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カテゴリ:裏札幌案内
札幌は都心や郊外はつまらないが都心の周辺部がいい、昔ながらの建物が残っていたりする、とあったのは本多勝一「北海道探検記」だっただろうか。
たしかに、バブルのころまでは、開拓時代のアメリカを思わせるような洋風の木造建築があちこちに残っていたし、いまも少ないが残っている。 店も似た傾向があり、都心でも郊外でもないような微妙な場所にいい店が多い。そしてそういう店は、観光客はもちろん、地元の人間も案外知らない。 この店もそんな店の一つ。札幌駅北口で10年、地下鉄北12条駅すぐの今の場所に移転して5年というから、地元に根付いているといえるが、知る人は限られる。 住所はあえて載せない。東京で有名なとあるタイカレー屋の味によく似た、しかしそのカレー屋よりおいしいと評判のスリヨタイというタイカレー屋があるが、その店と同じビルとだけ書いておく。 旅で困ることが多いのが夕食、特にお酒を飲みたいときの店の選択である。 「吉田類の酒場放浪記」に出てくるような居酒屋は一見客は敷居が高い。男のわたしでさえそう思うのだから、女性はなおさらだろう。だいたい、賑やかな店でひとりぽつんと飲んでいるとよけいに孤独を感じる。 居酒屋は日本酒や焼酎がメーンでワインやウィスキーはあまり揃っていない。かといって、イタリアンやフレンチは気楽にひとりで入ることのできる店は少ない。 わたしは家ではまずビール、次にワイン、最後にバーボンというような飲み方をするが、その都度、飲むお酒に合うものを用意する。しかし、外では絶望的に難しい。 その絶望的に難しいことが可能なのがこの店。ビールは何にでも合うが、ワインは食べ物との相性が難しい。店主はワインと食べ物の相性に詳しく、思いがけないものを提案してくれたりする。シャブリにはさよりの干物をすすめてくれたが、驚くほど合っていた。 シャブリにさよりの干物を合わせることのできる店は、世界的に見てもここだけではないだろうか(笑) そういうオリジナルな「発見」をできる店主のいる店というのが、案外ないものなのだ。 何度も行ったわけではないので、メニューについてはよく知らないし覚えていない。しかし、うちのこれはこの産地の・・・みたいなこだわりはないのが疲れなくていい。メーンはやはり炭火の焼肉、それも店名の由来になっているラム肉なのだろうが、どれもハズレはなさそうだ。お通しに出た白菜の漬け物など、多分手作りだろうが塩加減と発酵具合が絶妙だった。 白菜の浅漬けは自分でもよく作る。こういうものが案外難しいのだ。 ここのラム肉は焼いていても全く煙が出ない。脂肪分をほとんど落としているので、服や髪に匂いが移ったり脂っぽくなったりすることがない。だからフォーマルな服装のときでも気にせず焼肉を食べられる。 これは実際上、非常にポイントが高い。 ちなみに、脂肪分やアルコールの大量摂取で急性膵炎になることがある。急性膵炎とは膵臓そのものを膵液の酵素が消化してしまうという恐ろしいもので、重症化すると1割の人が死ぬ。重症化しなくても数ヶ月の入院を余儀なくされるケースがほとんどだ。 だから30歳すぎたら静かにグラスを傾けながら肉をつつく、というような飲食の仕方が大事なのだが、「くにむら」のような店は稀だ。 わたしは生っぽい肉が好きなので、ローストラムをよく食べる。ローストラムといえば、サントリー主催のパーティで故武満徹が珍しがってよろこんで食べていたのを思い出す。しかしあのときのラムはひどいものだった。ラムは特有の匂いを嫌う人が多いが、嫌う人の気持ちがわかるようなローストラムだった。 しかしこの店のラム肉はローストだろうがしゃぶしゃぶだろうがほとんど臭みがない。 店主は50歳というが、学生ぽさを残している不思議な50歳である。倉敷出身で北大に入り、卒業後もそのまま札幌に住んでいる。北大出身の居酒屋店主というのは、昔はいたが、今は珍しい。