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ソチ五輪から今年のワールドまで、女子シングルでくっきりとしてきた「流れ」がある。それは少女潮流とも言えるもの。10代の若い選手が強くなったということだ。2015年ワールドのメダリストは16歳~18歳。2014年ワールドと比べても、メダリストはひと世代飛び越して若返った。ジャンプ重視になれば、当然こういう流れになってくる。 フィギュアの場合、年齢を重ねれば「正確が技術が身につく」というものではなく、例えば「回り切れるかどうか」なら、少女体型の軽い時代のほうが有利だし、エッジは癖だから、20歳過ぎてから直そうとしてもまず無理。ロシェット選手が言うように、矯正するなら15歳ぐらいまでだろう。 純粋にジャンプ中心のスポーツとして考えるなら、かつて体操もそうなったように、フィギュアスケートもティーンエイジャーが中心にならざるをえない。だが、フィギュアスケートは長らく、この「スポーツ性」のみに重きを置く傾向には抵抗してきた。「滑り」から醸し出される「味」というものが円熟してくるのは、やはり20歳を超えてから。10代で優れた表現力を発揮する選手ももちろんいるが、それはかりそめの成熟であり、真の成熟とは違う。 今でも、この「成熟」に重きを置く態度は採点にきちんと反映されている。ワールドでは、ワグナー選手の演技構成点が高く出ている。天才少女たちが席巻するロシアの国内大会でも、ベテランのレオノワ選手には高い演技構成点が与えられていた。 だが、ジャンプの回転不足を厳しく取り、技術点が上がってくれば演技構成点も高く出る昨今の傾向にあっては、ベテラン選手は勝てなくなっている。いくら円熟味が違っても、体力的にも若い選手にはかなわないし、体も重い。そうなれば、ジャンプは跳べたとしても、回転不足になりやすくなる。 そこで判定が「厳しいか」「甘いか」で、結果はずいぶんと違ってくる。たとえば全米を制したのはワグナー選手だったが、全米選手権はワグナー選手に対してずいぶん好意的な判定だった。 http://www.usfigureskating.org/leaderboard/results/2015/2015_us_fs_champs/results.html フリーの技術点を見ると、エッジに「!」もなく、回転不足も1つもない。だから非常に高い点数が出た。ところがワールドとなるとそうはいかない。ワグナー選手自身も回転不足を意識するあまり、ジャンプの調子を返って崩してしまったように見えた。 技術審判の判定が試合によって甘い辛いがあるのも問題だが、そのいい加減な基準の判定で点数が随分変わってくる、そこが一番の問題だ。 注意しなければいけないのは、「判定が厳しい」のと「減点が大きい」のは、基本的に違う問題だということだ。判定基準はもともと一定であって、「厳しいジャッジ」と「甘いジャッジ」がいるというのは本来あってはならないこと。それがあるというのはジャッジを指導する立場の問題だ。そして「減点が大きい」というのは、ルールの問題だ。 だから、「判定は厳しくするが、減点は少なくする」ということは十分可能なのであって、何年も同じ基準で判定しているはずが、いまだにこうもバラバラだというのなら、「正確なジャッジングを一貫して行うのは不可能だった」ということをまずは認めるべきだろう。 一般的に考えて、甘い基準で統一するより、厳しい基準で統一するほうが容易だ。天野氏や岡野氏が厳しい技術審判だからと言って非難したり賞賛したりするのではなく(「厳しく」取るジャッジが「正しく判定している」ジャッジではない。といって「不正確に判定している」とも言えない)、厳しい基準をむしろ全ジャッジに徹底させ、曖昧な「スケーターズフェイバー」はルールブックから削除する。 そして、現在の基礎点7割ではなく、通常の基礎点を与え、他の「+の要素」に鑑みたうえでGOEをどうするかは演技審判の裁量に任せる。つまりは、「バンクーバー五輪2年前」以前に戻すということだ。 そうすれば、村上選手もワグナー選手もまだまだ世界トップで戦うことができる。もし、今のようなルールと運用のままで行けば、村上選手やワグナー選手は「判定の甘いジャッジ」の試合では強いが、シビアに取られる試合では弱いということになり、最終的には、それなりの表現力をもった「少女」に勝てないということになる。 ワグナー選手や村上選手の「味」は、宮原選手やラジオノワ選手にはまだないものだ。体型もまったく違う。少女潮流はフィギュアのスポーツとしての側面を見た場合、起こるべきして起こったものだが、もしこのままのルールと「厳しい判定」を続けるなら、少女潮流はさらに加速し、ワールドや五輪の最終グループで競う女子は、ティーンエイジャーばかりになり、もともと短い選手生命はさらに短くなるだろう。 もちろん、それはそれで悪いことではない。スポーツはあくまでスポーツだから、身体能力の優れた者が勝つ。当然と言えば当然のこと。だが、それでは、女子フィギュアの魅力が失われてしまう。フィギュアスケートは長い時間滑らなければ、雰囲気や味というものは出てこない。 浅田真央はシニアに上がったとたんに世界を支配したが、もしトリノ五輪に出て金メダルを獲ったとしても(出ていれば、その確率はバンクーバーやソチの比ではなく高かった)、ソチで見せてくれたような無限の魅力はなかっただろう。 こうした選手の成長を見る楽しみを、「少女潮流」は奪っていく。17歳ぐらいがピークで、20歳を超えたらもう引退、そういう選手が増えるだろう。スポーツとして公平な採点がなされたとしても、Mizumizuにとってこれは最悪の未来だ。フィギュアスケート女子シングルを見なくなるかもしれない。女子シングルは非常に人気のあるカテゴリーだが、それも男子シングルに取って代わられるかもしれない。いや、もうその兆候は出ている。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.04.03 01:17:49
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