【内容情報】(「BOOK」データベースより)
終戦の年に生まれた“わたし”は、九段の花街で育った。 家は置屋から芸者を呼ぶ料亭「八重」であり、 母は評判の芸者で、祖母がその雇い主をつとめていた。 客として訪れた父は母と知り合い、わたしが生まれた。 小学二年生のとき、わたしは置屋「鶴ノ家」に住む子・哲治と出会う。 それは、不可思議な運命の糸が織りなす長い物語の始まりだったー。 新境地を拓く魂の長編小説。
かなり長編だった。 そして、主人公”わたし”の心理を理解するのが、難しかった。 作者がどういう意図を持ってこの作品を書くに至ったのか、 推測する術もないけれど、渾身の力がこめられ書かれているのは 間違いなく、この作家が一歩上の段階へ上ったと感じた。
なかなか咀嚼できないのが、”わたしの”哲治に対する感情である。 やはり、憐れみから生じた愛情ととらえるべきか。 だが、その愛情は、いわゆる男女の愛とは考えにくい。 ”わたし”は、哲治はわたしの分身、”わたし”自身であると言う。 夫や娘を捨ててまで、老い落ちぶれた哲治と生きていく”わたし”は、 ナルシストに他ならないとも思えてくる。
ふたりは、赤い糸ならぬ白い糸で結ばれていたのか。
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