映画・海外ドラマ・本 ひとこと言いた~い

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海外の作家が書いた歴史小説

October 28, 2018
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みなさん、こんばんは。
イタリアルネサンスといえば、歴史で一度は習ったことがあると思います。
その時代を生きたチェーザレ・ボルジアをご存知ですか?
知る人ぞ知る存在ですが、知っている人の中では織田信長みたいな存在で人気が高いのです。
モームも彼についての作品を書いています。

昔も今も
Then And Now
サマセット・モーム 
ちくま文庫

今でこそ惣領冬実さんの未だ完結していない連載『チェーザレ』があるが、日本で一気にチェーザレ・ボルジアの知名度が上がったのは、塩野七生さんの『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』とフランソワーズ・サガンの『ボルジア家の黄金の血』あたりか。毒殺、謀略なんでもござれの一族が何とカソリックの総本山のトップの座についた、生涯がまるでドラマのような(ドラマになったが)イタリアの一族、ボルジア家の長男坊。

 サマセット・モームも彼に魅せられた一人のようだ。モームは書きたい人物その人を語り手にしない。なぜならチェーザレをほめちぎりたいのに、本人がほめまくっていたらただの自慢しいだからだ。そこで、周辺の人物からチェーザレを描く『月と六ペンス』と同じ方式を採った。今回の語り手はニッコロ・マキアヴェリ。後世の我々からすれば、マキアヴェリ自体有名人なのだが、当時の知名度を比べれば、法王の庶子ながら公爵で軍事責任者でもあるチェーザレの方が断然上だ。物語は、無理難題を言いつけられたフィレンツェが、交渉権のない使節としてマキアヴェリを派遣するところから始まる。フィレンツェは共和制で、イタリア統一を図るチェーザレとは水と油。
「人間の性はいつの世も同じであり、同じ情熱をもっているから、状況が同じならば、同じ原因は同じ結果をみちびく。したがって、古代ローマ人がある状況におかれて、どのように対処したか、ということを心に銘記するならば、後代の人間とても、すこしは思慮分別をもって行動できるにちがいない」
と、古代ローマに憧れているマキアヴェリは、自分の知力をもってすれば、チェーザレを転がすことなど簡単だと思っている。余裕のマキアヴェリは人妻に懸想してイタリア男らしく恋のアプローチも欠かさない。

 ところがしょせん机上の空論、操っていると思い込んでいたマキアヴェリこそ、チェーザレの手の平の上で転がされていたにすぎなかった。ネット上では「マキアヴェリがチェーザレにぴーぴー泣かされる話」と書かれていたが、そこまでは。マキアヴェリは次第にチェーザレに魅了され、そして
「人間界では、ひたすら権力の獲得に力をつくし、それを維持することが必要なんだ。そのために用いられた手段は、もしうまくいったら、世の人々がすべて高潔であると見なし、口をそろえて賞賛する。」
と後のマキャベリズムを口にする。後世のモームが書いたチェーザレは
「共和国体制においては、能力ある者はつねに疑いの眼をもって見られる。だから要職につける者は、同僚の嫉妬の対象にならないぼんくらにかぎる。それが民主主義国家というもんだよ。能力抜群の人物ではなく、誰にも、警戒も心配もされないお人好しが統治するんだ。」
などとのちの民主主義国家の弱点まで指摘して、聡明な事この上ない。

 しかし向かう所敵なしに見えたチェーザレにも破滅が訪れるのは史実通り。「法王が死んでも後処理は全て考え済み」と豪語したチェーザレもまた、シミュレーション通りの未来を描いたマキアヴェリと五十歩百歩だった。そう、昔も今も、英雄も凡人も天才も、自分だけはと思いつつ、道端の石ころにつまずくのだ。初めてつまずいたような顔をして。何人もがつまずいてきたことなど知らぬような顔をして。


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最終更新日  October 31, 2018 12:46:49 AM
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August 14, 2017
みなさん、こんばんは。
Uターンラッシュは今日がピークのようですね。東京は静かです。
さて今日は昨日紹介した本の後篇です。


