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Oct 30, 2014
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「濃霧の八幡原合戦」(71章)

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 (第四回川中島合戦)

 霧の中を泳ぐように勘助は隻眼を光らし夢中で駆けた。

 その頃、信玄は八幡原の本陣で黒糸縅の鎧に緋の法衣を纏い、

諏訪法性の兜を被り、床几に深々と腰を据え一点を見据えていた。

 濃霧と風で諏訪法性に飾られた、純白の唐牛の毛がふありと動いた。

「それにしても遅い」

 妻女山に向った別働隊の動きに疑惑をもった、既に信玄はここで一刻

を超える時を過していたのだ。

 夜明けの冷気が信玄の体躯を冷やし、覚えず法衣を首から胸元へと蔽った。

 遠くで鶏の啼き声が聞こえた、一番鶏の啼き声である。

(勘助の策は政虎に悟られたか?・・・いや、その様な事はない)

 信玄は胸裡に疑惑を反復させている。

「この刻限に妻女山には何の異変も起こらない。夜襲が失敗したのじゃ」

 信玄が立ち上がろうとした時、濃霧を割って騎馬が一騎駆け寄ってくる。

「あれは勘助じゃな」

 本陣まで駆け戻った勘助が、馬から降り信玄の許に不自由な足で駆け

寄って来た。その様子で信玄は一目で置かれた情況を悟った。

 相変わらず辺りは霧にすっぽりと覆われている。

「勘助、政虎に裏をかかれたな」  

「面目次第もございません」

「運否天賦じゃ。妻女山の主力が戻るまて持ち堪えよ」

 信玄は勘助を責めることもなく床几に腰を据え、前方に視線を向けた。

「申しわけございませぬ」  

 勘助は無念であった。今回こそ越後勢を叩き伏せる好機と思ったのに、

こんな結果となるとは思いもしなかった。この情況では作戦は用を成さない。

 一人一殺の死闘で妻女山より、戻り来る別働隊を待たねばならない。

「勘助、あれが越後勢か?」

 信玄の眼にも濃霧の合間に、粛々と我が陣営に迫り来る大軍が見えた。

「はい、両翼へは母衣武者が敵勢の迫った事を報告いたしております」

 濃霧の中の武田勢は鶴翼の陣形を保ち、声を殺して沈黙している。

 信玄と勘助の耳朶に敵勢の人馬の動きが鈍くなったと感じられた。

 どのような精強な将兵も、沈黙を守る敵勢に近づくにつれ足が緩むものだ。

 越後の龍、上杉政虎の率いる越後勢も次第に足が前に進まなくなったのだ。

 一発の銃声が天地を揺るがし、前方の霧のなかから鬨の声が挙がった。

 政虎が焦れて督励の銃を放ったのだ。

 越後勢が総攻撃に移ったが、武田勢は声を殺し静かに折り伏している。

 霧が急速に流れ去り、周囲が明るく晴れ渡ってきた。

「流石じゃ」  

 本陣の松の大木の翳から、勘助が越後勢の戦闘隊形を眺め呻いた。

 怒涛のように騎馬武者が突撃を開始した。それは見事の一言である。

 味方の左翼から鯨波が起こった、武田典厩信繁の勢からの鬨の声であった。

 それと同時に中央の山県勢、右翼の諸角勢も一斉に鯨波をあげた。

 流石の越後勢も足並みが緩まった。霧は完全に晴れ渡り芒の穂が両軍の間

を埋め尽している。

 時をおかず後方から一発の銃声が八幡原に響き渡った。

 政虎が放った督励の銃声である。

 越後勢の先鋒は上杉家が誇る猛将、柿崎和泉守景家ある。

 彼の軍勢は黒備えで勇名をはせていた。

 景家は自慢の青貝の大身槍を手にし、猛然と山県勢に突撃した。

 兵馬が狂奔し両軍が槍の穂先をあわせ、直ぐに乱戦となった。

 武田勢の本陣から大太鼓の乱れ打ちが広大な八幡原に響き渡り、鳴りを

ひそめていた武田勢が一斉に鬨の声をあげ、猛烈果敢な攻勢に転じた。

「怯むな、今に妻女山に向った別働隊が現れる。そうなれば我等が勝ちじゃ」

 武将達が声を張りあげ、越後勢に反撃の戦いを開始した。 

 赤備えの山県勢一千名は武田菱の指物を翻し、押し寄せる越後勢を押し

返している。

