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カテゴリ:回想
【秋風の薫り漂うモン・ロワイヤル・パーク 】
街行く若者のありきたりのファッションなんかよりも、 やはりヴィヴィッドな天然色に彩(いろど)られた自然界のキャンヴァスに 魅せられてしまう。 鮮烈な空の青をバックに山々の紅葉の情熱的な赤が燃える。 本当に山が燃えているのではないかと思わせるくらいの激しい色合いだ。
モントリオールのダウンタウンから北へ少し上がったところにその公園はあった。 山そのものが公園なのか、公園そのものが山なのか、 そんなことはどちらでもいいのだけれどとにかく広い。 この街のフレンチカナディアン(フランス系カナダ人)たちの憩いの場として、 あるいは恋人たちの語らいの場として、 この広大な自然公園はなくてはならない存在だという。
長い階段を上がっていく途中にも、 色とりどりの葉をつけた木々のトンネルが訪問者たちを迎えてくれる。 気温は15度前後。階段を上りつづけていると息も上がり、 全身にじわじわと汗をかき始める。
山の中腹を過ぎた辺りでベンチに腰かけて、ミネラルウォーターでのどの渇きをいやす。 リスがチョコチョコ走り回って、ふと止まった瞬間に僕と目が合った。 2本足で立ったままじっとして、何か物欲しそうな目でこちらをじっと見つめている。 その目があまりにも愛らしかったので、僕はデイパックからマフィンを取り出して 小片を彼の前に放り投げた。 彼は前足でそのマフィンを支えながら、実に鋭い歯で嬉しそうにかじり始めた。 "Merci, Monsieur(メルシー、ムッシュー)." とその目が語っているように思えたのでもう一切れ...。
リスは僕のベンチまで近づいてきてさらにおねだりを続ける。 自然界のバランスを崩すような行為は慎むべきだったか、と思いつつ、 最後の一切れを差し出して彼に別れを告げた。
要所要所でそれらが階段の正規ルートと交わっている。 ウォーカーやジョガーはもちろん、マウンテンバイカーも 颯爽(さっそう)としたスタイルで現れる。 それが親子連れであったり、愛犬とその主人であったり、 夫婦や恋人同士のカップルだったり...。 自然とともに楽しむ相手がいるなんて素敵だなあと思いつつ、僕はここにひとり、 6月1日に始まったカナダ横断自転車の旅(アラスカ、アンカレジ~ケベック9,307km) を数日後に終えようという今、平和な午後の公園でゆったりとした時間を過ごしている。
やがて公園の頂上へとたどり着く。 モン・ロワイヤル山は街の中にあって、すぐ近くまで高層ビル群が迫っている。 とはいってもニューヨークや東京ほどゴミゴミはしていない。 ビルの向こうを流れているのはサン・ローラン河。 この河の行き着く先が大西洋、 そして今回の僕の旅の終点となるケベック市がそこにあるはず。
(モントリオールで拾ったカエデで作ったカナダの国旗)
空はどこまでも青く、カナダの国旗にもあしらわれている 真っ赤なメイプルリーフ(カエデ)を一枚拾って太陽に透かしてみた。 故郷にもこの秋が間もなく訪れるのだろう。 僕はそのメイプルリーフをそっと手帳にはさみ、 午後3時のモン・ロワイヤルパークの空気を胸一杯に吸った。
人々がフランス語で話すのが聞こえてくる。 間違いなくここは異国だった。
ケベック州道138号線
たそがれ時のモン・ロワイヤル・パーク
人それぞれの楽しみ方を…
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