ミュンヘンからやってきた生活の道具・BMW/E46・318ti
都会と違って、地方でクルマは単なる生活の道具である。本来は、税金を搾取する道具であったり、既得権者の為のものでは無い筈だ。創業1916年の元が航空機エンジンメーカーというBMW。昔はドイツ読みのベー・エム・ヴェー(バイエリッシェ・モトレン・ヴェルケ)が通名だったけど、今では英語読みのビー・エム・ダブリューに統一されたようである。(英語だとババリアン・モーター・ワークスなので表記は同じ。)社名の意味は「ババリア地方のエンジン製造会社」というそっけないもの。ドイツでも保守的で排他的とも言われる、バイエルン地方で独自の進化を続けて来たBMWは、クヴァント家がオーナーであり絶大な権力を握っている。デザインに関しても、点灯した時に丸く見えるライトとキドニーグリルを頑なに守り、保守的に見えて実は先進的だったメルセデスよりも、遥かに保守的なメーカーであった。かつては長い事ストラット・マクファーソンとセミ・トレーリングアームに固執して、フィールが良いからと長くて重い直6と、理想的な吸気のスワールの為に2バルブエンジンに拘り、E46になってもキャンバー角の変化を嫌い、主流のマルチポッドではなく、シングルポッドのフローティングブレーキを使っている位である。基本的にアウトバーンの高速コーナーリングを駆け抜ける為にデザインされたBMWは、操作するコントロール系が重いのも特徴。そのくせ、どこか都会的なイメージのクルマ造りでババリアの貴公子と表現されていた。普段乗っているクルマは後期型のBMWの318ti(E46)。2004年型だから、もう13歳。318tiのtiは、トゥーリング・インターナショナルの略で、元々はアルファ・ロメオが高性能版に使っていたもの。BMWがアルファ・ロメオに使用の許可について打診をした所、快く承諾してくれたそうだ。BMWでも02時代には高性能バージョンのモデルに付けられたバッジなのだ。このクルマは、1998年にデビューしたBMWのヒット作、E46・3シリーズの末弟ともいうべき存在で2001年に登場。他のモデルの先駆けて、エンジンにバルブトロニックという新機軸を搭載した意欲作だったけど、他の3シリーズとは全然違うデザインのお蔭で.まったく売れなかったクルマ。当初はトルク感の薄いN42系だったエンジンも、2003年から改良版のN46系にアップデート。エンジンは当時のBMWの先端技術がてんこ盛り。ご自慢のバルブトロニック以外にも、吸排気の可変バルブタイミングや、共鳴加給なんてのも装備して、いかに気合を入れていたか分かる。ちなみにバルブのタイミングはチェーン駆動である。このエンジンは、どうも最大で2000ccの排気量が限界のようで、恐らくボアピッチもギリギリで、とにかく軽量コンパクトに主眼が置かれた、新時代のエコ・スポーツ・エンジンというもののようだ。国産スポーツの代表格である、86/BRZのエンジンと同じ思想だ。316に積まれる、姉妹機の1800ccはストロークを変えて対応している。このN46エンジンは、低速域だとそれ程存在感もないし、エンジンを掛けた当初なんかディーゼルエンジンみたいな音なのだけど、走り出して少し流れに乗って温まってくると、高精度で重さがある金属パーツが油膜の上を動いている事が分かるような、ねっとりとした独特のフィーリングを感じ取る事が出来る。大体2000rpm以下だと、必要最小限のトルク感しかないけど、2500rpm辺りからトルクに厚みが乗ってきて、バルブタイミングの変わる3200rpmから別物になり、音も変化して4気筒らしいパンチのあるエンジンになる。リアのサスペンションは、Z1用に開発されて従来のセミトレーリングに変わる、独自のセントラルアームで、コーナーリング時にはサスペンションがバンプし、横に蹴り出した時に、トー変化がイン方向、キャンバー角がネガティヴ方向に変化するのだ。これに加えてフロントミッドシプのFRなので、コーナーリングは極めて優秀。FFのようにアクセルを緩める事もなく、ちょっとオーバースピードだったかと思っても、見事に何もなかったかのように抜けていってしまう。とにかく、速く走りたいと思えば十分速くなるし、初めてのコーナーが思ったよりも急であっても何事もなく、こちらが、ちょっと無茶かなと思っても軽くいなされてしまう懐の深さ。