かの恵迪寮出身というのがヒントかもしれない。全国から入学者がやってくる北大出身者らしく、札幌や北海道の特異性を気づかせてくれる面白い視点で話をしてくれるが、これがお酒を飲みながらの話にはちょうどいい。 「秘密のケンミンショー」というテレビ番組があるが、あの番組を面白いと思い、もう少し突っ込んだ内容を面白いと思う人なら、目からウロコの話がいくつも聞けるにちがいない。 北大出身なのに居酒屋をやっているのには、何か物語があるにちがいない。中退者なら俳優の斎藤歩のように、面白いことをやっている人は珍しくないのだが、ちゃんと卒業証書をもらったのに隠れ家的居酒屋をやっている背景には、屈折した人生のドラマがあると思われる。 ほかの街に行ったときも、この店のような店があるといいと思う人は多いはずだ。ひとりで旅をしたとき、静かにゆっくりお酒を飲むことができて、食事もできる。気取りすぎていず、大衆的すぎもしない。たまたまヒマなら店主とも話せる。自分の中にそういう店のスタンダードを作るのに、この店を経験しておくのは有意義だと思う。 札幌での夕食というとビール園か、せいぜい「だるま」でジンギスカンという観光客は多い。しかし、札幌ビール園は、建物の雰囲気はいいが、テーマパークのようなもので味は絶望的にひどい。地元の人間は、客のお付き合いで行くことはあっても自発的には決して行かない。 ビールやワインを飲みながら静かにジンギスカンを食べるという、およそ不可能なことができるのがこの店であり、30代以上の女性やカップルにとっては居心地のいい店だと思う。 わたしくらいの歳になると、メニューの細かい字を読むのが面倒になってくる。こちらの希望を言うと、適当に出してくれるような店がいい。そういう店主のいる店というのは和食店に多いが、あいにく和食店はワインの品揃えが絶望的でしかもワインについてよく知る店主は皆無なので、ワイン好きはどうしても足が遠のいてしまう。 大衆的な居酒屋に比べると値段はやや高めだが、それがいい、というか、そういう店にいい店が多いという「勉強」にもなる。高い店でも安い店でもなく、少し高めの店。そういう店を選ぶことで、格段といい体験ができるものなのだ。 大事なのは絶対的な価格ではなくコストパフォーマンスである。 大通駅からは二駅、札幌駅からは一駅なので、まちがって都心に宿をとっても、ブラブラ歩いて行ける距離にある。ちなみに、大観光地である札幌はホテル事情が貧困で、都心のホテルは高いだけでなく狭い。 どの街でもそうだが、店と同じように、都心から少し離れた、ツァー客があまり泊まらないようなホテルをとるといいことが多い。 この店の近くにもそこそこのホテルがある。ひとり旅ならじゅうぶんだし、地元の人間も、飲み過ぎたとき、終電を逃したときなどは重宝する。北大がすぐ近くなので治安は悪くないし、静かで落ち着いた雰囲気がある。早朝の北大散歩など、季節のいいときは最高に気分がいい。 蠍座という名画座も近いし、学生向けの飲食店やスープカレーの店なども多い場所なので飲食に困ることはない。 四半世紀ほど前、この近くに住んでいたことがあるが、そのころから環境はよく便利だった。こう書いてきたら、このあたりに住みたいという気持ちがふつふつとわいてくる。 それにしても、つくづく思うのは店は料理ではなく店主で選ぶべきだということである。ひとりでいたいときは放っておいてくれて、関心のあることをきいたら的確に答えてくれるような接客のできる人というのはほんとうに少ないものだからだ。 この店主は演劇にも詳しいようなので、地元の劇団のおすすめを教えてもらった。そういうことが、人生にどれだけプラスになるかはかりしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
February 6, 2010 06:18:24 PM
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