音楽と沈黙 2
Music and Silence
ローズ・トレメイン
国書刊行会

 前巻で奏でられていた楽器が放り出されている。何やら波乱を感じさせる表紙絵だ。前巻ではMusicのMが登場したが、本巻の表紙に登場するのはSilenceのS。だが登場人物達は沈黙を守ってはくれない。その筆頭がキアステン。主役カップルそっちのけで自分の欲望のためにしか生きない最強の女で、彼女のいる所、沈黙は存在しない。あっちもこっちも大騒ぎだ。にもかかわらず彼女は音楽が大嫌いだ。単なる無関心どころか「大嫌い」と公言している。沈黙を好むわけではないが、その対極にある音楽が嫌い。いや、音楽というよりも、音楽を好む王が嫌いなのだ。1巻は、そんな最強の彼女が窮地に追いやられた所で終わっている。

 侍女エミリアに言い寄っていたピーターは、彼女が仕えていたキアステンの浮気がばれたとばっちりでエミリアとも離れ離れになってしまう。侍女のエミリアとともに母エレンの城に移り住んだキアステンは王への復讐心に燃えており、ピーターの恋心を利用して何やら陰謀を企む。エミリアはピーターとの恋路ももちろん気になるが、「勇気を出すのよ」という亡き母の言葉を胸に抱きながら、生家で勝手気ままにふるまう継母マウダリーナに虐待されている弟マークスとの日々を懸命に生きる。ピーターはかつての恋人オフィンガル伯爵夫人と再会し、夫人に誘惑されながらもエミリアへの思いを募らせる。

 ピーター、エミリアという人がいながらかつての恋人に揺れたりしてだめじゃん!と言いたくなるが、何せ人と人との距離が途方もなく遠かった時代。情報機器が発達して相手がどこで何をしているかわかる現在では成立しない物語。一度離れてしまえば思いを伝えるのは手紙しかなく、顔を見たいと思えば危険を伴う航海に出るしかない。ましてやピーターの手紙を横取りするキアステンのような存在がいれば、二人の恋は前途多難。さあどうなる?

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。



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最終更新日  August 14, 2017 12:00:40 AM
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August 13, 2017
みなさん、こんばんは。首都圏は静かです。お盆をゆっくり過ごされていますか?
世界陸上、日本が銅メダルですが、それよりもウサイン・ボルトのアクシデントにびっくりしました。コメンテーターは「人生って帳尻が合うようにできている」と言っていましたが、ボルトはそう思っていないと思うなぁ。


さて、今日と明日は歴史小説を紹介します。実在の王も出てきますよ。

音楽と沈黙 1
Music and Silence
ローズ・トレメイン
国書刊行会

1629年、美貌のイギリス人リュート奏者ピーター・クレアがデンマーク王クレスチャン4世の宮廷楽団に招かれ、コペンハーゲンのローセンボー城に到着する。一方、王の妻キアステンは王への不満をつのらせ愛人との官能の日々を送っている。やがてピーターはキアステンの侍女エミリアと恋に落ちる。しかし二人には数多の試練が待っていた。

 同氏の著作『道化と王』同様、出版元は異なるのに、なぜか主人公達の表情は見えず、体の一部だけが見える表紙にしている。

 タイトルも妙だ。音楽=Musicと沈黙=Silence。音を出すものと、音のない状態、真逆である。しかし両者は城の中で共存する。音楽を好む王は、謁見室の真下にある暗いワイン貯蔵室に宮廷楽団を待機させていた。本来なら音も演奏家達の姿も愉しめばよいはずだ。しかし王は、音楽は聞きたいが、演奏家達の姿は見たくない。唯一の例外がリュート奏者ピーター・クレアだった。彼だけは姿を見たいと望む。ピーターがかつての親友ブロアにそっくりだからだ。

 
 必ずしも時系列順に物語が進むわけではないので、最初は戸惑うかもしれない。実在の人物と史実、フィクションがミックスされ「誰かが誰かに片思い」している。つまり、てんでばらばらに旋律がかき鳴らされている状態にある。下巻では複数の国に亘り奏でられたメロディが一つにまとまるのか。そして史実とのすり合わせはどの程度為されるのか。

 
 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。



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最終更新日  August 13, 2017 06:14:14 PM
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August 4, 2016
みなさん、こんばんは。
いよいよオリンピックが近づいていますね。高校野球も始まりそうです。

さて、皆さんは旧約聖書のソロモン王の話をご存知ですか?

