映画・海外ドラマ・本 ひとこと言いた~い

映画・海外ドラマ・本 ひとこと言いた~い

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August 14, 2022
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みなさんこんばんは。女優の菊池桃子さんが、自宅で転倒し、脊椎の下部にある仙骨にヒビが入ったため、入院して治療を受けることが分かりました。今日もゴーゴリ作品を紹介します。


隊長ブーリバ (潮文学ライブラリー)
Taras Bulba
ニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリ
潮出版社

​ 老タラス・ブーリバが、宗教学校の官費生としてキエフのアカデミーにいた二人の息子を迎える場面から始まる。長男オスタップは、入学したその年に学校を逃げ出していた問題児だったが、自身も結構問題児だった父ブーリバに説教されて優等生に変身。兄より活発で才走っていた次男アンドリイは、ある時自分を轢きかけた馬車に乗っていた将軍の娘と知り合い恋に落ちる。

 タイトルロールのブーリバは家族からは怖れられ、部下達からは尊敬を集めている、いかにもな主人公。とはいえ、結構ヤバイ奴だ。 

 なぜならば彼は一応の平和を保っている中で、わざわざ戦いを起こそうとするのだ。 学校で正教を学んできた息子達をブーリバが連れていくのは、荒くれ者達がいるザパロジエのセーチだ。

「高尚な人間が戦争をせずにいるのはよろしくないのだから、とにかく戦争をやるほうがよいという立派な信念を持っているところの、教育のある、経験を積んだパルチザン」
達と出会い
「回教徒を一度も殺したことがないとしたら、どういうザパロジエ人ができあがるでありましょうか。」
というぶっ飛んだコメントが飛び交うザパロジエでブーリバの息子達はもまれていく(いろんな意味で)。

「この時代は、領主に見放された南方の原始的なロシアの全土が、蒙古の略奪者等の鎮圧しがたい侵略のために荒廃し、根こそぎ焼き払われた時代であった。家を奪われ、雨露をしのぐべき屋根を失って、ここにはじめて人間が、勇猛剛毅になった時代。炎々たる大火災のまっただ中に、恐ろしい隣邦諸国の侵略者らと不断の危険とに面接しつつ、移住し来ってこの世にいかなる恐怖の存するかを見せつけられ、まともにこれを正視することに慣れてきた時代。古代の平和なスラブ魂が戦争の火焔に包まれてしまって、いわゆる「コサック気質」が-ロシア国民性の茫漠として遊蕩的な一変体が-形成された時代。」
と紹介されているように、戦闘意欲を失えば周辺の大国にすぐに攻められてしまう歴史が、このような好戦的な性格を生み出したのかもしれない。

 それにしてもブーリバの次男アンドリイの疾風怒濤は凄まじい。宗教学校からいきなり男ばかりの世界に送られて、ろくに女性を知らないままに一度会ったきりのポーランド貴族令嬢に再会してたちまちフォーリンラブ。
「俺にはもうあの父も父ではない、兄も兄ではない、味方も味方じゃない、俺は彼らと戦う、彼らのすべてと戦うのだ!」
といきり立つ。いや、自分の人生なんだからもっとじっくり考えようよ!

 また、基本的にコサックの攻撃パターンはゲリラ戦法であり、統制が取れていない。そのため、せっかく街を包囲していても、見張り部隊が全員酒をかっくらって寝ている間に味方部隊が駆け付けてきてブーリバ、ぴーんち!泥酔を責められた見張り部隊を率いるペレヤスラフスキイ廠舎の廠舎隊長ククベンコの言い訳は「何もすることがなかったんだから酔っ払うしかないだろう」いやそれはホントに単なる言い訳では。ところがコサック軍団はこれに納得する(しちゃうんだ!)それどころか「名言じゃ!」と大絶賛。そんなの名言にすな。

 勇猛果敢といい加減さの絶妙なバランスでロシアの草原を駆け抜けた、コザック達の生きざまを赤裸々すぎるほどに描いたゴーゴリ作品。



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最終更新日  August 14, 2022 12:00:26 AM
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August 13, 2022
みなさんこんばんは。韓国のキム・ヨナ選手が結婚するそうですね。今日から2日間ゴーゴリ作品を紹介します。

外套
ニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリ
未知谷

生まれた時から彼は不憫だった。赤ん坊に名前をつけようと母親は見回すが、ろくな名前がない。そこでアカーキー・アカーキエヴィチと名付けられる。父の名をつけられ、父称と名が同じというよくあるパターンだ。

