偵達は、平蔵と盗賊の各々の立場・物の見方を共有するマージナルな存在。そのため、彼等は、どちらの義理人情にも縛られて、葛藤する複雑な
キャラクターとして、しばしば物語の行方を左右する。また、正統派同志の対決ばかりでは物語が単調になるので、盗人三か条を無視するような、徒弟制度外の盗人を登場させる事で、盗人同志の対決というドラマが登場し得る。

 世話になった親分のために、義理でやむなく仕事を請け負い、酷い目にあう事もあれば、その遺児の面倒を見る盗賊もいる。手を組むために結婚という手段が用いられる事もある。
こういった血縁に依存しない上下関係や、横の繋がりは、職人だけに限ったことではない。平蔵達武士の世界にも厳然と存在する。池波氏は、単に極悪非道なだけではなく、義理人情に縛られ、親子・男女の情愛を持ち得る人間として、多数の盗賊達を描いている。
同心が盗人を信じて代わりに獄に入る事を受け入れる『走れメロス』の発展版のような「あきれたやつ」という短篇も登場する。盗賊達を、同じ土俵に乗せる事で、池波氏は、実に様々な
ドラマを生み出した。

 登場する盗賊達の名前も、ユーモラスなもの、格好いいもの、いかにも恐ろし気な者と、こちらもドラマに負けず劣らず粒ぞろい。

 料理、捕り方達、密偵。特徴のある文体。余韻を残す文章。
本シリーズの魅力はいろいろあるが、
平蔵達と対決しては、敗れてゆく盗賊達に焦点を当てて
物語を読んでみるのも、なかなか面白い。



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最終更新日  April 29, 2021 12:00:20 AM
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April 28, 2021
みなさん、こんばんは。国際水泳連盟がオリンピック最終予選3大会の中止決定しましたね。
オリンピック開けるの?
今日も池波正太郎作品を紹介します。

鬼平犯科帳〈6〉
池波正太郎
文春文庫

「つくづくとばかばかしく思うのだよ」なれど「このお役目が、おれの性にぴたりはまっている」のである。だから火盗改方の長官・長谷川平蔵は、疲れにもめげず今日もまた出動する。

 文章を見ただけで、誰が書いたものかわかる場合が、たまにある。
池波氏は、数少ないその一人である。

「だが、おまさの胸さわぎは、しずまらない。
茶店のむすめと瓜二つとまではゆかぬにしても、そっくりな、別の女の
顔を、そこに見たからである。」

(「狐火」より)

この文章を、国語で習った通り、
句読点で区切り、『まる』で長く間を取って読むと、
割合規則的なリズムを感じ取ることができる。

しかし、オリジナルでは、こうなっている。

「だが……。
おまさの胸さわぎは、しずまらない。
茶店のむすめと瓜二つ、とまではゆかぬにしても、
(そっくりな……)
別の女の顔を、そこに見たからである。」


「……」の挿入と、改行によって、前に挙げた
文章にはない、ある『間』ができる。
とんとん、とんとんとん
の中に、
とんとん、とお……ん、とん。
というリズムが入り込み、文章に動きが生まれる。
また、台詞でも行動でも、みなまで言わない所があり、
その部分は読者側に放られる。


だから、読んでいる人は、書かれていない
部分を自分の想像で補いながら、この文章のテンポで、頭の中で
映像をまわしている。

多分、キャラクター設定は、時代小説がこれだけ登場すれば、似通った
ものが出てくる。親分肌のボス、おっちょこちょいの部下、
年輩の頼れる部下、まじめ一徹の部下、主人公に思いを寄せる
けなげな女性。でも、こんな個性的なリズムで動いている
キャラクターはどこにもいない。

「礼金二百両」「猫じゃらしの女」「剣客」「狐火」「大川の隠居」「盗賊人相書」
「のっそり医者」の七篇収録。


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最終更新日  April 28, 2021 12:00:20 AM
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April 27, 2021
みなさん、こんばんは。自民党が衆参3つの選挙で全敗ですってよ。
今日も池波正太郎作品を紹介します。