この話の中ではソロモン王は脇役です。

ビルキス、あるいはシバの女王への旅
Le Voyage de Bilqis
アリエット・アルメル


 「シバの女王」と聞くと年配の方などは「♪私はあなたの愛の奴隷」という歌を思い出すだろう。また吹奏楽に詳しい方ならば、レスピーギの曲を想起されるかもしれない。だが、シバの女王がどのような人物で何をしたのか、という点について、残念ながら広く認知はされていない。

 旧約聖書に彼女が登場する場面はごくわずかだ。イスラエルのソロモン王に会いに来て、彼の英知に感嘆する。一国の女王なのに、まるでソロモンのヨイショ要員のような扱いだ。

 同じ白水社から出ている『真珠の首飾りの少女』『貴婦人と一角獣』と系統が似ており、実在する作品が生まれるバックグラウンドについて描かれている。今回はフレスコ画『聖木の礼拝・ソロモン王とシバの女王の会見』の制作過程が綴られる。

 フレスコ画の作者となるピエロ・デッラ・フランチェスカは壁画制作に倦みローマへ行こうとする。しかし妻シルヴィアは夫を止めようと、自らシバの女王ビルキスの物語を夫に語って聞かせる。

 邦題がシバの女王「への」旅となっているのは意図がある。ビルキスは父の急死により突然王位を継ぐことになる。当然覚悟もなければ経験もなく「名実共に女王である」とはとても言えない状態だ。唯一他人と異なる点は幻視が出来ることで、これが「やがてイエスの十字架となる運命を持つ木を見分ける」聖書の逸話に繋がっていく。国を統治することや、イスラエルとの戦争が始まるかもしれないという不安を抱え、未熟な自分を自覚しながらも、やがてビルキスは自らの進むべき道を見出していく。

 現在パート(ピエロ&シルヴィア)と過去パート(ビルキス)が並行して進み、男と女、太陽が絶えず照りつける沙漠とオアシスVsピエロ達の住む寒く薄暗いイタリアの田舎町、ピエロを巡るモデルの愛人とシルヴィア等々、いくつもの対立図式が登場する。ビルキスの心情が聞き手のピエロや語り手のシルヴィアによって変化することもあれば、ビルキスの物語を紡ぐうちに、ピエロとシルヴィア、双方の関係も変化する。つまり、フィクションとノンフィクションが互いに影響を与えあう構成となっており、このアンサンブルが素晴らしい。

 ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画には、後のフェルメールに見られるような極端な影はない。皆に等しく光が当てられ、人間でさえも神々しい。そんな彼の作風をも反映したストーリー構成になっている。更に「ピエロ・デッラ・フランチェスカに妻がいた史実はない」ことを踏まえると、もう一つ深読みができそうだ。



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最終更新日  August 4, 2016 12:03:39 AM
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May 19, 2016
みなさん、こんばんは。会社の人の中に家庭菜園を持っている人がいてトマトを作ったりしています。
うちはゴーヤを植えました。目指せグリーンカーテン。

今日は翻訳者自ら「主人公はヘタレです!」と言っていた作品を紹介します。
ちなみにその翻訳者とは金原瑞人さん。

道化と王
Restoration
ローズ・トレメイン

途中で切れてしまっているが、表紙のモデルはチャールズ二世だ。亡命先から戻り原題「王政復古」でイギリスの王となった苦労人で、小説に書かれたように艶福家で子供も多い。あまりの多さに心配した医師が作りだしたのがコンドームだったという俗説が広まっている。

 本作の主役は王ではなく、医師ロバート・メリヴェルだ。『ハンニバル戦争』のスキピオよろしく女性とベッドにいる所を父親に踏みこまれた彼は、そのまま王の元に連れて行かれるが、ろくに話せずまたもや味噌をつける。王の愛顧を被った手袋職人の父が亡くなり、メリヴェルは国王の犬を治したことがきっかけで、宮廷に取り立てられる。同じように気まずい場面を父親に見られても、スキピオは御年17歳、冒頭の部分でメリヴェルは既に37歳で「これから成長しますから!」と努力が評価される年齢をとうに越えている。では、冒頭でヘタレ度を思いっきり上げた主人公が、そのままで、或いは意外な才を発揮して、宮廷でスピード出世していくことになるのだろうか。

