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長編時代小説コーナ

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Jun 20, 2006
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 味噌汁の匂いが漂い腹の虫が鳴いた。わしの腹は元気がよい、お勤めもこの

ように励まねばな。変なことにかこつけ決意をあらたにした。

 味噌汁と漬物の質素な朝餉で、新弥は三杯もご飯をお代わりした。

「旦那さま、今日は傘をお持ち下さい。また降って参りましょう」

「さて登城の刻限じゃ」彼が立ち上がると、お咲が大刀を渡してくれた。

「今晩は少し遅くなるかもしれぬ」お咲は何も答えず玄関に向かった。

「お咲、今日は下駄じゃ」声をかけ、ゆったりと玄関に出た。既に下駄が揃えて

あった。通行人も傘を持っている。空が鉛色に染まり、いよいよ梅雨の訪れが

実感される。新弥の袴の裾が風にあおられた。


「斉藤、いよいよ居残りかの、また嫌がらせが始まるの」

 稲垣九兵衛が厳つい顔を曇らせ新弥の傍らで呟いた。

「この季節です、暗くなるのが早まりましたな」

 新弥が他人事のような口調で稲垣九兵衛を見つめている。

「そのように悠長に構えてよいのか、わしは心配しておるのじゃ」

「申し訳ございません」朋輩達は長机の上を片づけ始めているが、一人新弥は

算盤を弾いている。詰め所が薄暗くなり朋輩達も心配顔をしている。

「あとどの位で片づく」稲垣九兵衛が声を低めて訊ねた。

「まだ一刻(二時間)はかかりましょうな」平然と答え帳簿に目を凝らし筆を走らせ

ている」「皆さん、拙者に気遣いなさらず、お帰り下さい」

「こんな日和じゃ、明日やれば良いではないか」九兵衛が帰るよう促すが、

新弥は礼を述べ席をたつ気配もみせず、黙々と仕事を続けていた。

「斉藤、また石垣さまが賄い役を引き連れて参るであろうが、余り逆らうな。

わしもこれで帰る」「ご苦労に存じます」九兵衛が諦め顔で詰め所から去った。

 急に静寂が訪れ、部屋に闇がおりてきた。(もう何も見えぬ、石垣一派が眼を

剥くであろうな)新弥が手を休め首を廻した、随分と肩がこっている。

 腰から煙草入れを取り出し一服した。ぽっと手元が明るくなったが、直ぐにもと

の闇に戻った。「さて、いよいよ遣るか」独り言を呟き、机の下から風呂敷包みを

引出し、ゆっくりとした動作で百目蝋燭を取り出した。瞬間、一之進と賄い役の顔

が浮かんだ、どんな顔をするか想像すると独りでに頬が崩れてくる。

 新弥の居残りの知らせが、一之進にもたらされた。「ようやく居残りをするか」

 石垣一之進がのっぺりとした顔に薄笑いを浮かべ賄い役に命じた。

「よいか確りと見張るのだ、この暗さでは必ず蝋燭を使う。今度こそ叱りとばして

やる」石垣一派が盗み見ていると勘定方の詰め所に灯が点った。

「やったー」彼等は胸のなかで快哉を叫び、一之進を先頭に足音も荒く詰め所に

現れた。「斉藤、居残りの場合、蝋燭の使用を禁じた筈じゃが」

賄い役の一人が大声で喚いた。百目蝋燭が赤々と点り黒煙が漂っている。

 新弥が髭跡の濃い顔をあげた、彼の視線が鋭く一座の者を眺め廻した。

剣客の視線である。今晩は脅してやる、新弥の胸中に不敵な考えが湧いた。

「お勤めの邪魔をなさるか」声に凄味が加わり、一同の腹の底に響き渡った。

 一座に戦慄が奔った。なんといっても藩中一の剣の遣い手である、威圧感が

違う。 一之進が恐る恐る口火をきった。

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Last updated  Jun 20, 2006 09:58:51 AM
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