侠客
池波正太郎
角川文庫

道路に寝そべるなどしていた若い男のグループに注意した男性が、暴行を受け死亡した事件がありました。
幡随院長兵衛の死に至るそもそもの原因は、旗本奴が人足に「わざと砂埃をかけた」と因縁をつける事に起因しています。その無礼を咎めた町奴に旗本奴がキレてしまい、人足を斬って
しまいます。そして、元から不仲だった町奴と旗本奴の間に、遂に決定的な亀裂が入るのです。遠い江戸で起こった事件と、現代の東京で起こった事件は、どうして
こんなに似ているのでしょう。

 主人公である塚本伊太郎(後の長兵衛)の父親が謎の男達に襲われる場面から始まった本作は、因縁の相手・水野十郎左衛門との運命的な出会いを冒頭に持ってきて、一気に読者を物語世界に引き込みます。

 見知らぬ都会・江戸にやって来た伊太郎は、人入れ屋・山脇宗右衛門とその孫娘をはじめとする、縁も所縁もない人達に救われ、父の死の原因を探るうちに、軽慢な藩主の悪行に行き当たり、正しい事を言う者が容れられず、佞言だけが生き延びるコツだという世の中の不条理を、骨身に叩き込まれます。机上の学問ではなく経験が、後の長兵衛を作り出してゆきます。
彼の合わせ鏡として、同じ君主の気まぐれに運命を弄ばれた剣客・笹又高之助が登場します。長兵衛の父を殺し、長兵衛の居場所をネタに藩から金をせびりとろうとする、こすっからい悪党ですが、なぜか憎めません。彼もまた長兵衛と同じ犠牲者です。

 歌舞伎では妻子や子分と別れる場面がありますが、本作では死を覚悟しながらも、たった一人で長兵衛は水野家に赴きます。無駄死に、自暴自棄ともいえる行動に出た理由は、ここまで長兵衛の来し方を見てきた読者ならば、おのずと浮かんでくるでしょう。たとえ自分がやった事でなくとも、頭領としての責任を果たさねばならない。或いは、ここで逃げるわけにはいかない、という意地もあったやもしれません。他の旗本奴はともかくとして、水野十郎左衛門に対する想い。潔く、責任感が強く、そして友誼あつき男。数々のいい男達を描いてきた池波氏ならではのキャラクターになっています。こんないい男が、無軌道な若者のせいで命を落とすなんて、全く理不尽というものです。

 現代は、長兵衛達のような男にとって、とても住みにくい世の中になりました。



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最終更新日  April 27, 2021 12:00:19 AM
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April 26, 2021
みなさん、こんばんは。料理研究家の神田川俊郎さんがコロナで亡くなったそうです。
今日から池波正太郎作品を紹介します。

抜討ち半九郎
池波正太郎
講談社文庫

 江戸時代、徳川五代将軍綱吉には、牧野成貞という寵臣がいました。
ところが、生類憐れみの令を出しながら、人間という生類は憐れみたくなかったのか、綱吉は、成貞の妻と娘を閨の相手に指名します。ええい、何という破廉恥な。ひっぱたいてやりたい。いえいえ。それは、そんな仕打ちをされた当事者こそが、やるべき事。ねえ、そう思いませんか、成貞どの?

 その問いには、当事者・成貞に代わって、池波正太郎と松本清張がそれぞれ小説で答えてくれました。作品のタイトルは、池波氏「妻を売る寵臣」松本氏「献妻」(『大奥婦女記』所収)。同じ事柄を彼等はそれぞれ「売る」「献じる」と表現し、そこに彼等の見方の違いが表れます。

 「売る」の反対は、「買う」です。「売る」側は、何かを差し出す事で何か見返りがある事を認識して、行動します。成貞の望んだ見返りは、もう一人の寵臣・柳沢吉保に負けない権勢でした。「さあどうぞ。」と二つ返事で売ったわけではありませんが、「私と一緒に逃げて。」という妻の願いにも、諾とは言いません。池波版成貞は、随分と気弱で、のらりくらり。妻に愛想をつかされるのも、「これではね。」と納得します。