 生憎予想は大外れで、ロバート・メリヴェルの人生は、上ったり下りたり大忙しだ。いつも同じウィークポイントで下りて行く、つまりは全然学習していない。翻訳者金原さんはヘタレ主人公を絶賛していたが(変なシュミだ)レビュアーの中には「あまりにも情けない主人公に嫌気がさした」という意見もあったほどだ。だが、道化として生きることを望まれたメリヴェルが、初めて人間らしい真っ当な感情に目覚めた時に、その愛情を傾けた相手からも、敬愛し続けた国王からも放逐される件は、さすがに馬鹿だと言って切り捨てられない。むしろ、どうしてそのような感情を抱いてはいけないのか?と初めて彼に味方して王に反駁したくなった。まあ、こんな出来事のあとでも、相変わらずメリヴェルの悪い癖は直らないのだが、一度そういう良心のぶれを見せられてしまうと、困ったもので「いつかまたどこかでいい所が見つかるのでは」と気になって、主人公から目が離せなくなる。

 同じ道化といってもメリヴェルは、シェイクスピアの『十二夜』の「本当は賢いが上手に馬鹿になって見せる道化」の機知は持ちあわせていない。生き様がそのまま道化のメリヴェルに対して、王は馬鹿なのか鈍感なのかわからないながら、意外に懐の広いところもあったりして、掴みどころのないキャラクターになっていた。ううむ、


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最終更新日  May 19, 2016 12:05:13 AM
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December 30, 2015
みなさんこんにちは。スポーツクラブのメンバーが多かったです。昨日から休みに入った人が多かったのでしょうね。そして新聞がどんどん薄くなる…。

今日は中国清王朝皇帝の末裔が書いた歴史小説を紹介します。


愛新覚羅の末裔で、北京でも名門中の名門である金一家は、清朝から授けられた鎮国将軍の肩書きを持つ父、3人の母親、14人の子供がいる大家族だ。中でも、末っ子で七女の、好奇心旺盛の舜銘は、みんなから「ねずみっ子」と呼ばれ、かわいがられていた。やがて中国は、止む事のない革命と動乱の時代に突入する。

清朝崩壊、中華民国成立、国共分裂、中華人民共和国成立、文化大革命。二十世紀初頭、中国は激動の時代を迎える。代々続く家門の栄光を盾に、何もせずとも生み出される富を土台に、安穏な生活を送れるはずだった貴門達も、この歴史のうねりから逃れられない。先祖代々教え込まれた価値観では、到底乗り越えられない試練が彼等を待っていた。その試練を貴門達がどう捉え、どう生きたのかが、家族の一人である舜銘の目を通じて描かれる。舜銘もまた一門の者として、これらの苦難を経験してきた「当事者」であるのだが、自身に対する描写は少ない。むしろ家族達に起こった様々な出来事を「傍観者」として捉えた内容の方が多い。それが、ただ没落した身を嘆く貴族の感傷的な話に終始しなかった要因だろう。京劇の台詞がごく普通に会話の中に登場し、由緒ある骨董物が家の中には無造作に転がっている。我々からすれば歴史上の有名人である愛新覚羅、西太后、溥儀が当たり前のように出て来て、女スパイと騒がれた芳子は「迷惑な親戚」呼ばわりされている。だがこれらの境遇が自慢話として語られるのでなく、「当たり前の事」として見るスタンスで描かれているので、読者の反感を誘わないのだ。

『采桑子』の一節からタイトルが取られている本作は、全九章から成り、それぞれが独立した短編としても読める。兄や姉、祖母が各章の主人公となるが、別の章では脇役として再登場する。京劇に夢中で気位が高く、自分の恋心に気づいた時は遅かった長女。
一人の女性を巡り、争い合った末に不幸な最期を迎える三人兄弟。逃げた養子の生存を信じ続けている大叔母。親に反対された結婚をして、死ぬまで会えなかった次女。プラトニックな愛情で結ばれた四女とその幼なじみ。兄に恋人を奪われても尚、彼女を思い続けた宮廷画家の七男。思い思われなかった辛さ、同じ一族でも、時代に迎合できる者とできない者の残酷な落差。辿る運命は一通りではなく、それぞれの魂が奏でる様々な旋律は、やがて大きな一つの旋律-貴族の斜陽-へと収斂される。
幼時のエピソードが登場する第八章以外、殆ど描かれなかった著者自身の半生についても興味が湧く。各章にわずかに登場する彼女の態度、家族への接し方や描き方などから、書かれなかった十番目の旋律について、思いを馳せてみるのも良いかもしれない。