 成長したアカーキーは
「いつ、どのような時期に彼が役所に入所したのか、誰が彼を採用したのか、誰も思い出せません。何人もの所長や上司が入れ替わっても、彼は、同じ席、同じ地位、同じ職務で相変わらず書記係りをしているのです。しまいには誰もが、彼は制服を着たまま、頭も禿げ上がり、完璧に役所勤めの準備をして、この世に生まれてきたと思うようになりました。」
相変わらずぱっとしない人生を生きていた。

 そんな彼がすりきれた外套を買い替えようと一大決心。貯金をはたいて立派な外套を手に入れるが、あっという間に追剥にあい奪われてしまう。「身分相応に生きていればよかったのに」という教訓を与えたいならば、その後の展開はあまりにも苦い。

 ふだんから
「わたしをそっとして置いてください、なぜ、あなた方はわたしを虐めるのですか?」
と言っていたアカーキーは、まるで漫画「ぼのぼの」で「いぢめる?」と始終聞いているシマリスくんのようだ。シマリスくんは折を見てリベンジする強さを持っているが、アカーキーにはあったのか。その答えは本作を読んでお確かめ頂きたい。

 ゴーゴリのアカーキーの扱い方に不満だったドストエフスキーが、アンチテーゼとして『貧しき人びと』を書いたのは有名な話なので、併せて読んでみるのも一興。

 アニメーション化に取り組んで四半世紀という映像の詩人ノルシュテイン原案の絵コンテ100余点が挿絵になっている。


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最終更新日  August 13, 2022 12:00:24 AM
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August 11, 2022
みなさん、こんばんは。歌手のオリビア・ニュートン・ジョンさんが亡くなりましたね。
今日もパッシングについて書かれた小説を紹介します。

ひとりの双子
The vanishing half
ブリット・ベネット
友廣 純 (訳)
早川書房

アメリカではほんの僅かでもアフロ・アメリカンの血が混じってさえいれば、「黒人」として人種分類される。本人がどんなに白人のように皮膚の色が白くても、先祖の中に一人でも黒人がいたことが明らかになれば、それで黒人と見なされる。つまり、外見と判断が乖離している状態である。現在ではもちろん人種による差別はないがそれは建前で、目で見えるものによる差別は存在し続けている。法的にも人種による分類は戸籍上存在する。そのため白人と区別できない有色人種が南部から北部の大都市に移住して、誰にも気づかれないままに白人として生きた。いわゆる人種詐称にあたる彼等の行為をパッシングと言う。合衆国の有色人種の割合が混血のために増加の一途をたどるはずであるのに,統計的にほぼ10%のままである一つの理由は、パッシングにあると思われる。架空の街を舞台に据えた本作の主人公である双子達が子供の頃は、法的に差別というものが存在していた。

 アメリカ南部の小さな村マラードは、見知らぬ人が見たら白人と間違えるほど色の薄い黒人が住んでいる。それでも彼等の多くは黒人として、白人よりも低い収入、低い地位に甘んじなければならない。父が惨殺された過去を持つ16歳の双子は、生まれながらに定められた運命に抗おうと都会をめざす。より多くを望んだ姉デジレーは挫折とともに実家に出戻り、妹ステラは出自の秘密に怯えながら裕福に暮らす。デジレーは妹を案じるが、白人として生きることを選んだステラは家族も過去も捨てる。

 彼女の娘たちのうち、一方は漆黒故に周囲から黒人と見なされ、もう一方は母親が出自を隠したために自らを白人だと思って育つ。双子の片割れの行方を絶えず心にかけながら生きるデジレーも、家族をも欺きながら生きるステラも、幸せではない。原題のThe vanishing half=失われた片割れは、デジレーにとってのステラであり、ステラにとっては、ないものとした黒人としての自分である。本作はカラーリズム、家庭内暴力、LGBTも含むアイデンティティ、階級差別など、様々な要素を取り上げながら、双子と彼等に関わる人々の歴史を縦糸に、アメリカという国の歴史を横糸に綴る。


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最終更新日  August 11, 2022 12:00:13 AM
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August 10, 2022
みなさん、こんばんは。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の元理事がAOKI側から金銭を受け取ったとされる事件で、約1億円を自分が経営するステーキ店の借入金返済に充てていたことが分かりました。
今日から2日間パッシングについて書かれた小説を紹介します。