 上杉勢も負けずと新発田勢、本庄勢が猛烈に山県勢を圧迫している。

 右翼の諸角勢にほころびが見られる。

「今じゃ、後詰の内藤勢を繰り出すのじゃ」  

 勘助の下知で百足衆が、背の指物を翻し駆け出した。

 内藤修理亮昌豊の新手の一千名が右翼に進出し、見事な体形で陣を固めた。

 完全に太陽が昇り戦場が一望できる、喚声が飛び交え軍馬のいななきが響い

ている。

 信玄は床几に腰を据え、軍配団扇を右手とし微動もせずに戦場を眺めている。

「勘助、我が軍勢の崩れは見えぬか?」

「保っております」  

 勘助が愛用の脇立て兜をかむり隻眼を光らせて答えた。

 両軍は一進一退を繰り返しているが、兵力の差と作戦の齟齬で受身となった、

武田勢が徐々に後退する事は予測できる。

 まだ別動隊は戻らぬか、勘助は祈る心地で何度となく妻女山方面を眺めたが

何の変化もない。

 本陣では信玄と勘助の二人だけとなっている。

「勘助、そちの死ぬと言う意味が今になって判った」

「この合戦の最中に何を仰せにござる」

「父上は、そちを後釜にと考えておられるな、じゃが余は許さぬ」

「はっー」  

 勘助が両手をついた。

 この合戦の中で自分を庇う、信玄に何も言うべき言葉がなかった。

 前面は阿鼻叫喚の血待塗れの戦場と化している。

「諸角昌清さま、お討ち死にー」 

 母衣武者が駆けつけ叫んだ、彼も血塗れである。  

「右翼が危ない、義信に押し出せと申せ」

 信玄、自ら初めて下知を下し、百足衆が猛然と敵勢の中を駆け去った。

「申し訳ございませぬ、若殿までも」  

「ここは合戦場じゃ」

 武田義信の隊が一斉に右翼に移動を始めた。その横腹に越後勢が衝きかかり、

一瞬にして乱戦と化した。騎馬の義信が陣太刀を振るい兜武者を斬り伏せた。

 見事な若武者ぶりを発揮している。

 それを見た押さえの望月勢も繰り出した。これで本陣の予備隊がなくなった。

 中陣の山県勢も散々な有様であるが、一歩も退かずに善戦している。

 信繁が大きく采配を振り合図を送るや、穴山勢が本陣の前に折り伏した。  

「信繁、やるは」  

 信玄が頬を崩した。

 信繁は信玄の弟で家中の信頼も厚く武田家の副将である。

 乱戦の彼方から、炯々と法螺貝の音が響き、再び柿崎和泉守景家が戦場に

姿を現し、悠々と迂回し左翼の信繁勢に凄まじい勢いで襲いかかった。

喚声が一段と高まり、信繁が武田菱の兜の前立を輝かせ、獅子奮迅の働きを

見せている。まさに名将と勇将の戦いは一服の戦国絵巻を見るようである。

 血潮と叫喚、眉をつり上げ眼を剥く兵士が喚き声を挙げている。

 旗指物が交差し、騎馬武者が転がり落ち、軍馬が倒れ脚が宙を掻いている。

「まだ、高坂は見えぬか?」

 信玄の青々とした濃い髭跡のあごに、白いしのび緒が食い込んでいる。

 勘助が平原の彼方を何度となく見つめた。

(高坂殿、飯富殿、馬場殿、何をしておるのじゃ)

 空は雲ひとつない青空が広がりを見せ、その先に妻女山が何事もない様子

で聳えたっている。

 勘助は本陣で床几に腰を据え、眼前に広がる両軍の激闘を見つめている。

 武田勢は未だしぶとく粘りを見せている。

 勘助は今になって政虎の戦略が理解出来た。奴は濃霧の件を承知していた。

 三度の合戦では越後勢は犀川付近に陣を構え、南には出ては来なかった。

 それが今回は千曲川を渡河し、武田家の範疇と言える妻女山に陣を構えた。

 その狙いは我等の妻女山襲撃を予期していたのだ。

 それ故に妻女山に陣を構え、頭上から海津城の様子を監視していたのだ。

 動くならば我等は、川中島の八幡原に本陣を移す、そう予測していたのだ。

 濃霧に隠れ我が本陣に近づき、一気に勝負を決する。

 これが政虎の策であった。勘助は歯噛みをし、戦場を眺めている。





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Last updated  Oct 31, 2014 03:10:05 PM
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