西太后を大叔母に持つ著者の、自伝的要素が濃い小説。2001年、第8章『夢(まぼろし)か』に対して、第2回魯迅文学賞秀中編小説賞が贈られた。


 「初版発行日」 2002-04 「著者」 葉 広〓 (著) 「出版社」 中央公論新社【中古】貴門胤裔〈上〉
 「初版発行日」 2002-04 「著者」 葉 広〓 (著) 「出版社」 中央公論新社【中古】貴門胤裔〈下〉KSC








最終更新日  December 30, 2015 07:03:42 AM
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June 9, 2015
みなさん、こんばんは。渡辺謙さん、トニー賞残念でしたね。でもノミネートされるだけで凄いです。
一方中国の長江で起きた船の事故は、一週間しか経っていないのにもう記念館を創るという話があると聞いてびっくりです。さっさと幕引きしたいのでしょうか。

さて、今日紹介する本はかつて中国を支配した女帝の物語です。

女帝わが名は則天武后
シャン・ サ

時は七世紀、唐の時代。一人の少女・武照が、一万人の女たちが皇帝の寵を争う後宮に入った。何の後盾もない平民生まれの武照は、皇后に、そしてついに帝位へと上り詰める。そこで彼女を待っていたものは?

身分を隠して中国で生きる日本人兵士と、碁が好きな中国人少女の、つかの間の出会いで芽生えた恋とも言えぬ想いを描いた『碁を打つ女』。その著者であるシャン・サが四作目のヒロインとして選んだのは、夢で直々に「真実を伝えて欲しい」と頼まれたという、中国史上最初で最後の女帝、則天武后。三年間あらゆる資料を読みあさり、満を持して発表された本書は、発売されるや十万部を越えるベストセラーとなった。

男子誕生を心待ちにしていた両親を落胆させるという、幸先の良くないスタートを切った武照は、父の死後、更に貧窮に追いやられる。男性の顔色を窺わなければ、満足に食べる事すら出来ない。女性であるが故の不自由さを骨の髄まで味わった彼女が選んだのは、外見は華やかに見えても、たった一人の男の寵を争う場に過ぎず、策謀と憎悪が常に渦巻く世界-後宮だ。渦に誘われても溺れず、「客観性」を保ち続ける武昭の心情を、著者は抒情あふれる文章で綴ってゆく。一人称で描かれる彼女は、為政者の孤独をも受け入れる強い意志を持っており、イギリスのヴァージンクイーン・エリザベス一世や、ロシアのエカテリーナ二世にも匹敵する政治家だったのではないか?とすら思えてくる。それなのになぜ、中国における則天武后の評価が、決して芳しいものではないのか。

息子が帝位にある間も、実権を握り続けた。冤罪で優秀な官僚を排除した。「誣告(無実の罪を密告すること)」と「密告」を奨励した。中でも、自分の治世に国号を「唐」から「周」と変えた事は、許し難い王朝簒奪と見なされたようだ。だが一方で、縁故に拠らない人事登用や積極的な外征などで、安定した治世を築いた事は、過少評価されているどころか、殆ど取り上げられない。そのヒントは、中国の史記のこんな言葉にあるようだ。

「めんどりがときをつくるのは家が没落する前兆である。」中国は、ときをつくっためんどり=則天武后に、「残虐」「悪女」といったマイナスイメージを押しつけたのではないか、というのだ。稗史が正史に、真実が捏造に排除されてきた例は、世界各地で散見される。オリンピックも開催されようかという中国とて、例外ではないだろう。天安門事件以後、まだまだ鉄のカーテンの裏にいくつも強固な扉を閉ざしている国、中国。事件以来国を離れて活躍する中国人女性がようやく探し当てたのは、
かつて一人の女性が開けた「女性の為政者としての能力」という一つの扉に過ぎない。だが将来において、彼女が使った「言葉」という論理的な手段によって、これからいくつもの扉が開かれてゆく事を、強く信じたい。