パッシング/流砂にのまれて​
Passing/Quick Sand
ネラ・ラーセン
みすず書房

 「パッシング」とは、肌の色の白い黒人が自らを白人と称して行動する実践である。1920年代、国勢調査で混血という表記がなくなったため、いずれかを選ばなければならなかった“肌の色の白い黒人”のうち、四通りのパッシングを行った者がいる。本作の中でも様々なパッシングを行う女性が登場する。アイリーンは黒人男性ブライアンと結婚し黒人社会で堅実な家庭を築く。今回のように暑くてたまらない時、白人専用のホテルのロビーに入るなど、必要に応じてパッシングを行う。ガートルードは白人男性フレッドと結婚し、彼の家族は皆ガートルードが黒人である事を知っているが、白人社会では素性を隠している。クレアは黒人であることを完全に隠して白人男性ジョンと結婚生活を送っていた。クレアがアイリーンと出会ったのは、アイリーンがパッシングしてホテルにいた時だった。

 クレアの父が死んで以来親戚に引き取られていたが、ホテルで白人といるのを見て、黒人社会のかつての友人は、彼女が「仕事をしているのだ」と思い込む。その事でアイリーンをはじめ黒人たちはクレアと距離を取ってきたが、アイリーンとの再会以来クレアが子ども時代に暮らしていた黒人コミュニティに惹かれた時、事件が起きる。 

 クレアが白人だと知らないジョンの、ガートルードやアイリーンを前にした発言や、ガートルードが子供を持ちたがらない理由によって、黒人が差別に敏感である一方で、無意識に権力を有している白人が差別に対していかに無自覚であるかが描かれる。またパッシング自体自身の人種と決別することであるのに対して、パッシングを成功させるためには、自分の出自を知る黒人の協力が必要であるというジレンマを抱える。同胞どうし助け合うのは奴隷制社会の頃からの黒人の伝統ともいえるが、アイリーンの行動にはその伝統をはみ出す要素も見受けられる。また、パッシングして得た黒人の成功は、しょせん白人として見られる事によってしか成立しない。その事により、黒人女性としての成功が存在しないアメリカ社会が浮かび上がってくる。

 作者の自伝的要素が色濃いデビュー作『流砂にのまれて』は、デンマーク人の白人の母、西インド諸島生まれの黒人の父をもつヘルガの遍歴を描く。「人種」の枠にも伝統的価値観にも宗教にも収まらない彼女は、カラーラインのみならず、いくつものラインの越境者であったが、ひとところに落ち着けない。どこもしっくりとできないまま、黒人牧師と結婚し、行動を起こそうとした矢先に妊娠して黒人社会に留まらざるを得ないというやや消極的な人生の選択をする。

 1920年代ニューヨークでは、アフリカ系アメリカ人による初の文化運動「ハーレム・ルネサンス」が花開いた。彼らは黒人独自の文化アイデンティティを追求し、ジャズ音楽や文学活動、ダンス・パーティや集会で街は活気づいた。本書はこの期の最高傑作とされる小説二編を収める。三作目で剽窃疑惑が起こり、本作に収められている二編も影響を受けて、あまり日の目を見なかった。


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最終更新日  August 10, 2022 12:00:32 AM
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August 8, 2022
みなさんこんばんは。夏の高校野球が始まりましたね。
ブルガーコフの実体験に基づいた小説を紹介します。

劇場
(白水Uブックス)
ミハイル・ブルガーコフ

『船舶通信』のしがない記者兼校正係マクスードフは、昼は新聞の仕事をしながら、夜は小説を書き続けていた。ある夜、突然部屋を訪れた著名な編集者ルドルフィによって文芸誌に掲載が決まり、作家の仲間入りを果たしたが、それが苦難の始まりだった。ルドルフィは発売前の雑誌と共に姿を消し、〈独立劇場〉の依頼で自作を戯曲化するも、演出家の介入や劇場内の対立など、様々な障害によって上演は先延ばしされる。

 ガーディアン必読1000冊に挙がっている『巨匠とマルガリータ』は、ブルガーコフの死後まとめられた。生前の彼がどうだったかを知りたいならば、本作のマクスードフの動きを追えば足りる。とはいっても、冒頭で何者かが明かしているように、マクスードフは自殺している。わさわざ
「故人の作品に出てくるような劇場や人間はどこにも存在していないし、またこれまでに存在したためしはなかった」

