|
<きのうから続く> 「『いいと思ったものに点を出すように』と言い続け、DVDを作って指導してきた結果、技でミスをしても、それを演技構成点と切り離して得点を出すようにした」 これが多くの場合、ファンには「特定選手に対する演技構成点での救済」に見えるのだ。そして、それが「メダル配分」につながる。技であれだけミスをしたトリノワールドのキム選手の点が不適切に高くなり、見事な演技を披露した浅田選手やブジェジナ(ブレジナ)選手の点はさっぱり伸びない。ファンからはブーイングを浴びせられ、識者からは「控えめに言っても、恥ずかしい採点」と一刀両断にされる。中国のメディアからは、「えこひいき採点」などと言われた。 これらは平松氏の言うDVD指導が適切でないために起こったことではないのか? プルシェンコのトリノオリンピックの演技構成点を「点を出しすぎた例」として研修用DVDに使おうしようとしてロシアから抗議され、慌てて引っ込めた話はすでに知られている。オリンピックでも一部のDVDが使用されなかった経緯について、その裏事情を推測を交えて報道したメディアもわずかにあった。ところがこの平松氏の発言を聞くと、このDVD指導によってジャッジングはよい方向に行っているとでも言わんばかりだ。 技でミスしても、それを演技構成点と切り離して得点を出すなど、スポーツ競技の精神に反している。ミスすれば流れが途切れ、見た目の印象は悪くなるのだから、演技構成点も下がるのが普通ではないか。ミスと演技構成点を切り離すとはつまり、最初から用意された演技構成点を出すということではないのか。プログラムも選手のもっている技術も試合前から決まっている。その部分で大きな差をつけられてしまったら、試合などやる意味がない。 オリンピックでキム選手のジャンプが男子以上の加点を得たことを妥当とするスケート関係者の言い分はたいてい、「スピードや流れ、高さと幅、空中姿勢など、どれをとっても男子並みかそれ以上であるから」というものだ。オリンピック後に突然そういう解説をする関係者が増えた。それもジャッジ研修会でDVDを使って指導したのだろうか? だが、それはそもそもおかしいではないか。GOEはGOE条件をいくつ満たしたか、プラス条件とマイナス条件の足し算と引き算で出されるのが基本だ。なぜその基本を守ろうとせず、「男子並みかそれ以上の質を獲得した女子は、男子以上の加点を得てもいい」ことになるのか。 そういうことを言うなら、回転数の多いジャンプを跳ぶ難しさは女子と男子で同じではないはずだ。ならば男子に比べて女子のジャンプの基礎点のほうが高くなくては筋が通らない。男子のトップ選手ならたいてい跳ぶトリプルアクセルを、女子がほとんど跳べないということは、女子にとってトリプルアクセルはそれほど難しい技だということだ。それならば、女子のトリプルアクセルの基礎点は、男子よりも高くなくてはおかしいことになる。 どんどん暴走するキム選手への加点を正当化するために、後付けでこれまで聞いたことのないような理屈を次々つけるから、こうやってますます突っ込みどころが増え、ファンの不信が高まるのだ。 こういうことを書くと、「キム選手への加点はやはり不正ではないのか」と短絡的に言ってくるファンがいる。いえいえ、そこまでISU幹部はバカではありません。むしろ相当に用意周到で賢く、「最強日本女子」選手のもつ小さな欠点を見事に狙い撃ちしてきた。もちろん、GOE加点の付け方についても、ちゃんと逃げ道を用意している。 こちらは2008年に出たガイドラインだが、 http://www.skatingjapan.jp/Jsf/News/comm1505J.pdf 最終のGOE を計算するためには、まず始めに要素のプラス面を考慮し、これがGOE 評価の起点となる。次に、ジャッジはあり得るエラーのガイドラインに従ってGOE を減点し、その結果が要素の最終GOE となる。 起点となる(プラス面の)GOE を確立するために、ジャッジは各要素に対して次の項目を考慮しなければならない。