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最終更新日  June 9, 2015 12:04:20 AM
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June 5, 2015
みなさん、こんばんは。今晩は冷えるようです。中国の船の事故は72時間が勝負ではないでしょうか。遅いですね。気が気ではないでしょう。韓国のMersも気になります。

さて、こちらは哲学者とプロイセン王の心温まる?交流の日々を極めてリアルに描いた作品です。


ヴォルテール、ただいま参上!
“Sire, Ich Eile…”Voltaire Bei Friedrich II,Eine Novelle
ハンス=ヨアヒム・シェートリヒ
松永美穂/訳


ドイツ旅行に行くと必ず食卓に登場するのがマッシュポテトだ。お代わり自由で皿に取って食べることが出来る。料理としての見た目はどうあれ、お腹いっぱいになる。さすが中身重視のドイツ!というイメージだが、そんなドイツでは、墓にじゃがいもが供えられる王がいる。本篇の主人公、プロイセン王フリードリヒ二世だ。じゃがいも栽培をドイツに広めた彼は、哲学者ヴォルテールと生涯にわたり文通した。

 フリードリヒ二世は、まだ王子だった頃からヴォルテールに恋い焦がれ、やがて自分の手元に置きたいとすら思いつめる。懇願の末にやっと対面が叶い、王はパトロンとしてヴォルテールをバックアップするが、ささいな事から亀裂が入り、やがてヴォルテールはプロイセンを去る。おや、こう書いてみると、まるでありふれた男女の別れみたいだ。まあ、フリードリヒ二世はゲイであり、こう書いても冗談にはなりかねるのだが。

 そんなフリードリヒ二世とヴォルテールの関係を描いた本書は、空想力や描写力ではなく、史実と文献という事実でぐいぐい押していく、まるでじゃがいものような、中身重視!の作品である。派手な修飾詞・形容詞を用いないため淡々とした描写が続く。しかし、激するべきところで表向きは激さず、その分、親しい相手に向けて書かれた書簡や側近への遠慮のない会話では怒り大爆発!という激しく裏表のある本人のキャラクターが強烈な印象を与える。

 理性を重んじる啓蒙学者が生活のために投資に手を出すこともあれば、「支配者の義務は、人間の苦しみを減じることにある」と理想を唱える君主が、領土拡大のためには人々を戦に駆りだす時もある。もう関係がこじれてしまった頃に起こった、ヴォルテールの旅費を巡る騒動などは、多くの著書を持つ哲学者、大国を率いる君主、どちらかの器が大きければこれほどの騒ぎにならなかったろうと思えるが、間に立った人が可哀想になってくるほどこじれにこじれる。二人とも、偉人・有名人というイメージからは程遠く、我々と同じ弱さと複雑さを持つ人間であることが良く分かる。

 しかし二人がもっと単純に物事を割り切り、理想のままに生きようとすれば、交流はもっと早く終わってしまったはずだ。ならば、一方が亡くなるまで文通が続いたのは、弱さと複雑な感情故ではなかったか。ならば我々も、多少は持て余しても、複雑な感情を手放すべきではないのだろう。フリードリヒ二世とヴォルテールのような、ややこしくも貴重な出会いが、どこかで待っているかもしれないのだから。


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最終更新日  June 5, 2015 12:04:43 AM
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January 22, 2015
みなさん、こんばんは。直木賞受賞作家陳舜臣さんが90歳で亡くなられました。
今日は彼の作品を紹介します。

わが集外集
陳舜臣

表紙ののんびりした男のモデルは「梅福伝」「六如居士譚」の主人公のどちらかだろう。
陳氏の未収録作を集めた本書のうち、最も興味を惹かれたのはそんな表紙の人物とは正反対の人生を送った男である。