-つまりこの作品はフィクションです、と断っている-にも関わらず、劇場のモデルは、やっとこさブルガーコフが舞台をかけることができたモスクワ芸術座、メフィストフェレスのように思われている編集者ルドルフィのモデルは『ロシア』の編集長レジネフなど、名前を変えただけのノンフィクションなのである。

 スターリン体制下のロシアで反革命的との批判を浴び、劇作に活路を見出すも上演中止が相次ぎ、困難な状況に陥ったブルガーコフ自身の体験に基づいており、カオスの中で「自分に力がないから戯曲にこんな差し出口が入るんだ!」と絶望した場面で未完となっているので、救いがない。「若手ばっかりの役で重鎮が演じる役がないのはけしからん」と怒られたり、全然原稿を読んでないセレブが偉そうに感想を述べている横でマクスードフが沸々と怒りをたぎらせていたりと、スラップスティックコメディになる要素はふんだんに持ちながら、そちらに流れていかないのは、冒頭の主人公自殺という事実があるからだ。しかし自分のモデルを自殺に追い込むとは、かなり追い詰められていたのか。


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最終更新日  August 8, 2022 12:00:24 AM
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July 9, 2022
みなさん、こんばんは。作曲家のヴァンゲリスが亡くなりましたね。西部劇の始まりと言われた小説を紹介します。


ヴァ-ジニアン (アメリカ古典大衆小説コレクション)
​The Virginian
オーエン・ウィスター
平石貴樹/訳

「これまで西部劇というジャンルがなかった小説界に初登場したのが本作」と解説にある。そういわれれば「なるほどな」と思う所が何か所もある。

 まず初登場シーン。判事に会うため、列車でワイオミング州メディシン・ボウにやってきた僕は、誰がやっても縄をかけられなかった子馬に、“ある男”があっさりと縄をかけたのを目撃した。うっとりしている間もなく僕は、荷物が紛失したのを知らされる。油断すれば危ない西部の洗礼を受けたわけだ。

 尚も待ち人来たらずの僕は、“ある男”が、晴れ着を来たヒューイの兄さんに孫ほどの年齢の女性との結婚をする件で、散々からかっているのをはからずも聞く羽目になる。二人の会話で男が口が達者なことを知った僕は、暴れん坊の子馬に縄をかけた彼こそが、判事がよこした迎えの人間だとわかる。彼こそがタイトルロール=ヴァージニアンだ。

 誰もやらなかったことを、さも簡単そうにやってのける初登場シーン、軽口を叩きつつも、決して相手から嫌われてはいない人柄、一見何も考えてなさそうに見えて衝突を避けて邪魔者を排除するやり方など、確かに西部劇のヒーローとしてヴァージニアンは理想的だ。
「おれはあんたの家の人に、一言注意しときてえなあ こんなにあんたを一人旅させないように、その前に人生ってものを、もっと勉強させるように、ってなあ」
と西部の荒くれ者からはまるっきりがきんちょ扱いの僕とは異なり、
ヴァージニアンは宿敵トランパスが「くそったれ」と言うと
「おれをそんな風に呼びたけりゃあ、にっこり笑えよ!When you call me that,smile!」
というと、表情は穏やかながら
「ぼくの耳には、どこかで死の鐘が鳴ったように聞こえた。沈黙が稲妻のようにこの大きな部屋に降りかかった。部屋の中の男たちは全員、電磁波に打たれたようにこの緊迫に気づかされた。」
いざという時に凄みを出せる。緩急の使い分けを知っている大人の男だ(でも20代!)。

 好きになった東部出身の女教師を心から愛しつつも、ヴァージニアンの出自や身分を知った家族の反対を受け、苦しむ彼女の大叔母に宛てて
「愛していると言って困らせることは正しいやり方で愛したことにはならないから、お前の命を救ってくれたこの人のために、むしろ身を引かなければいけないぞ。そう自分に言い聞かせてみると、その後自分はどういう人生を送ったらいいか全然分からなくなったので、どこかへ出て行って一生懸命働いたらいいのじゃないかと思って、この人にあきらめるつもりだ、って言ったんです。」
と作為的でなく、女心を蕩けさせるような言葉が自然に書けるジェントルマン。この後も親友ながらも道を分かった男との決別、宿命の相手との対決など西部劇のお約束が続く。ここから西部劇の裾野が広がり、今も進化しつつあるのだと思えば、どのエピソードもなかなかに意義深い。

