<きのうから続く>
こちらの記事からの転載は以下。
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2年に一度の改正期を迎え、今季からフィギュアスケートのルールが大きく変わる。浅田真央(中京大)得意のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)が女子のショートプログラム(SP)でも単発で跳べるようになり、「浅田真ら日本選手に有利?」との声も聞こえるが、実際はどうなのか。改正点のポイントを記し、そのポイントごとにISU(国際スケート連盟)の平松純子理事に解説してもらった。
ジャンプの回転不足などの減点軽減
日本では女子SPでトリプルアクセルが跳べるようになったことに注目が集まるが、男子SPでもバンクーバー五輪で銀メダルに終わったエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が「評価が低い」と話して論議を巻き起こしていた4回転ジャンプの跳べる数が、1度から2度に増えた。また、跳びやすい割に得点が高いダブルアクセル(2回転半ジャンプ)はフリーでは3度跳べたが、2回しか跳べなくなった。
そして今回の変更で最大の注目点は回転不足やミスの減点が軽減されたことだろう。これまではジャンプの回転が4分の1回転以上足りないと、回転不足と判定されていた。例えば4回転ジャンプを回転不足の上に転倒すると、3回転ジャンプ分の基礎点しかもらえず、しかも転倒による減点などで、1回転ジャンプ程度の得点になってしまっていた。
今回の改正で「4分の1回転以上2分の1回転未満の回転不足」は、基礎点の70%がもらえる。昨季の高橋大輔(関大大学院)の4回転や、浅田のトリプルアクセルの回転不足は「2分の1回転未満」なのでメリットは大きい。難しいジャンプについては基礎点も上がり、減点幅も縮まった(別表参照)。トリプルアクセルは基礎点が8.2点から8.5点になり、回転不足でも70%がもらえるため6点の基礎点が残る。減点幅も1.4~4.2点から、1~3点の範囲に縮まった。
「難度の高い技に挑戦を」
平松理事 「もっと早く変えたかったが、バンクーバー五輪前に大きな変更をすることには抵抗もあり、このタイミングでの改正になった。4回転をミスすると1回転と変わらない得点になってしまうのはおかしいという認識は以前からあった。難度の高い技に挑戦する人が減って、技の発展がないスポーツというのもね......。伸び盛りであるノービス(10歳から13歳のクラス)の選手たちがミスで順位を落とすのを恐れて、無難にまとめる傾向が出ていて憂慮していた」
「6点満点時代は難しいジャンプを跳ぶ選手が大勢いたけれど、質には疑問がつくものも少なくなかった。だから、04ー05年シーズンに導入した新採点システムでは『質を追求しよう』ということになった。そうしたら、難しいものに挑戦してミスをした場合のリスクが大きくなって、難度を落としても全体をまとめて完ぺきに滑ろうという方向が出てきた」
「改正で高難度の技に挑戦する人が増えてほしいが、一方で質にこだわる点は変わらない。全体的にミスの減点幅は小さくなったが、両足着氷などの減点は大きくなった。またジャンプの比重ばかりが高くなると、ほかの要素とのバランスが崩れるので、6種類の3回転ジャンプ中(ダブルアクセルも3回転のカテゴリーに含む)3種類の基礎点は下がったし、減点幅だけでなく、加点幅も小さくなった」
女子SPではスパイラルなくなる
ジャンプ以外の要素は「レベル1~4」で判定される。ルールブックに書かれた要素のうち、2つを満たせばレベル2、4つならレベル4......と、レベルごとに基礎点がある。より高いレベルをとるためにみんなが同じ技になりがちで「フィギュアの面白みがなくなった」という声が出ていた。
今回、選手の負担を減らすためにSP、フリーともに必須要素を減らした。男女SPはジャンプ、ステップ、スピンなど8要素で構成されるが、SPの要素が7になり、男子はステップ2種類が1種類へ、女子は「時間がかかる」という声が多かったスパイラルがなくなった。
フリーも男子は2種類のステップのうち1種類は決められた動きをこなし、女子はスパイラルが3秒×2姿勢か、6秒×1姿勢に短縮された。スピンの構成要素が変わり、体に及ぼす影響を考慮して、背中を後ろにそらすビールマン姿勢も制限された。
「もっと自由に曲を表現して」
平松理事 「6点時代には『スピンは休める』という選手もいたが、04-05年シーズンの新採点システム導入によってスピンとステップにかかるエネルギーは膨大になった。より高いレベルを取るのに精いっぱいで、演技で表現する余裕のある選手は限られてしまう。ジャンプもありますしね。6点時代を知る人たちから『演技に個性がない』という意見が根強くあった。今から見ればレベルは低くても、質が高く、歴史に名を残す演技はありましたから」
「集客を考えても試合の長時間化は避けたいので、演技時間は延ばせない。そこでSPで男子はステップ、女子はスパイラルをなくした。その代わりに演技構成点の『トラジション(技のつなぎ)』で評価する」
「フリーはあらかじめやることを決めてしまい、演技上での余裕を作った。体力の負担が軽減された分、自由に曲を表現して独創的な演技を見せてほしいというメッセージ。6点時代の02年ソルトレークシティー五輪金メダルのアレクセイ・ヤグディン(ロシア)の『ウインター』、98年長野五輪銅メダルのフィリップ・キャンデロロ(フランス)の『三銃士』、ちょっと古くなるが、76年インスブルック五輪3位のトーラー・クランストン(カナダ)......等々のようにね」
誰が得をする?