「獅子は死なず」の主人公で、ガンジーの左腕、チャンドラ・ボース。
終戦の翌日に、不慮の事故でこの世を去ったボースの生涯は、正に「駆け抜ける」という表現がぴったり。陳氏の文章は佐藤賢一氏の歴史ものとは異なり、読者を登場人物に寄り添わせようとはしない。主人公と距離を置き、淡々と書いているのだが、それでもやはりこの男には惚れたのでは?と思わせる描写がちらり。但し修飾詞で飾らずとも、インド脱出、嵐の中の潜水艦乗り移りと、事実だけでも彼の一生は十分にドラマティック。漫画か映画にすると映えそうだ。
中でもすごい!と思ったのは時の東条首相に
「インド独立のために日本軍に協力するが、インドは日本のために独立するのではない。」と言い切った所である。自国が植民地状態にあり、さらに戦時中でありながらも、これだけの事を言ってのけたボースは、まさに男の中の男。とりあえず言い分を聞いておき、勝った後に反古にするというやり方もあったものを。本音を話して殺されなかったのは、よっぽど惚れられたのだ。今そんな人間が世界にいるだろうか。つくづく早世が惜しまれる。おやおや、どうやら私も惚れたらしい。

 ほか紀行文や中国歴史ものの他に「厨房夢」「回想死」「七盤亭炎上」の3編がミステリー。最後まで引っ張ってあっといわせる展開が待っている。粒ぞろいの飲茶をどうぞ召し上がれ。










最終更新日  January 22, 2015 12:08:46 AM
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July 29, 2014
みなさん、おはようございます。また痛ましい事件が起きましたね。「人を殺してみたかった」がティーンの口から聞かれるとは。一体何があったのか。

今日は海外の作家が書いた歴史小説を紹介します。

ラウィーニア
Lavinia
アーシュラ・K.ル=グウィン

古代ローマの詩人・ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』は未完に終わっている。それも、主役アエネーイスとイタリアの一地方の王であったトゥルヌスの一騎打ちの勝負がまさにつかんとする、とてもいい所で。まさに、後世の作家にとっては「さあ、書いて下さい」と言わんばかりの絶好の素材だ。ル・グウィンもこうした誘惑に抗しきれなかった作家の一人である。ただ、彼女の物語の作り方は一風変わっている。

 語り手は『アエネーイス』で一言もしゃべらないラウィーニアだ。トロイのヘレンと同じく争いの元になっているというのに、一言も彼女の言葉が残されていない、お飾りのヒロイン。だが、本作の彼女はそうではない。


かの詩人がわたしを歌った部分は、わたしの髪に火がついた瞬間を除いて、あまりに退屈。象牙が紅の染料に染まるように、乙女のわたしが頬を染めた場面以外、まったく精彩を欠いている。ほんとに陳腐―だから、もうわたしはがまんできない。もし、これから何世紀も存在し続けなければならないのなら、せめて一度、口を開いてしゃべりたい。彼はわたしにひと言もしゃべらせてくれなかった。だから、彼にはもう黙ってもらってわたしがしゃべる。


 と、あろうことかウェルギリウスに噛みついて、自分の物語を語ろうとする。さて、なぜ彼女が自分より遥か後に登場する自分の事が書かれた著作を知っているのか。ル・グウィンは『アエネーイス』の作者と語りあうという方法で彼女にバック・トゥ・ザ・フューチャーをやらせるのだ。未来をあらかじめ知らせておく設定は、主人公が決められた未来に向かってただ追っていくだけに過ぎないと、物語をとてもつまらなくしてしまう。ところが、名作に噛みつくくらいの勢いのあるヒロインが、そんなありきたりの反応を見せるわけがない。未来の争いも未来の夫の死期も全てあらかじめ知った上で、それらを一人でのみこんで、自分の手で運命を切り拓いていこうとする逞しい女性だ。支配欲の強い母との不仲に胸を痛める若い娘から半神半人の妻となり、後に王となる息子を育てる母へと成長していくラウィ―ニアは、現代的な要素を持った魅力的な女性として描かれている。

 『アエネーイス』は自らの統治の正当性を明確にするために、アエネーイスの末裔を自称する時の為政者・アウグストゥスの命により、未完のまま刊行された。だがその中では、戦の度に傷つく人々や、平和を維持するために、無名の人々が果たした役割などはクローズアップされない。未来においてどんなに名著と崇められても、途中でウェルギリウスが死んだのでは、彼の意図すら置き去られた不遇の書だったのではないか。その書で一切言葉を与えられなかったラウィ―ニアの姿を借りて、ル・グウィンは、ウェルギリウスが本当に書きたかった物語を、見事に引き継いだと言えよう。


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最終更新日  November 3, 2019 07:50:59 PM
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