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。


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最終更新日  July 9, 2022 12:00:25 AM
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June 30, 2022
みなさんこんばんは。この暑さで政府は新たに設けた「電力需給ひっ迫注意報」を初めて発令しましたね。東京電力管内で電力供給の余力を示す予備率が5%を下回る見通しだということです。今日もウッドハウス作品を紹介します。

ブランディングズ城のスカラベ騒動​
Something Fresh/Something New
(論創海外ミステリ)
P・G・ウッドハウス/著
佐藤絵里/訳

ブランディングス城主にして第九代エムズワーズ伯爵クラレンス=スリープウッドは、次男フレディを連れてロンドンにやってきた。フレディの婚約相手アリーンの父でアメリカ人の富豪ピーターズ氏に会うためだ。名門校に行かせれば放校に、陸軍士官学校でも落第と、出来損ないの次男にやっと結婚相手が見つかって、エムズワース卿はやれやれだ。ふと気がゆるんだのか、エムズワース卿はピーターズ氏ご自慢のスカラベを、ピーターズ氏が場を離れた時に、ついポケットに入れてしまう。そして家に戻ってなぜか「スカラベはピーターズ氏がくれたんだ」と思い込んでしまう。もちろんピーターズ氏にはあげたつもりがなく「盗まれた!」と大騒ぎ。しかし結婚が絡んでいるので表沙汰にできない。そこで「取り戻した者には1000ポンド」と限られたメンバーにお触れを出す。

 一方フレディは、コーラスガールをしていたジョーン・ヴァレンタインに一方的に熱を上げて手紙を送り付けたことを、結婚直前になって悩み始める。そこで競馬場で知り合ったばかりのR・ジョーンズ(いかにも怪しげだ)に、その時持っていた500ポンドをぽんと渡して「手紙を取り返して欲しい」と頼む。手紙所持の事前確認も、そもそもジョーンズ氏の身元照会も、価格交渉も一切しないあたりが、いかにもお貴族様らしい。こんなの本人が出て行って話をすれば一発で片付くのに。

今回のスカラベ盗難騒ぎ?も、ピーターズ氏とエムズワース卿が一度出会って話せば済むことなのに、やらないで他人の手を煩わせるから、富豪の従者に扮して忍び込んだ探偵作家、アリーンの友人だが小間使いに扮したジョーンなど、周囲を巻き込んだ騒動へと発展。いいねえ貴族は毎日のよしなしごとに悩まずに済んで。
「あなたみたいなお金持ちの有閑階級が羨ましいわ。じっと座って人生について思いを巡らしていればいいんだから。それに引きかえ、私たち最下層の人間は働かなくちゃならない」

ほら、作品中でも恨み節を言われてる。

 果たしてスカラベは誰の手に? ブランディングズ城シリーズ第一作を初邦訳。まだ妹のレディ・コンスタブル・キーブルと愛すべきエンプレスは出てこない。

 ところで、本編他『ブランディングズ城の夏の稲妻』でも貴族子弟を富豪令嬢と結婚させる企みが登場するが、たった1人の男性の相続人がすべてを継ぐよう決められ、女性は相続できない限嗣相続によるものだ。有名なのは映画にもなった『ダウントン・アビー』で、グランサム伯爵ロバートの妻コーラは富豪令嬢だった。ロバートは長子だったが、広大な領地を維持するために妻の財力を頼った形になる。

 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。


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最終更新日  June 30, 2022 12:00:30 AM
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June 29, 2022
みなさんこんばんは。最速の梅雨明けだそうですよ。今日から2日間ウッドハウス作品を紹介します。

アーチー若気の至り
(ウッドハウス名作選 3)
Indiscretions of Archie
国書刊行会
P・G・ウッドハウス

 第一次大戦終結後のニューヨーク。オックスフォード大学出身のアーチ―は、大戦に従軍ののち、一族郎党から新大陸での成功を祈願されて米国ニューヨークに到着。滞在の初日、アーチーはホテル・コスモポリスで支配人ダニエル・ブリュースターに「ホテルの外に靴を置いておいたのに磨いてなかった」「水道の蛇口から水が出っぱなしで眠れない」と文句たらたら。お互いに「こんな奴とは二度と会うまい!」という最悪の出会いをする。向かった先のフロリダで美女ルシールと恋におちて超スピード結婚するが、ルシールはなんとダニエルの娘だった。

