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カテゴリ:本
「闇にかかわる」作品として、今村昌平のうなぎと、吉村昭の闇にひらめく、仮釈放、吉村昭が称賛した梶井基次郎の闇の絵巻などがあって、それらはいずれも醸し出される闇と光が同種の漆黒を基調にしてよく似ていると、昔、思い、書き留めたことがある。
機会があって、今村昌平の「赤い殺意」を見たところ、また、吉村昭の初期短編で表された人間と風物の陰影が思い出された。 吉村昭の短編は、人の営みの表裏のやるせなさ、生死の境目のはかなさ、自他の境の曖昧さと残酷さなどを直截に描きだしていると思う。精緻で鮮烈な描写が続き、光、風、雨、音、湿気、暑さ、寒さに、人物が眼前に削り出されてくるようだ。昆虫のぬめり、鳴声、緩慢な動作等の簡潔な記述も、人物の心象と生活を表すようで、今村昌平の映画と重なる気分になる。繰り広げられる男女間の打算と、ほどけぬ束縛感と、突然の開放は、戦後の世相の中で、露骨にひきづりだされた人間の本性の結果のようにも見えてくる。 今村昌平の「日本昆虫記」「豚と軍艦」も同種の主題があると思い出された。終戦後の昭和の文芸は、実に迫真で、すさんだ陰影を隠さないと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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吉村昭先生の作品は、私は心惹かれるものがあって
読むのですが、シンプルな勧善懲悪物とは違う重さにやられて 面白いのに、読後にダメージを受ける作品群とイメージしています 「仮釈放」は重かったですね 裏切り者を許すべからずという気持ちも理解できます 犯罪は許されない、罪は反省すべしというのも至極当然 しかし、高ぶった感情を制御出来る人は、多くはありません 人間とは愚かなものですな 最近、運転中キレてしまった迷惑な人達がニュースを騒がせていますが あれも口先だけで反省は出来ないでしょうね・・ (Dec 11, 2018 03:39:48 PM)
うしまるさんへ
私も、読後、ふうっと一息つきます。息詰まってしまう結末に何か突き付けられたような、お前はどうなんだと詰問されたような気持ちになることが多いです。それが、他にない無類の作品だと思って愛読しています。類例化できない人間の様々な姿を描いていると思っています。 司馬遼太郎に嵌って読み漁った時期もありましたが、最近は、吉村昭と今村昌平です。今村昌平のうなぎの舞台は、佐原の与太浦という、利根川と霞岐浦の間にある河川沿いの浦で菖蒲園もあるまっ平らなところで、随分前に行ってみたことがあります。平和な風景でしたが、そこは、普通の人間の底に潜むものを表にだすのに相応しい普通の風景であったのだと思います。 まじめに忠実に過ごす人間にも、抑えきれぬものが潜んでいることを暴いていると思っています。 抑えきれぬ衝動は、回転方向によって浮沈してしまうと思い知らされ、正しい向きに制御し、環境をみずから選び作り上げることが人生なのだとしることになります。 どうにもならぬ時代の流れの中で、格闘する姿を描いたのが歴史小説で、現代は、自分で未来を制御できる幸福な時代であることをしらしめられているのかとも思います。 わけのわからぬ欲動事件は、すくいようのない猟奇事件のようですが、その背後に、知らねばならない、あってはならないこと、許してはならないこと、やってはならないことがあるかも知れないと思っています。吉村昭にはその存在を明らかにしているのかとも思っています。 ややこしくなりましたが、自然の中の生き方、いつものぞかしてもらってます。ご活躍期待してます。 (Dec 11, 2018 08:12:20 PM) |