難度の高いジャンプに挑戦しやすくなり、女子の浅田真、男子の高橋、小塚崇彦(トヨタ自動車)のように、ミスにもめげずに挑戦し続けてきた選手には追い風だろう。無理せずまとめてきた選手は、高難度のジャンプを試合で組み込むまでに多少時間がかかるかもしれない。
「質重視」は変わらないので、技の出来栄え点(GOE)が高い金妍児(キム・ヨナ、韓国)にとって必ずしも不利ではないが、過去3年以上ほぼ同じだったジャンプ構成を変えなければならないので、少してこずる可能性はある。
ジャンプはそれほど得意でないが、線がきれいでいつも評価が高い女子のラウラ・レピスト(フィンランド)のような選手もより注目されるだろう。また、高橋や金妍児のように技術もあって踊れる選手から、昨季以上の名プログラムが誕生するかもしれない。
一方、質や表現力重視は審判の裁量が採点を左右することを意味する。昨季まで9人の審判から無作為選出の2人を削除した7人の審判の得点(そこから最高・最低得点をカットした5人分)で採点していたが、今季からは9人の審判の得点(同7人分)で採点される。
「選手は自分の個性を見極めることが大切」
平松理事 「審判はますます大変ですよ。新採点システムに変更直後は、無理やりでもジャンプを着氷し、ギリギリでもレベル4がとれていれば、GOE、演技構成点とも高評価が出がちだった。しかし『いいと思ったものに点を出すように』と言い続け、そのためのDVDを作って指導してきた結果、最近はレベルは低くても質が良ければGOEは出るし、技でミスしても、それを演技構成点と切り離して得点を出すようになってきている」
「選手はまず自分の個性、セールスポイントを見極めることが大切。演技があまり得意でなくても、質のいいジャンプやステップでGOEや演技構成点の実施点を確実にとる。ジャンプが苦手だけれど、柔軟性や質、表現力で勝負する。全体でバランス良く得点をとる選手もいるでしょう」
「万全を期したつもりでも新ルールがどうなるか、やってみなければ分からない。でも、バンクーバー五輪もそうだったが、ルールを良く知り、その中で勝つために自分はどんな戦略で行くかを見極めることが、勝負のポイントになると思う」
ルールはISUの4人の技術委員とコーチ、選手代表各1人ずつの計6人で検討する。元五輪選手の平松理事は40年近く国際審判を務め、2002年から10年6月までISU技術委員。6点満点から新採点システムへの移行、今季のルール改正にも携わった。
XXX転載終わりXXXX
ルールとジャッジング、そして選手の格付けにいたるまで、ISUの立場を実によく代弁している。このこと自体は悪いことではない。取材対象の意見・見解をまず忠実に伝えるのは、新聞の基本的な役割だ。平松氏の発言を引用した部分(「 」部)以外の地の文も、見事なまでに、ISU方針の要約になっている。
また、キム選手のジャンプ構成が、「過去3年以上ほぼ同じだった」点を明確に指摘するなど、ずいぶんと詳しくて驚く。したがって、この記事に関しては、地の文も記者の知識に基づくものではなく、ほぼ平松氏の意見に沿ったもので、平松氏から聞いた話を記者がまとめたのだろうという印象が強い。
第三者機関としての批判精神がまったくないのは、これがルール改正のポイントを聞くためのインタビュー記事だということもあるだろうが、ジャッジングに関して記者がさほど疑問をもっていないからかもしれないし、あるいは日経がメディアとして何らかの意図があって、あえて掘り下げないようにしているのかもしれない。そのあたりは外野にはわからないが、とりあえず、ISUの指針や考え方を素直に伝えている記事であることは確かだ。
個人的には、平松氏の発言には首を傾げたくなる部分も多いのだが、それについて今の段階で全部触れてもあまり意味がないので、とりあえず、今回の一連のエントリー内容の主旨にかかわる部分だけを赤にした。
<明日に続く>