有名なジーヴズシリーズをはじめ、ウッドハウスの既刊本のキャラクターとは異なる点は
1.主人公が従軍兵であること
2.有力&裕福な親戚がいる貴族の青年ではないこと
である。

逆に
1.役に立つのか立たないのかよくわからない気のいいだけが取柄の友人がわんさか
2.仕事についてなくても焦らず「いつか誰かが何とかしてくれる」と主人公が思っており、なぜか主人公の周囲でも同意する人多し
3.甲斐性なしなのに美女に惚れられる
という共通ポイントも。特に、戦後PTSDを患う復員兵も多かったはずなのに、戦争の陰を少しも引きずっていないアーチ―というキャラクターは、ウッドハウス作品でしか見られないのでは。

 義父は仕事をくれず、金欠になったアーチ―が友人のアーティストJ・B・ウィーラーに頼まれてバイトをする→水着姿になって待っていたがウィーラーがなかなか来ない→はずみで外に出たら締め出される→とんでもない姿なので隠れるが、ちょうどその時巷では強盗事件が起こっており、アーチ―が疑われる
など、一つの出来事が予想外の大事に展開してゆくエピソードが多数紹介。そしてその度に、世間的にはまともであるはずの義父ダニエル・ブリュースターがとばっちりを受けてしまうパターンはいつものウッドハウス節。本邦初訳。


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最終更新日  June 29, 2022 12:00:27 AM
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June 8, 2022
みなさん、こんばんは。俳優のフレッド・ウォードが亡くなりましたね。今日から9日間シュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。

聖伝 (ルリユール叢書)
Die Legende der dritten Taube :Die Augen des ewigen Bruders
(ルリユール叢書)
シュテファン・ツヴァイク/著
宇和川雄/訳 籠碧/訳

「永遠の兄の目Die Augen des ewigen Bruders」(籠碧 訳)はまるで中島敦の「名人伝」のような作品だ。「名人伝」は弓の名手が究極の名手を目指した所、弓すら忘れてしまい数多の名人たちをかえって驚嘆させる話だ。

 ビルヴァーガーの王が弟に背かれ、絶体絶命の危機に陥った。その時王は「刀剣の雷」と異名を持つ勇敢な戦士ヴィラ―タに助けを求める。劣勢の中ヴィラ―タは敵軍を蹴散らす。しかしある逆賊の顔を見てヴィラ―タは目の前が真っ暗になる。なんと兄だった。血を分けた兄を殺してしまったヴィラ―タは、軍人を止めたいと王に願い出る。ならば人を斬らない職業にと王が勧めたのは裁判官だった。裁判官として優秀だったヴィラ―タは「正義の源泉」と呼ばれ一度も誤った判決を下したことがなかった。ところがヴィラ―タはある被告から
あんたは他人の言葉から、どうやって真実を知ろうっていうんだ?

と言われ、自分の判断に疑いを持ち始める。死刑判決で人の命を奪う事の出来る職業もまたヴィラ―タは辞退し、家族と離れ隠者として暮らす。ところが彼を慕ってやってくる人が後を絶たず「孤独の星」と呼ばれたヴィラ―タが選んだのは…。

 解説者が「ポジションの移動があるたびかっこいい異名を手に入れている」と称するヴィラ―タは、つまりは何をやっても優秀なのである。だから人の注目を集め、影響力も大きい。彼の行為の中には、意図したわけでなくても悪い結果をもたらす事もある。そもそも社会で生きている限り、誰にも影響を与えず生きていくことはできない。それなのに「一切の悪と関わりたくない、一切の悪事を為したくない」と願うならば究極の方法は何もしない=無為と同義である。最初は謙遜だと思い、忠臣ヴィラ―タの願いを聞いていた王が、途中で態度を変えたのは、ヴィラ―タを傲慢だと感じたのではないか。一切の悪を引き受けずに、社会生活を営むというなら、汚れ役は他の誰かが引き受ける事になる。

「第三の鳩の伝説Die Legende der dritten Taube」(籠碧 訳)は聖書に登場する第三の鳩が主人公だ。え、そんなのいた?と思う人はノアの箱舟を読み返すべし。ノアは三回鳩を飛ばしている。一度目は鴉と一緒に飛ばして鳩だけが戻ってきたので「地上がまだなく、鳩が降り立つ場所がなかった」とノアが考える二度目は鳩がオリーブの葉を口に咥えて戻ってきたので大洪水が終わった事を知る。そして三度目に飛ばした鳩が戻ってこなかったことで、ようやくノアは上陸を決断する。三度目の鳩は大洪水を経て浄化された地に住むはずが、途中で争いが起こり、今度は安住の地を失ってしまう。第一次大戦中は反戦活動を行い、第二次大戦中はロンドンへの亡命を皮切りに世界を巡り、妻と共に自殺したツヴァイクは、つまりはオリーヴの葉を置き損ねた第三の鳩である。