 「献じる」とは、「身分の高い者に差し上げる/たてまつる行為」をいいます。「献じた」側は、貰って頂いた事を、とても名誉に思わなければならないのです。しかし、意味がそうだからと言って、誰がその通り喜べましょうか。いたくもない「ありがとうございます」を言えましょうか。松本版成貞は、諸々の感情を、涙と共に全て押し流してしまったのではないか。そんな彼の寂しい背中が見えるようです。

 娘まで召し出され、その娘に自害されては、池波版成貞でも、その気弱な笑いを消してしまいます。ここでようやく、二者の成貞の表情は近づきますが、最後の印象でまた変わります。池波版成貞は、70過ぎて嫡子が出来てしまった自分を「恥ずかしい、恥ずかしい。」と言いながら、泣くのです。後悔をつらつらと述べながら。「そんな事、今言うんだったら、何であの時、断らなかった!」と責めたい気持ちはあるのですが、彼の涙を見ると、もらい泣きする
人が大半を占めるでしょう。涙も感情も枯れ果て、近づき難い雰囲気を漂わせる松本版成貞とは対照的な人物が、ここにいます。

 全く同じ人物なのに、描き方によって全く違う印象を与える人が、もう一人。
吉良家の家臣・清水一角です。本書収録の「清水一角」では、彼は、浅野家の臣・奥村孫太夫と同じ道場に通っていた設定になっています。知らせを聞くと、彼等は、ぱっと右と左に分かれます。お互いが嫌いあっているわけでも、ましてや憎んでいるわけでもないのに、別れなければならない、それも今後ずっと。そして再び交わるのは、お互いの人生が生と死に分かれる時のみ。けなげな一角を思う時、「運命とはなんと皮肉か」と思わずには、いられません。

 同じ時の一角を、山田風太郎氏が取り上げています。『妖説忠臣蔵』収録の「赤穂飛脚」がその作品です。今度はそちらに目を転じます。
酒好きの侍として登場する清水一角は、江戸のごたごたからは無縁の、飄々とした雰囲気を漂わせています。さらには、変事を知らせる赤穂への飛脚達を、「袖すりあうも他生の縁」と助けてすらいるのです。後に敵味方になる運命の彼等を。
あるはずがない。でも、あってもいい。いや、あった方がいい。
こちらの気持ちが変わってゆくと同時に、山風氏の虚像・一角が、池波氏の虚像・一角への苦悩を、風に飛ばしてくれました。

 歴史の授業では一つだった人物の貌が、小説の数だけあります。
あなたはいくつ、見つけられましたか?


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最終更新日  April 26, 2021 12:00:21 AM
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March 25, 2021
みなさん、こんばんは。首相ももしかしてNTTと会食してたの?答弁が怪しすぎる。
今日も高橋克彦さんの作品を紹介します。

完四郎広目手控
高橋克彦
集英社

 頃は安政、ペリーの黒船来訪直後。所は江戸。旗本の次男・香治完四郎は、古本屋「藤由」の居候。「藤由」のあるじ藤岡屋由蔵は、様々な行事の段取りをつける事もあれば、世に流れる噂を瓦版に出して売っているその名も「広目屋」という副業を持っていた。化け物娘が幽霊となって現れたり、月見に出かけた連中が、突如現れたお姫様に歓待されたり、幕末に向かい俄に慌ただしくなる江戸では、様々な事件が起こる。煩わしいしがらみを持たない完四郎、駆け出しの戯作者・仮名垣魯文、絵を描く浮世絵師・一恵斎芳幾達が、事件の謎を追いかける、一話完結の連作短編集。