GOE の等級に対する項目の数はジャッジ次第であるが、一般的には以下を推奨する。 とある。つまり、「+1: 1 または 2 項目、+2: 3 または 4 項目、+3: 5 または 6 項目」は推奨であって、ジャッジ次第で運用を変えてかまわないのだ。極端なことを言えば、優れたジャンプに対して+1をつけようが+2をつけようが+3をつけようが、演技審判の勝手であって、不正でも不当でもなんでもない。 一見細かく客観的な基準を定めているように見えながら、実際にはおおざっぱな理屈でどうつけても正当化できるようになっているのだ。 さらに言ってしまえば、GOEがプラス条件とマイナス条件の足し算、引き算で出されるのが基本だというのも多分にタテマエだと思う。フィギュア関係者は、公けに口にはしなくても、だいたいそのことを知っている。ジャッジは実際には、GOEを経験的・直感的に付けている。ジャンプがきれいに決まればプラス1とか2、ギリギリだったら0、少し乱れればマイナス1・・・というように。 だから、目に見えるマイナス要素があったとしても、「それを上回るプラスの要素があった」ことにすれば、別にマイナスにしなくても不正ではない。チャン選手がステップで明らかに躓いてもGOEがマイナスにならない場合があるのは、この理屈からだろう。つまりはこうやって、恣意的操作が可能なのだ。 平松氏のインタビューでの発言は、組織を代表してルールについて解説する以上、仕方のない部分もあると思う。こうしたルール改定に関するインタビューで、過去の特定の試合の問題採点を自ら認める必要はないが、演技の出来と点数の乖離に、ファンが呆れているという危機感はもってほしいし、もっていてくれると信じたい。 「集客」までちゃんと考えているのだから、ファンの意見を、単に「贔屓選手の点が低いから、ルールも知らずにヒステリーを起こしているだけ」だとか、「素人だから余計なことは言わずに黙って選手を応援しろ」などと言って片付けることはできないことは認識していると思う。そう願いたいし、もしその認識が平松氏に欠けているとファンが思うなら、ファンが取るべき行動は、平松氏の悪口を匿名の掲示板やコメント欄に書き捨てにすることではなく、自分の真摯で率直な意見を平松氏本人に届ける努力をすることだろう。もちろんMizumizu自身もそうした行動を取るつもりでいる。ただし、くれぐれも噂や憶測を鵜呑みにした敬意のない態度を取ることは控えていただきたいが。すでに70歳近い平松氏が長年にわたって日本フィギュア界に貢献してきたという事実を、ファンも決して無視してはいけない。と言って、経歴や過去の実績が免罪符にならないこともまた、真なりだ。 「難度の高い技に挑戦する人が減って、技の発展がないスポーツというのもね......。伸び盛りであるノービス(10歳から13歳のクラス)の選手たちがミスで順位を落とすのを恐れて、無難にまとめる傾向が出ていて憂慮していた」 これこそ回転不足判定が厳密化された2008-2009シーズンにモロゾフが指摘した「規則の弊害」だが、やはりこれまでのルールが技の発展を阻害していたということは、平松氏も認めていたことになる。高難度ジャンプにばかり力点を置いた演技は個人的にも嫌いだが、ルールで認められている以上、技の希少性はもっと高く評価されるべきだ。フィギュアでもそれが当たり前の伝統ではなかったか。 そもそも高難度のジャンプを跳ぶ選手は、滑る技術や表現においても卓越したものを持っていることのほうが多い。たとえば空前の空中戦と言われた本田武史の時代のトップだって、今の世界トップレベルの選手のスケート技術と比べて、劣っているとは思えない。スピンに関しては、今のほうが技術的にアップしたと明言できるかもしれないが(それが美しく見えるかどうかは、また別だが)。 <明日に続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.08.01 11:58:40
[Figure Skating(2010-2011)] カテゴリの最新記事
|