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カテゴリ:メールマガジン「読書クラブ」
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-スマイリーの読書クラブ-(ご紹介) 1.隔週月曜日の朝発行です。 2.読書好きの働き盛りの方々に、多彩な書籍の情報をお送りします。気に入っていただけたら、オンライン書店で、すぐに購入できます。 3.コンテツンツは次のとおり。 (1)注目のビジネス本 (2)新聞・雑誌の読書コーナーから (3)特集:時代小説の楽しみ (4)図書館の蔵書から (5)今週の心に残る言葉 (6)スマイリーの日記 4.登録・解除はこちら http://www.mag2.com/m/0000131354.htm ------------------------------------------------------ ***************************************************** ●○● スマイリーの読書クラブ ○●○ ―第四号(2004年5月31日発行)― ***************************************************** 0.始めに 皆さん、お元気ですか。 今回は歴史をテーマに選んでみました。 ちょっと難しいテーマですが、挑戦してみました。 1.注目のビジネス本 ―武士の家計簿― 2.新聞雑誌の読書特集から ―文章読本さん江― 3.特集:時代小説 ―坂の上の雲― 4.図書館漁り ―ヘロドトス「歴史」― 5.心に残る言葉 6.スマイリーの日記 *********************** 本誌 ************************ 1.注目のビジネス本 -(生活史)磯田道史「武士の家計簿」(新潮新書680円・税別)- ●昨年のベストセラーリストに名を連ねた作品を今ごろ紹介するのは少々気が引けますが、私はこの著者に注目しています。磯田氏は1970年生まれの若い日本史研究者です。この作品出版後に新聞に発表されたエッセーは印象的でした。これについては「スマイリーの日記」で取り上げます。 ●この本では武家の厳しい節約ぶりが、発見された古文書に基づいて、詳細にかつ赤裸々に述べられています。 ●一方、厳しい家計の中にも、長子誕生などお祝いの折には、祝い膳の中に小鯛や胡桃をのせるなどささやかな祝いの工夫が見えて微笑ましく、この本の魅力になっています。 ●この著書は、全く違った側面でも注目すべき記述に満ちています。妻女は結婚後も実家と密接に結びついていた、武家社会では離婚が結構多かった、夫が妻から借金した証文が残っていた等々、意外な事実が実例を挙げて述べられています。 ●この著者の登場は2003年の出版界の収穫と見てよいでしょう。私はこの著者が今後どんな仕事をされるのか楽しみにしています。 2.新聞雑誌の読書特集から -(文体史)斎藤美奈子「文章読本さん江」(筑摩書房1700円・税別)- ●当代きっての切れ者女流文芸評論家、斎藤美奈子氏の小林秀雄賞受賞作です。明治以降次々に出版された文章読本の類をあまねく渉猟し、内容を分類整理し分析した上で縦横無尽に論じた本格的な研究であるにもかかわらず、痛快で抱腹絶倒の問題作?です。 ●論旨はしっかりしています。氏は「様々な文章読本類は、文学的な文章を頂点に置いて、文章の序列化を図るものである」と鋭く批判し、批判勢力の事例として、反「文章読本」本や文章読本のパロディ本も紹介しています。そして、“インターネットの普及した双方向社会で求められるのはコミュニケーション型の文章である“と結論付けています。 ●また、内容的にも文芸評論の神様小林秀雄の初期の代表作「様々なる意匠」をしっかりと踏まえています。何しろこの本の最終章のタイトルは「さまざまなる衣装」ですから。 ●読みながら私は、途中何度も死ぬほど笑い転げました。文体論などというディープな文学趣味のテーマを、これだけポップに纏め上げるのは大変な力量です。ともかく面白い本です。ぜひ、ご一読をどうぞ。<残念ながら「楽天」では買えないようです> 3.特集:時代小説 -(戦史)司馬遼太郎「坂の上の雲」(多数)- ●こんな名作を、何でいまさら、と思われるかもしれません。実は、私はこの作品について、この場を借りて、少しばかり難癖をつけてみたかったんです。 ●ご存知司馬遼太郎氏の名作です。言うまでも無く、日露戦争の功労者秋山兄弟の人生を軸に、明治の初めから説き起こし、後半は日露戦争を迫力のある筆致で詳細に描写して日本海海戦の圧倒的大勝利で締めくくる、という見事な構成を持った、日本人を元気づける、国民文学と言ってもいい作品です。 ●ところで、小説の世界には、小説技法的には少々難があるが、テーマが重要でしかも面白い作品、というのがあります。例えば、山本周五郎の「樅ノ木は残った」などが好例です。 ●「樅ノ木は残った」は、原田甲斐という人物の、藩を乗っ取ろうとした極悪人、という従来の定説を覆し、身を挺し藩を守った忠臣であると主張した問題作です。 ●しかし、陰謀に満ちた物語展開は大変面白いんですが、小説技法的には、人物造形が図式的に過ぎますし、主人公原田甲斐の描き方もあまりにも理想化され過ぎています。小説技術的には上出来の小説とは思えません。 ●「坂の上の雲」には、そういう欠点はありませんが、前半の牧歌的なシーンと後半の日露戦争の描写とでは描写密度に少々差があり過ぎるように思うんです。その意味では構成が破綻しているように私には感じられます。前半の主人公に正岡子規を取り上げたのも少々場違いな感じがして失敗ではなかったかという気がします。 ●とはいえこの作品の日露戦争描写は圧倒的な迫力を持っています。 ●来年度にはNHKがドラマ化するようですが、この国民文学を、今年の大河ドラマ「新撰組」のように破壊してしまわないよう願っています 4.図書館漁り -(古代戦史)ヘロドトス「歴史」- ●「エジプトはナイルの賜物」という言葉で知られるヘロドトスは紀元前5世紀頃の人で、歴史家とも旅行家とも説話家とも言われています。この作品はペルシャ戦役を記録したものですが、話は脱線に脱線を重ね大変楽しい読み物になっています。 ●前半は真偽も定かでない珍談奇談のオンパレードです。これだから「説話作家」なんて言われちゃうんでしょう。 ●中盤は気分が悪くなるような“古代残酷物語”です。なにしろ、王に自分の息子を食わされてしまう重臣とその復讐の物語なんてのがでてくるんですから。私はこの手の話はどうも苦手です。 ●後半はペルシャの超大軍をギリシャの諸国連合が、大番狂わせで打ち破るサラミスの大海戦のお話です。詳細な胸のすくような描写で盛り上げて物語は終わります。見事な演出です。このあたりの演出が、この作品が2500年の風雪に耐えてきた秘密でしょうか。 ●構成がなんとなく「坂の上の雲」に似ています。司馬さんはもしかしたらこの作品に触発されたのかもしれません。 ●私はこの作品を岩波文庫で読みましたが、岩波文庫を持つ日本人はつくづく幸せだと思いました。 <残念ながらこれも「楽天」では買えないようです> 5.心に残る言葉 ガートルード・スタイン「全ての時代は同時代である」 7.スマイリーの日記 ●昨年の夕刊に、冒頭でご紹介した磯田道史氏の、次のような内容の投稿が掲載されていました。 ●「江戸時代の武家社会は内部での武士同士の身分格差が大変大きかった。同じ武士に対して切捨て御免さえ認められていた例があった。」 ●「上級武士は坊ちゃん育ちばかりで、下から上がってくる書類に花押を押すだけ。判断能力はほとんどない。一方、事務員たる下級武士は、目の前の書類をひたすらさばくことに熱心で、藩全体のことを考えるのは自分の仕事ではない、と割り切っている。」 ●「その結果、膨大な書類が機械的に下から上に、無意味に吸い上げられ、保存されるだけ。全体を見る人間は誰もいない。」 ●「そしてその結果、江戸幕府はどうなったか。結果は明らかである。振り返って、現代の日本の状況はどうであろうか。」 ●こういう趣旨の論考でした。私はこの記事を二読、三読し、組織人の端くれとして考え込んでしまいました。(以上) **************************************************** (編集後記)今回は如何でしたか。 なお、ご感想を、紹介ホームページの掲示板にお寄せくださるとうれしいんですが。 スマイリー。会社員。 連絡先:smilynet@hotmail.com お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004.06.06 11:16:02
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