 仮名垣魯文、後に東京日々新聞で錦絵を書く事になる一恵斎芳幾の、共に無名時代の姿を描く点では、山東京伝と絵師窪俊満が登場する『京伝怪異帖』、葛飾北斎と喜多川歌麿が出逢う『だましゑ歌磨』と共通の設定。無名時代に設定したのは、自由に話が作れるから。怪異を解いていくのは『京伝怪異帖』と共通。いつでも黒紋付を着ている魯文との出逢いを描いた第一話「梅試合」、芳幾が登場する第二話「花見小僧」までが主要メンバーの顔見せ。第一話から最終話までの各話が、ちょうど12月に割り振られていて、広重の『江戸名所』に描かれた春の花見、夏の花火、秋の月見、雪景色を目で楽しみ、江戸時代の人々の暮らしぶりを読んで感じ取れる。広目屋=ひろめ屋は、さしずめ現代で言えば広告代理店。由蔵が資金を調達したりイベントの責任者を務めるスーパーバイザー。完四郎はプランナーともめ事担当。魯文はコピーライター兼記者で、芳幾はカメラマン代わり。時には噂を売るために、火のない所に煙を立たせる事もある。怪奇現象に懐疑的な完四郎と、信じている魯文、考え方は違うけれど好奇心旺盛な彼等は、幽霊ネタや怪奇ネタにも怖じずに、ホイホイ出かけていく。『京伝怪異帖』に続いて、「薬の行商をする燃える剣の男」やら、徳川慶喜の舅、河竹新七など有名人がヒョコヒョコと顔を出す。主人公の完四郎は、見目よし、腕良し、推理力抜群。幕府重職の叔父を持ついい所のボンボンであり、市井の人々とも親しい、ある種時代劇の典型的なヒーローのパターンを踏襲。これに途中から未来が見える少女も加わると、あまりにもスーパーヒーロー過ぎるという声も少なからずある。だが、事件を解決した暁の、スカッとした爽快感を味わいたい向きにはおすすめ。


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最終更新日  March 25, 2021 12:00:22 AM
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March 24, 2021
みなさん、こんばんは。清廉潔白そうに見えた野田聖子さんもNTTの献金を受けていたんですね。がっかりです。

今日から2日間高橋克彦さんの小説を紹介します。

京伝怪異帖
高橋克彦
文芸春秋

江戸滑稽化け物尽くし』の著者、アダム・カバット氏が、学生時代夢中になったのは、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』。馬琴を弟子入りさせたのが、黄表紙の大家・山東京伝。馬琴と京伝。共に化成文化を担った巨人である。

平賀源内が人を斬り、獄中で死んだと聞いた伝蔵(後の山東京伝)が、友人安兵衛(後の絵師窪俊満)を誘って、彼の持っていた「天狗髑髏」を手に入れようとする。通夜の席に顔を出した伝蔵は、思いがけない人と出くわす。何と源内が生きていた!

歴史小説を読む時に違和感を感じるのは、老中田沼意次と、その次の松平忠信の時代。歴史の授業では、「賄賂貰い放題の田沼時代が悪く、次の松平時代は、改革が行われて良い時代になった」と習った。 しかし大人になり小説その他で読むと、全く逆の印象を受ける事がしばしばあった。田沼時代の方が、めっぽう派手で面白い。まあ学生相手に、「政治的には悪でも文化的には云々かんぬん」と、矛盾を教えられなかったのか。まあ、そうでなければ、今「史実だけを知っていたら、絶対面白くなかったな」と小説の有難さを感じる事もなかったから、まあいいか。

 『江戸風俗の語り部』と言われるお人でしたら、そりゃあ、これ位好奇心旺盛で、どこにでも首を突っ込むお人でござんしょう、とすんなり探偵役におさまる伝蔵。それにカラクリ大好きの平賀源内が師匠とくれば、どんな仕掛けも思いのまま。筋書きと仕掛けとくれば、役者も必要。そら、おあつらえ向きに、陰間茶屋の案内人・蘭陽ってのが芝居者。宇野亜喜良さん描く所の彼が、これまた何とも色っぽい。けれど外見に騙されると痛い目にあう。鍛えた体が物を言い、彼は滅法喧嘩に強い。更に『四谷怪談』の鶴屋南北まで加われば、もう妖怪話はお任せってなもんだ。金に困れば蔦屋がいる。これだけ役者が揃おうもんなら、つられて本当の幽霊まで顔を出す。さあ、お江戸は大変だ!

