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龍5777

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May 24, 2010
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カテゴリ:伊庭求馬無頼剣
 

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 街道を行く求馬は心を騒がせている、讃岐守の動きの早さが気になってい

るのだ。

 一足早く江戸に向かった糸路のことが心配であった。

 求馬は早めに旅籠に泊まり旅の疲れを癒していた。

 屋外から朗々と経を唱える鈍牛の声が流れ、求馬は思わず苦笑を浮かべ

た。黒羽二重の着流し姿の求馬の痩身が、江戸の入口の日本橋に現れ、橋を

渡り江戸の雑踏の中に足を踏み入れた。町並みには宵闇が覆い始め家路を

急ぐ人々の喧騒が懐かしく思われる。

 彼は相変わらずの相貌に深い翳を宿し、一軒の居酒屋の縄暖簾をかきわ

け、奥の小汚い醤油樽に腰を据えた。

 壁を背に徳利をかたむける求馬の空間だけが、冷たい雰囲気を覆われ、

客はいずれも求馬を避けるように背を向け、声を低めひそやかに飲んでいる。

 突然、その空気が破られ縄暖簾の音が聞こえた。

「旦那、ご一緒しても構えませんか?」

 艶っぽい声と化粧の匂いが漂い、求馬は視線を這わせ直ぐに杯に眼を落とし

た。初夏らしい色合いの着物を小粋に着付けた江戸前の女である。多分、粋筋

の女と知れた。なかなかの美形で恐れる様子もみせず、求馬の横に腰をおろし

た。「あたしにも熱燗をおくれな」

 奥に声をかけ、慣れた手つきで二杯ほど飲み干した女が、

「旦那、一杯いかがですか」 と徳利を差し出し求馬は無言で受け、己の徳利

を差し出した。 「あら、注いでいただけますか。嬉しい」

 無邪気に喜びを表している。注ぎながら素早く女を盗み見た。

 長年の習性である。歳は三十前の年増であるが端正な横顔の持ち主である。

 女が漬物を口にして小気味よい音をたてた。

「旦那、蓮っ葉な女とお思いでしょ」 くすりっと笑い白い歯並びを見せた。

「お蘭と申します。この先で小唄を教えておりますのさ」

「師匠、隅におけねえな」 客の一人がからかった。

「お黙りな、あたしは旦那と飲んでいるのさ」

 啖呵をきって亭主に、「忠さん、あたらしいのを二、三本つけておくれな」

 亭主に注文し、「今夜は無性に飲みたい晩、旦那、相手をしてくださいな」

 一刻ほど求馬はお蘭の相手をしながら飲んだ。

「仇し男を待ちくたびれて、今宵も一人自棄酒を」

 お蘭が小唄を口ずそみ、目元を赤らめ濡れた眸子で挑発するように見つめ

た。 「そなた酔ったな、もう止せ」

「あたしは旦那に一目惚れ、あたしの家で飲みなおしませんか?」

 お蘭が大胆な言葉を口にした。

「それがしを誘うのは止せ」 「薄情者ですね」

「それがしは女を不幸にする」 暗い双眸をみせ一言で断り、

「亭主、代はここ二置く」 代金を置き暖簾を掻き分け外に出た。

「待っておくんなさいな」 慌しくお蘭が後を追ってきた。

「旦那、女に恥をかかせないで」 妖艶な眼差しで迫った。

 その様子で求馬の心に疑惑が湧いた、この女はわしを知っておるな。

 何が起こるか見届けるか、据え膳を食らうも一興じゃな。

「そなたも酔狂な女じゃ」 求馬の言葉にお蘭が小娘のようにはしゃぎ、

いそいそと自宅に案内した。小粋な作りの玄関から部屋に招かれ、長火鉢

の前に膝をくずし部屋を見渡した。床の間に三味線が飾られてある。素早く

見てとり、小唄の師匠が嘘でないと悟った。

 お蘭が手際よく酒肴を用意し求馬の横に座り睫毛をそよがせ、

「どうぞ一献、こうして旦那と飲めるなんて夢のよう」

 酒に細工がしてあれば、隠密として修行した求馬なら簡単に見抜ける。

 含んだ酒を舌で転がし、何も細工がないと知り一気に飲干した。

「旦那は江戸の方ですか?」 お蘭が何気ない素振りで訊ねた。

「素浪人じゃ、それがしの素性が知りたいか」

「嫌ですよ、余りに無口なんでお尋ねしただけです」

 お蘭が陽気に答え、求馬にしなだれかかった。甘い匂いと女盛りの豊かな

肢体が、求馬の躯にまとわり付いた。

「口うつしで下さいな」 お蘭が悩ましい吐息を洩らした。

「誘ったのは何故じゃ」 求馬は独酌しながら無表情に訊ねた。

「抱いて下さいますか?」 お蘭の頬が染まり眸子が濡れ濡れと輝いている。

 求馬はそんな女の変化を乾いた双眸で見つめ、独酌を続けている。

「なんと情のない、少しは女の身になって下さいな。けど、そんな旦那に一目惚

れ。女て悲しい生き物ですね」

 お蘭が躯をふらつかせ奥の襖を開けた。そこは寝所であり悩ましい夜具が敷

かれていた。促され部屋に入り五感を働かせたが、何も異常は感じられない。

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Last updated  May 24, 2010 11:31:09 AM
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