何より、最近の肥大化して派手なヨーロッパ車と比べて、地味だけど大きさも取り回しも申し分がなくて、とにかく日常使いには、いぶし銀のような良いクルマなのである。重量配分に関しては、50:50ではなくて車検証を見るとエンジンのあるフロントの方が重い。FRの場合、リアにはデフ等を固定するためのサブフレームがある分、重くはなるけどボディ剛性は上がるので、ボディの寿命とサスの動作には有利になる。どうも、このクルマは、BMWの入門車として、若い夫婦二人と子供を乗せる事を想定していると思われる。殆ど一人で乗るような使い方では何の過不足もなく、極めてバランスの良いクルマであり、取り回しなんか、小型のFF車よりも小回りが利くので実に楽だ。カタログの横写真を見ると良く分かるけど、前後のオーバーハングが殆どないのが特徴。リアはセダンのトランク部分をぶった切ってある。いわゆるコーダトロンカとかカムテールと呼ばれる形状である。リアアクスルの外側の軽量化という点では一番有効で簡単な方法。コーナーリングに関わる慣性モーメントを可能な限り小さく出来る。因みに重さのあるバッテリーはリアの低い位置に収められている。右上は小さなミニカー。不人気車なので、これしか見つけられなかった。実車のエンジンルーム。コンパクトなN46ユニットが、フロントアクスルよりも左側の運転席側にあるフロントミッドシップだ。これでFR車なので大きさと重さの割に峠道は実に軽快。高速では、どっしりと落ち着いたハンドリングには毎回感心する。同じ2000ccでも、6気筒のように鼻先にフロントアクスルよりも飛び出て70Kg近い重量差は、スピードがあるほど慣性モーメントの増大が顕著なので物凄く効いてくる。リアのテールランプが透明なのが初期型。コーダトロンカのリアも特徴の一つだけど、雨の日は汚れが凄い。前期型には、マニュアルもあったけど、後期型にも欲しかった。車体の前も後も車軸の外側の重量が小さい事が、このクルマの最大の美点である。本国には6気筒の2500ccやディーゼルもあった。ノーマルタイヤは318ciと同じサイズの195/65にインチダウンしてある。ドア内側のタイヤ圧表にも、ちゃんと表記されているサイズ。ブリヂストンのプレイズPXは、余り路面の情報を伝えないらしいけど普段乗りならその方が良い。とにかく安くて軽量で、進行方向に対する路面や轍の影響も小さいので実に快適である。だいたい、生活のアシというか道具グルマに、見てくれと流行りというだけで、ホイールにガリキズが付きやすくて、高価で硬くて重い扁平タイヤなんか履いてもデメリットの方が遥かに多いのだ。高速でも、調子よく飛ばしていたVWのシロッコに付いて行ってみたけど何の問題もない。去年の暮れに6年ちょっと使ったバッテリーをボッシュからパナソニックのカオスに交換。電装パーツは国産ブランドが一番である。ついでにオイルは、行きつけのエネオスで欧州車用の一番安い奴。このクルマの最大の欠点は、電装パーツやゴムとか樹脂パーツのボロさである。恐らく、ドイツで使用を強制されているリサイクルの低質材料が原因と思われる。電装というと、2万キロちょっとでDSCセンサーがおかしくなり、3万キロほどで空調ファンが寒くなると異音を発生。ファンのポンコツは有名らしく、どうせ再びおかしくなるだろうから、交換はせずに冬はオンオフを繰り返して温めながら使用。75年式のアルフェッタでさえファンは今でも何ともないのに。樹脂というと、5万キロちょっとまでにラジエーターホースのセンサー付近と、樹脂製の継ぎ手が折れて水漏れが2回。一歩間違えれば致命的な事であり、今時のクルマとは思えないボロさである。窓枠下のプラスティックは3万キロでヒビが入り今ではボロボロ。外側のゴムシール材なんか拭けば真っ黒。イタ・フラ車以上にボロい部品を満載しているBMWの実態がこれである。クルマとしては上出来だけど、残念ながらそれほど寿命は長くないだろう。日の当たるフロントのエンブレムは、1回だけ自分でコンビニの袋を使って交換した。ただ、ゴムの穴に刺さっているだけなのに結構硬い。プラスティックだけど、アルミで出来たアルファロメオのエンブレムよりも遥かに耐候性がある。BMWの場合、VINコードと言われる車体番号で色々分かる。