 怪談ものなのに、キャラも話もめっぽう元気がよく、レビューを書いてるこっちまで、気分が良くなってくる。江戸風俗もふんだんに、ボリュームもあるけど一気に読めた。

 作者が自分の好きなものをテーマに選ぶと、これほど面白いものができるのか、の典型例。中でも死んだはずの源内は、縦横無尽に動かせる最強のキャラ。田沼と松平、水と油の二人の間をすいすい動く。史実で釈然としない源内の死を、からからと笑い飛ばす勢い。一話完結の形を取りつつ、伝蔵の半生を、絵師としての駆け出しから、隆盛、手鎖の刑まで、物語を貫く一本の糸として、きっちり通す。「もう一人役者が足りないなぁ」とご不満の方はある人の台詞にご注目。「天狗髑髏」「地獄宿」「生霊変化」「悪魂」「神隠し」の章にわかれる。
吉川英治文学賞受賞第一作として、読売新聞に連載されたものを刊行。



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最終更新日  March 24, 2021 12:00:20 AM
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February 12, 2021
みなさん、こんばんは。
聖火ランナーやボランティアが結構な数辞退していやになっちゃったんですかね。森さんやっと辞任ですよ。

横溝正史時代小説集を紹介します。

変化獅子
横溝正史時代小説コレクション
出版芸術社

 2001年山田風太郎コレクションを刊行した出版芸術社が、散逸していた横溝正史の時代小説集を随時刊行する事になり、本書はその第一弾。

 表題作「変化獅子」は『読切小説集』1956年10月〜57年4月まで連載された。江戸に向かう船に乗っていた旗本・獅子王寺多門と、女役者・小万が、漂流する筏に乗っていた美少年・幻之丞を見つけ、救出する。全く言葉が話せない彼の正体は?

 普段は飄々としているが、実は頭がよく腕も立つ主人公、彼にぞっこんの可愛い娘、彼を慕う気のいい町人らが巨大な権力を持つ悪者達に立ち向かう、痛快無比の長篇小説。
わけありの美少年、忠義の厚い家臣、謎めいた覆面男、権力と結託する悪商人、怪しげな祈祷師、理をわきまえた実力者。歌舞伎の「役柄」の如く、それぞれの登場人物のキャラクターと役割が明確に出ているので、 読んでいて、とてもわかりやすい。「おっとがってんだ」「おっとしょ」など、決まるところに、ぴし、ぴし、と決まる台詞も、小気味よい。
意外な実力者との繋がりを持つ主人公や、芝居の場面が出てくるのは、氏の『お役者文七シリーズ』と共通である。

 もう一つの収録作品は、連作『矢柄頓兵衛戦場噺』。 こちらは「講談雑誌」1943年1月〜12月まで1年間にわたって連載された戦場綺譚。「はだか武士道」「阿呆武士道」「縮尻武士道」「めおと武士道」「カチカチ武士道」「捕物武士道」「秘薬武士道」「籠城武士道」「武士道」「相撲武士道」「仲人武士道」に、単行本未収録の最終話「落城秘話」を含む完全版として、今回併録された。

 神君徳川家康公に若い頃から仕えてきた老武士・矢柄頓兵衛は、天下泰平を謳歌する寛永の世で77才を迎える。彼は、戦国時代の武士達の魂を伝えるため、月に一度、一族郎党80余名を集めて昔語りをする事にした。ちょん兵衛と呼ばれて周りの武将達から可愛がられた若武者時代から、「秘薬を手に入れろ」だの「密書を届けよ」だの007もどきの活躍話、気に食わない同僚への意趣返し等、バラエティ豊かなエピソードが、今川傘下を離れてから、大坂夏の陣までの、家康絡みの出来事に絡めて語られる。つまり、頓兵衛と、彼の目から見た家康、二人の栄達伝にもなっているわけ。とはいえ、頓兵衛最初めは甚だ頼りなく、女房お多衣の方が、余程しっかりしている。 彼を出し抜いて書類を盗みとるあなたは、実はくの一?だが、さすがに頓兵衛も経験を経て腹芸も覚え、天下の一大事を自らの懐深く収められるようになる。成長したねぇ、と思っていたら…おいおい、最後で喋ってしまっていいのか?