 さて、二つ哀しい話が続いた後の残りの二つは希望がキーワードだ。「バベルの塔Der Turm zu Babel」(宇和川雄訳)は、こちらも有名な、神が起こって人間の作った塔を壊したら皆ばらばらの言葉を話し始めた塔の事だ。ストーリーはそのままだが、いつか再びバベルの塔が築かれることを期待して終わる。

 「埋められた燭台Der begrabene Leuchter」(宇和川雄 訳)本編のいわゆる聖伝=聖人伝説の聖人たちは、少しも幸せになっていないが、本編の主人公ベンヤミンもその一人だ。ローマ人の侵攻によって居場所を失ったユダヤ人たちのもとに、聖燭台=メノラーが奪われた知らせが届く。メノラー奪還を目指す長老たちの旅に同行した当時7歳のベンヤミンは、燭台に手を伸ばした時に混乱した民衆に巻き込まれ腕を折ってしまう。その後結婚し家族も増えるがベンヤミンは“最後にメノラーに触った人”として注目を集め、奪還する者として期待される。やがて絶好の機会がやってくるが。偶々何もわからない子供の時にメノラーの証人として呼ばれただけのベンヤミンが、一度の出会いによってその後の人生を支配されてしまう様は選ばれし者の宿命であり、他方から見れば悲劇でもある。しかしメノラーが現世の誰かに所有される形にならなかったことで「いつか誰かによって世に出る」という希望が残る終わり方になっている。

 ところで貴方、聖人になってみたい?


聖伝 / 原タイトル:Die Legende der dritten Taube 原タイトル:Die Augen des ewigen Brudersほか[本/雑誌] (ルリユール叢書) / シュテファン・ツヴァイク/著 宇和川雄/訳 籠碧/訳​​ネオウィング 楽天市場店







最終更新日  June 8, 2022 12:00:23 AM
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May 20, 2022
みなさん、こんばんは。ジャニーズ事務所は人気グループ「関ジャニ∞」の大倉忠義さんが「右低音障害型難聴」と「両側耳鳴り」のため、一定期間活動を休止すると、公式サイトで発表しましたね。今日もアンネ・フランク関連の書籍を紹介します。
こちらはフィクションです。

隠れ家 アンネ・フランクと過ごした少年
Annexed
シャロン・ドガ―
野沢 佳織 (訳)
岩崎書店


 世界的大ベストセラー『アンネの日記』で、書き手のアンネはナチスドイツの悲劇のアイコンになった。アンネの隠れ家生活の唯一の明るい物語として、いかにも普通の少女らしい初恋エピソードが登場する。相手は同居人の息子ペーターだ。隠れ家には他に年ごろの男の子がいないので、そもそも選択肢がなかったのだ。

 本編は1945年、マウトハウゼン強制収容所で死にゆくペーターの回想から始まる。ペーターについては「アンネの父オットーが止めたにも関わらず、死の行進に参加して死んだ」という説が有力だが、本作は「収容所での死」説を選ぶ。アンネの初恋の相手として、ペーターも若干神格化された感があるが、敢えて本書は読者の固定観念を壊そうとしたのか、のっけから別の女性の事を思い、いかにも年頃の少年らしい妄想にふける場面が登場する。実在の人物が書いた日記にオリジナルの要素を追加する事が論争を呼ぶかもしれないことは、著者も予測していたと思われるが、概ね好意的に受け取られているようだ。前半は『アンネの日記』に書かれていた内容を踏襲しつつもペーターの視点からアンネとその家族、そして隠れ家生活を描いている。ペーターの一家が隠れ家の家主的存在のフランク一家に遠慮していたこと、アンネの日記では多少辛辣に描かれていたペーターの母が、慈愛深く息子を心配する女性として描かれていた点が新選である。後半の収容所生活は全くの想像と、収容所から生還を果たした作家プリモ・レーヴィの著作を参考にしたオリジナルだ。







最終更新日  May 20, 2022 12:00:39 AM
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