全てに意味があって、例えば1、2桁で車両の製造会社を表している。1桁目 国コード 1,4 : USA 2 : CANADA 3 : MEXICO J : JAPAN W : Germany K : KOREA S : ENGLAND Z : ITALY2桁目 会社コード A : AUDI B : BMW AG H : HONDA A : JAGUAR D : MERCEDES N : NISSAN T : TOYOTA V : VOLVO V : VWBMWの場合、11桁 目 のアルファベットが製造した工場を表している(Plant of Manufacture) A,F,K=ドイツ・ミュンヘンB,C,D,G=ドイツ・ジンゲルフィン E,J,P=ドイツ・レーゲンスドルフ L=アメリカ スパータンバーグ サウスカロライナN=南アフリカ・プレトリアV=ドイツ・ライプチヒ W=オーストリア・グラーツのマグナ・ステア―工場 Z=ドイツ・ベルリン今、日本に入ってくるほとんどは南アフリカ製だろう。ベルリン製のBMWは聞いたことが無い。この中で渋いのがマグナ・ステア―。以前はシュアタイヤ―・プフという会社で、軍事用の多輪駆動のクルマを作っていた本物の自動車メーカーである。昔は、フィアットの初期型パンダ4WDのリアゲートにもバッジが付いていたし、日本のメーカーも4WDに関してパテントの関りで有名であった。今でもX3とか、不細工で大嫌いなミニ・クロスオーバーもここで作られている。所で、我がE46・318tiは、ミュンヘン工場製である。いかに気合が入っていたか分かろうというもの。トータルでは、やっぱりBMWって良いなと思う飽きの来ないクルマだ。318tiは、その後独立したシリーズとなり、いまでも1シリーズとして受け継がれている。今時のアメリカと中国市場重視のヘナヘナの足回りと、デカくて重くて派手なBMWは、どうにも好きになれない。最新型はシートが仕事の椅子から、寝そべるようなものに変わったらしい。ヤレヤレである。2017-11月加筆 : 12月17,18日加筆ある2月の寒い朝、家を出ようとエンジンを掛けて暫くすると、エンジンがブルブル振動を発生。やがてモウモウたる煙を吐き出したのである。クルマ屋さんに連絡をして、入院ついでにリコール案件のタカタ製エアバッグ交換をお願い。元々、長野県の外車ディーラーは総じてレベルが低いのだけど、松本から返ってきた318tiは、エアバッグ関連の部品交換でバンパーを外したらしい、バンバーは傷だらけでウインカーランプが割られていたのに驚く。もう古いクルマだから良いけど、詰まらないロゴ入りバッグ一個と、煙幕修理の見積もりだけで何と8万円というのを半額に値引きでお仕舞である。この一件だけでも、こういう出鱈目仕事が許されているという事を見ると、日頃から口を開けていれば、餌が向こうから勝手に飛び込んでくるという、殿様商売をしている長野県の正規外車ディーラーの放漫ぶりが良く分かる。今後、こんな所に大事なクルマを預けたり購入する気など一切ないけど、煙幕を吐いていた原因だったバルブ部分の修理が20万円というのも理解不能。これは地元のクルマ屋さんで、最低限の修理でいけるだろうと言う事で1/4弱程で直してもらった。この煙幕現象は、どうやら寒い時期になると起こりやすいようで、N46エンジンは機械部分の信頼性にも疑問がありそうだ。やはり、BMWはイタ・フラ車以下の出来具合だなと再確認。走らせると実に良いクルマだし、去年の暮れに車検を取ったばかりなので、意地でも乗り潰そうかと思っているけど、どうも先が思いやられる。20年位は乗ってみようかと思っていたのにな。2018-4月追記2018-7月追記2019-12月:車検取得。2020-4月:再度エアバッグリコール+右側ドアミラー落下粉砕。ドアミラーは両面テープの劣化。左側も落下寸前だったので外して右側に取り付け。左側は、取り合えず近所のホームセンターでステンレスの丸板を探してピカールで磨いて取り付け。エアバッグはディーラーと関わるのが嫌なので無視する。良いクルマなんだけど、次の車検はもう無いな。2021-12-11 走行距離78400Km廃車手続き=印鑑証明+委任状+車検証(エンブレム一式とブタッ鼻グリル取り外し)まだ人間工学に重きを置いた旧き良きドイツ車でした。