敵方に囚われ、
「命は助けるから、味方に援軍は来ぬと言え。」と言われたのに、「援軍は来るぞ。」と絶叫して殺された、名高い鳥居強右衛門の逸話も登場する。彼の控えとして、その現場に立ちあった頓兵衛が述懐する台詞が、最も印象に残った。
「世の中には、阿呆の大切な場合もある。阿呆でなければ勤まらぬ役目もある。強右衛門のあの真似は、阿呆でなくては出来ぬ。阿呆だけがわかる阿呆武士道だ。」

 糊口をしのぐためにやむなく時代小説を書くことになった時に抱いた、氏の先輩作家に対する内心忸怩たる思いが関係しているのかもしれないが、時代小説の持つ自由奔放さを比べれば、山田風太郎氏の小説に譲る。けれど、ひねりがない分、逆に、講談噺や伝奇時代小説に初めて接する人たちにとっては、最適の入門書となると思う。


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最終更新日  February 12, 2021 01:41:10 AM
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January 30, 2021
みなさん、こんばんは。女優の浅香光代さんが亡くなりましたね。
さて今日は不思議な魅力を放つ青年と関わる戦国の有名人たちを描いたオムニバス短編を
紹介します。

戀童夢幻
木下昌輝
新潮社

“森蘭丸”ではなく”森乱”と終始書かれる彼は、誰もが知る信長の側近ですこぶるつきの美童だ。同じく美形と言われる信長と衆道の関係にあったと言われている。しかし本作ではそんな彼が加賀邦ノ介と名乗る一人の男性に翻弄され、信長の寵愛を受けんとする彼に、激しく嫉妬の炎を燃やす。

 森乱だけではない。邦ノ介と出会った戦国三大英傑やその側近、文化人たちは、タイトルの如く童のような彼に、次々と戀焦がれる。一方で、そんな彼等を慕っていた者達からすれば、邦ノ介はとてつもない脅威であり敵となる。第一話から衆道が色濃く描かれるが、体の繋がりを持った男の嫉妬は、女の嫉妬に負けず劣らず凄まじい。ましてや当時の男には相手を倒す実行力がある。

 そんな中、腕っぷしもさして強くなく有力な係累もいない邦ノ介が、弱肉強食の戦国時代で自らを守るのは困難と誰もが考える。ところが意外や意外、彼は卓越した踊りや有力者に取り入る術を心得ており、隙がない。そして彼が動いた結果、本能寺の変、千利休切腹、関白秀次切腹、大坂の陣など名だたる歴史的事件が起こる。

 最終章に至るまで内面描写が一切ないため、邦ノ介がブラックボックスと化している。よって読者も物語の登場人物同様、何を考えているかわからない彼に翻弄され続ける。一人の登場人物を外側の人間から描くことで強くマイナスの印象を植え付け、次に視点を変えて描く事で中心人物を俯瞰的に描く構成は『宇喜多の捨て嫁』と同様である。


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最終更新日  January 30, 2021 12:00:19 AM
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December 27, 2020
みなさん、こんばんは。クリスマスにアメリカのナッシュビルで爆発事故があったとか。物騒ですね。
今日は森鴎外の不肖の息子を主人公に据えた小説を紹介します。


朝井まかて
集英社

 森家には子供が5人いた。長男・於菟、長女・茉莉、次女・杏奴、次男・不律、三男・類-そのうち次男・不律は苦しむ様子を不憫に思った母が医師に頼み安楽死させた。この出来事が『高瀬舟』を生む。

 オットー、マリー、アンヌ、フリッツ、ルイと、日本にいながら日本人らしからぬ名前をつけられた子供達は、それぞれ才能を世に知られてゆく。とりわけ長女・茉莉はあの時代に二度離婚してスキャンダラスな話題を振りまくが、それでも評判になった文才が批判を封じた。

 それに比べて三男の認知度は低い。そもそも小説になるまで、三男がいたことを知らなかった人が大方ではなかろうか。軍医と文学者、二足の草鞋を履きおおせた森鴎外の息子で、母親も小説家。更に他の姉妹達が才能を発揮できるのだから、同じ両親から生まれた彼にも遺伝子は伝わっているはずだと、皆当然のように思い込む。しかし、彼が目指した文学や画業は悉くものにならなかった。

