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Mizumizuのライフスタイル・ブログ

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Tomy's room Tomy1113さん
2008.05.24
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カテゴリ:Movie
<きのうから続く>

急流の場面で溺死寸前

ジャン・マレーは自伝で、『ルイ・ブラス』を印象に残る映画の1つに挙げている。その理由は単純、「撮影で死にかけた」から。

王妃の好む珍しい花を摘むため、ルイ・ブラスが渓谷の奥の急流をわたるシーンがあった。そこでロケ隊は急流を求めてアルプスのとある村にやって来た。村を流れる川の上流で撮影ポイントを決める。

『双頭の鷲』でもそうだったが、マレーには「危険なシーンは稽古しない」という流儀があった。そこで、カメラテストのために地元の消防夫が雇われた。だが、実際に現場にやってきた消防夫は、
「ここじゃできない」
と言い出す。
「流れが速すぎる。おまけにすぐ下手に滝が三段、危険すぎます」
「滝ったって、そんなに落差はないだろ」
「いや、あなたがたはこの川の怖さを知らない。ここで泳ぐ人間なんて、地元にはいませんよ。悪いことは言いません。場所をかえたほうがいい。もうちょっと下流に行けば、流れが緩やかなところがありますよ。そこに行きませんか」
「流れが穏やかじゃ、ちょっと……」
と、顔を見合わせる監督とカメラマン。
「ジャノ、どうする」
マレーに意見を求める監督。マレーは冷水が大嫌いだった。だが、下流だろうとその条件は変わらない。川を見るマレー。確かに流れは確かに急だが、命の危険がありそうには思えなかった。
「じゃあ、ぶっつけ本番でやりますよ。もしものときは、助けに来てくれるでしょう?」
「そりゃもう、保証するよ。カメラでずっと追っているしね。何かあったら皆で飛び込むから」
マレーは水に入った。流されながら第一の滝に向かう。
――頭から突っ込んだら、岩にぶつかるかも?
一瞬、考えがよぎったが、足から入ったのでは迫力にかける。覚悟を決めて、頭から滝へ突っ込んだ。
足さかさま
すると、渦巻く水の中で、足が上、頭が下になって……
溺死寸前
そのまま、水中で岩の隙間に挟まれてしまった。しかも、悪いことに、完全に身体が水中に没してしまい、川岸のスタッフは――カメラも――マレーの姿を見失った。
青くなるスタッフ。
「どこへ行ったんだ?」
「流されたのか?」
「いや、姿は見えません。まだ滝の中じゃないんですか?」
口々に叫ぶ。
水中ではマレーが、身体を反転させようともがいていた。
――早く助けに来いよ。
――俺が死ぬだろ。
ところが驚いたことに、誰も来ない。
――嘘だろ!
マレーは現場の仲間の姿を1人1人思い浮かべながら、無言のまま片っ端からやっつけた。この怒りで気力がわきあがり、なんとか水の上に頭を出すことができた。
「あ、あそこです!」
誰かが叫ぶ。
一瞬顔を出したところで、また頭から水を浴び、同じ岩穴に落ちるマレー。もう一度水中の岩場で足を踏ん張り、何とか同じように身を乗り出した。
すると――
「引っ張るな! 引っ張るな!」
川岸の叫び声が耳に入った。
「首に綱が巻き付いてる!」
そこでやっとマレーは、仲間が輪になった結び目のある綱を投げ、それがたまたま、本当にたまたま、自分の首にかかっていたことに気づいた。冷たい水で感覚が麻痺し、綱も眼に入らず、首に巻きついた綱の感触さえわからなかった。
「奇跡だ!」
再び誰かの声が聞えた。マレーも心中思った。
――まったく、同感。
流れから引っ張り出され、服を脱がされ、身体をこすられ、酒を飲まされた。
「タバコをくれないか」
まだ寒さで感覚を失ったままだった。震える唇でタバコを吸い込む。だが、マレーが無事と知るやいなや、カメラマンは日光の角度を猛烈に気にしだした。
「おおい!」
少し高い岩場から、ほとんど怒鳴っている。
「もう一度、すぐやらないと日が沈むって、ジャノに言ってくれ! これじゃ泳ぐシーンが短すぎる」
そこで今度はマレーは足から滝に入った。そして3度同じ動作を繰り返した。

アクションシーンで監督とケンカ

当然のことながら、監督は大スターのジャン・マレーに危険を犯させたくなかった。特に教会からドン・セザール(ルイ・ブラスともどもマレーの2役)が綱につかまり、身を躍らせて釣燭台に乗り移り、それから窓をブチ割って外へ逃げるシーン。ここは最高に危ないアクションシーンで、当然監督は「吹き替え」を用意していた。

ところが、マレーが吹き替えより先に梯子にのぼり、「絶対に降りない」と言い張った。監督は撮影を中止して、マレーを説得しようとする。だが、マレーは頑固だった。1時間以上(!)言い争う2人。だんだんに怒り始める監督。
「いいかげんに降りろよ、ジャノ! 貴重な撮影時間を無駄にするな」
「無駄にしているのは、そっちですよ」
「怪我したらどうするんだ。冷静に考えろ!」
「ぼくはきわめて冷静です」
「責任取れんぞ」
「誰も取ってくれなんて言ってないですよ」
「こんなシーンをぶっつけでやるなんて、頭がどうかしてるんじゃないか!」
「綱からそっちへ飛び移るだけでしょう。できますよ」
「落ちたらどうしてくれんだ!」
「落ちません」
結局、監督が折れた。

実際のシーンがこれ。↓
ロープ
綱につかまって振り子移動……
懸垂
釣燭台に飛び移る(まるでサーカス)

そのあと、ステンドグラスを蹴破って逃走……

この当時としては破格に型破りのアクションシーンを見た批評家は、「体操教師、ジャン・マレー」と揶揄した。

ジャン・マレーという人の無鉄砲さには、のちのちまでジャン・コクトーも手を焼いている。1958年、とある催し物で、マレーが「猛獣使いの役」をやろうとしていると知ったコクトー(当時は南仏にいた)は、パリのマレーに「心配のあまりぼくが病気になりそうだから、やめてくれ」と懇願している。

「ぼくのジャノ。君が、芸術家たちのガラで猛獣使いをやりたがっていると聞きました。君のヒロイズムに逆らっても無駄なことはわかっています。でも、こんどばかりは、跪いてのお願いです。ほんのわずかのことで最悪の事態になりかねません。ストラヴィンスキーの婿など、雌ライオンに頭の皮をはがれてしまいました(鉄格子の隙間からです)。彼女のほうはほんのお愛想のつもりだったのですが。パリの観客たち相手に死を賭ける値打ちはありません。連中のほうが野獣です。君がそうした演目を考えているようだと(許可が出ないことを祈っています)、ぼくはもう生きた心地がしません、病気になりそうです。君を断念させられる理由があるとしたら、きっとこのことだけでしょう。だから、あえて書いています。くちづけを送ります。ジャン」(ジャン・コクトー『ジャン・マレーへの手紙』三好郁朗訳 東京創元社)


<明日へ続く>
























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最終更新日  2008.05.25 18:30:21



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