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カテゴリ:Travel(フランス)
パリ観光の目玉にも主役にもならないだろうが、第2区を中心に散らばるパッサージュに迷い込んでみるのも、パリ滞在の楽しみの1つ。
ギャルリー・ヴィヴィエンヌがバッチリお化粧をしたパリ一番の美人だとしても、人はいつもそうした女性にばかり惹かれるわけではない。 パッサージュは商店街になっているから、事前にどういった店があるのか調べていくと、より楽しめるはず。 今回歩いてみたのは、地下鉄リシュリュー・ドルーオ駅の北にあるパッサージュ・ジュフロワ(Jouffroy)。 車の往来の激しい大通りから、ふっと入るパッサージュ。そこはもう、いきなり「過去」の世界。車の音は遠ざかり、自分の歩く足音が響いてくるレトロ空間は、ちょっとしたデジャブ体験。いつか来たことがあるような、知った顔に会いそうな、不思議な感覚に襲われる。 パッサージュ・ジュフロワは、入るとまずジャン・コクトーがその内部を「犯罪的な照明」と評したグレヴァン博物館(ろう人形館)があるというのが、すでに相当マニアックだ。そして、奥には「ホテル・ショパン」。 なぜショパンなんだろう? 由来は知らないのだが、突き当たりのこの小さなホテルの前で左に折れてパッサージュは続く。 すると東洋美術関連書籍を多くあつかっている古本屋がある。間口はかなり広い。あまり売れなさそうだが、よさそうな本をたくさん置いている。東京で言えば神田の古本屋街にある老舗の雰囲気。 こういう店はなくなってはいけない。大量に売れなくてもいいのだ。店がやっていければ、それで。欲しいと思っている人がいつか必ず現れるであろう本がある本屋。最近の日本の本屋にあるのは、命の短い売れ筋の本ばかり。だから本屋は新刊書籍であふれているが、欲しい本は全然見つからない。東京では、貴重な資料になる本をマニアックに集めてくれている本屋を見つけるのが、本当に難しくなった。 このパッサージュ、たいていの店はお昼12時から開店… のはずだが、12時に行っても、まだ大半の店は閉まっていた(苦笑)。 このゆる~い雰囲気、ご近所の西荻窪に似ている。あそこもお昼から開くはずの店に12時に行っても、まだドアの鍵は閉まっていて、奥でオーナーが煙草を吸っていたりする。 美術書を多くおいている店の向かいは、シネドクという映画関連(それも古い映画)グッズをおいている店。 店の窓ガラスには、やはりジャン・マレーの写真が。今モンマルトル美術館で展覧会をやっているせいだろう。 シネドクでも買いたい資料があったので、店のねーちゃんにメモを渡して探してもらった。とても痩せて、きびきび動く、少年のようなねーちゃんだった。英語は話さないのだが、こっちの英語はわかっているようだった。英語とフランス語で会話して、なぜか何となく相手の言ってることがわかる状況。身なりはものすごく適当で、髪の毛はザンバラで化粧っけもないねーちゃんだが、観光客相手の店でないせいか、接客態度はとても自然で感じがよい。結局お目当ての資料は見つからなかったが… シネドクには、日本映画の本もあった。 しかし、相も変わらず、ハラキリ、オズ、オーシマですか… まぁ、ここはパッサージュ・ジュフロワですから。 観光客の姿はほとんど見ない。ここはレトロなモノ好きの人たちのためのパッサージュ。ぼつぼつ歩いてる客の中に1組だけ日本人らしきご夫婦を見かけた。50代ぐらいだった。男性のほうが真剣に店を吟味している。たぶん旦那さんほうの趣味に奥様が付き合っていると見た(笑)。 女性向けのアクセサリーを置いてる店も少しある。 パッサージュが途切れるあたりで、古い写真を扱ってる店が… そこにはなんと、日本髪を結った少女の写真。昔の日本で撮った写真に彩色を施したもののよう。 こりゃ、おもしろい! 以前、明治時代の東京や箱根の街並み・道並みを撮った写真を見たことがある。大きな樹木の向こうに木造平屋の家屋が並び、土を踏み固めた道は清潔で、ごみ1つ落ちていない。道と家屋の間には小さな側溝があり、水が流れている。赤ん坊を背中に背負った和服の女性が歩いている。質素で、かつ秩序だった美しさにあふれた昔の日本の風景は衝撃的だった。 ああいった昔の日本の写真がないかと思い、店に入ってみた。 コンピュータの前に座っていたマドモアゼル(←ねーちゃんと呼ばないのがミソ)に挨拶する。こちらを見上げて、「ボンジュー」とにっこりした彼女は… 超美人! ワンレングスに切りそろえたまっすぐな金髪が肩のあたりまでかかり、カールした長い睫毛に縁取られた瞳はエメラルドのような緑。ふっくらした頬やピンクの唇など、まるでルノワールの絵から抜け出てきたよう。 「外に古い日本の写真があったけど、昔の日本の町を撮った写真はありませんか? たとえば100年ぐらい前の」 英語で聞くと、 「古い日本…」 と言って立ち上がり、店の奥の棚のほうへ移動して、 「このあたりに少し…」 と探してくれる。とっても感じがよい。 写真を見たが、町が映っているのはあまりない。それより、サムライの立ち姿とか、キモノの芸者ガールなどが主だ。パリでそういうものが売られているのを見るのは、十分に珍しいのだが、あいにく自分が買う気にはならず。 店は地下に続く階段があって、そこから40がらみの準イケメンダンディが出てきた。マドモアゼルがダンディにフランス語で何か言って、ダンディが「コンピュータで検索すれば」みたいなことを指示したよう。 それから、ダンディは店のドアを少し開けた。と思ったら、すぐに閉める。手を見ると、そこには鍵が…! 「鍵を取り忘れちゃった」 フランス語だったが、言ってる意味はわかった。店を開けて、鍵をさしたままにしてしまっていたよう。 ゆ、ゆるい…! 気づかずに入ってきたMizumizuもMizumizuだが… マドモアゼルはパソコンの前に座り、「東京?」と聞く。東京の街で検索するという意味だろう。 「あるいは京都でも、奈良でも」 と答えると、頷きながら文字入力をしている。 今はこうやって在庫を管理しているのね。当たり前か。でも日本の古本屋ではあまり見ない行為のようでもある。 いくつかヒットしたようで、また立ち上がって写真を出してきてくれた。古い京都のお寺の写真が数枚、それと現代東京のモダンな建築をクローズアップにしたようなアート写真。 う~ん、これは日本でもありそうだ。 「古い普通の町の写真が欲しいから」 と断わると、 「地下鉄の隣の駅にもう1つ私たちの店があるんだけど、今日は開いてなくて…」 と申し訳なさそう。 いえいえ、い~んです。そんなにどうしても欲しいってわけじゃないから。 いつの間にかダンディは地下へまた姿を消している。うつくし~いマドモアゼルに別れを告げて店を出た。 結局、ショッピングでの収穫はゼロだったけれど、とても感じのよいねーちゃんとマドモアゼルに会えて、なんとなくハッピーな気分なのだった。パリでは得がたい体験というべきか、いや、やはり観光客向けでない店はみなこのくらい普通に感じがよいのか。旅先の買い物は売り子との会話も思い出になる。スレた「雇われ」がメンドくさそ~に働いてる有名ブランドショップで、「売ってあげます」みたいな顔をされるより、こういうレアな店で宝探しするほうが、断然楽しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.15 15:02:06
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