 指導者の問題か。いや、親の伝手で当代の文化人が教師に就いた。だから、教師の力量不足ではない。毎日の生活にも窮する有様だったから、才能を磨く余裕などなかったのか。これも当たらない。鴎外の印税は子供達に等分に分けられ、戦争さえなければ、何不自由ない暮らしを続けられた。杏奴と共にパリ留学もしているのだから、十分刺激的な人生を生きている。才能を発揮できる原因はいくつもありながら、結果が伴わない。それでも、一般家庭ならばその程度のことはよくある。彼は、有名人の息子でなければ、これほど苦しむことはなかった。そして戦後は、何不自由ない暮らしの感覚のまま散財したことを、妻からも咎められる。他人から批判されても、普通の感覚を持ちようがないので、家族の暴露本を素直に書くと、周囲との断絶が起こる。鴎外の子であることの幸福は、鴎外の子であることの不幸と常に背中合わせだった。どちらか一方だけを選べない彼が、それでも家族を持ち、平成まで生き抜いたことは、幸福だったと言えるのではないか。

 本書の装画は森類によるものだ。


類 [ 朝井 まかて ]​​楽天ブックス







最終更新日  December 27, 2020 12:00:18 AM
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December 23, 2020
みなさん、こんばんは。噺家の林家こん平さんが亡くなったとか。まだ77歳なのに。

今日も藤沢周平作品を紹介します。

竹光始末
藤沢周平
新潮社

「武家というものは哀れなものだの。」
こう呟いたのは、立ち合いで負けた方ではなく、勝った男、小黒丹十郎である。彼は相次ぐ主家の不幸によって、妻子を連れ、浪々の身となった。海坂藩で新規召し抱えの話を聞き、紹介された物頭・柘植八郎左衛門を訪ねて来たが、その話は一月も前に終わっており、彼の登場は柘植にとって、「芝居の幕が下りてから大真面目で舞台に出てきた役者をみるような、滑稽なもの」でしかなかった。身なりにおいても、その行動においても氏は、「これでもか」と云わんばかりに、丹十郎の情けなさを露呈するので、「ここまで辛い思いをして、果たして武士である事にこだわる必要があるのか?」と疑問に思う。情けない綽名をつけられた男達が目覚ましい活躍を見せる『たそがれ清兵衛』という短編集が氏にはあるが、武士達の心の持ちようにおいて、本篇と『たそがれ…』とでは、幾分差があるように見える。丹十郎は、武士である事に誇りを持っているが、その身分に寄り掛かっていない。それどころか、「仕える主の非情と猜疑の前に、禄を食む者は無力である。」と客観的に自分の立場を見据えて、その危うさを知っている。そんな彼が仕官を求める動機は、もはや「立派な武士として生きたいという意欲」にはない。家族を食わせなければならないという、現実に対する責任感。だから、彼が命じられた上意討ちを果たして最初に思った事は、「武士として誇りに思う」ではなく、「明日からは餓えないで済む」だったのだ。

 『恐妻の剣』でも主人公の馬場作十郎は、息子を道場に通わせたいと主張するが、妻の「一刀流など習っても、馬場の家の扶持が一俵でもふえるわけがありませんでしょ」という強硬な反対にあい、断念している。『遠方より来る』で厚かましい押しかけ武士・曾我平九郎を見送った三崎甚平はほっとする反面、「しかし、気楽は気楽だろうな。 喰うためには、何かしなければならないだろうが、それは城に雇われている人間も一緒である。家もなく妻子の類いもないというのは気楽なものかも知れない(後略)」と、浪々の身となった平九郎を羨む。

 武士が武士である事だけで、尊敬される時代は、徐々に消え行こうとしており、幕末を舞台にした氏の『よろずや平四郎活人剣』においては、もはや主人公は堅苦しい武士に嫌気がさしている。そこに至るまでのいびつな過渡期において、どうにか人生をやり過ごそうとした男達の姿を描いた短編集。
他に『石を抱く』『冬の終わりに』『乱心』収録。


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最終更新日  December 23, 2020 12:00:19 AM
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