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テーマ:天声人語(22)
カテゴリ:読書 Reading
それまでは読売と報知をとっていたのが、中学校にあがって親の方針で朝日新聞をとることになりました。巨人の扱いが小さかったり、紙面が堅苦しく感じましたが、連載のサザエさんやフジ三太郎が面白くてすぐに慣れました。
そんな中である時期から天声人語が、これまで読んだ新聞のどのコラムよりも内容も文体も美しく輝いていることになんとなく気づいて楽しみに読むようになりましたが、その後著者の訃報を聞いてたいへんがっかりしました。大学時代に買った深代惇郎の天声人語 、続深代惇郎の天声人語はまだ本棚にあります。 今回読んだ後藤正治さんの「天人 深代惇郎と新聞の時代 (講談社文庫) Kindle版」は結構衝撃的でした。最近の本は活字も大きく、行間もすかすかで1、2時間で読めるのが多くなりましたが、この本は中身が濃くぎっちり詰まっていて非常に読み応えがあります。関係者が高齢化する中で、多方面の方に取材されて、深代惇郎さんの作品を散りばめながら、旧制中学時代から亡くなるまでの生きた時代、周りの人々と共に描いており、なぜあのような素晴らしい文章が書けたのかがわかるような気がします。 深代さんは1929年浅草橋の久月の隣の大きな喫煙具屋さんの生まれで、ちょうど父親と同い年なので、父の生きた時代をこの本でたどれて親近感が湧きました。うちの近所の現在の両国高校から、海軍兵学校を経て、東大法学部卒です。将来の社長候補の一人でもあったそうです。ドナルド・キーン、森英恵、丹下健三、有吉佐和子、明石康等各界の著名人との交友関係が楽しいです。朝日新聞の家庭的な社風も窺えます。 この本を読んで、今までエッセイの神様みたいな人だと思っていたのが、失敗もする普通の人だと知り、ちょっと安心しました。私の年代かそれ以上の方にオススメの1冊です。 天人 深代惇郎と新聞の時代 (講談社文庫) Kindle版後藤正治 (著) 深代惇郎の天声人語 単行本 – 1976/9 ■参考リンク 深代惇郎の天声人語:朝日新聞ひろば 好きだった夕焼け雲 (1974・9・16)や深代最後の天声人語 (1975・11・1)が掲載されています。 このほかにも、続深代惇郎の天声人語に掲載されている、マーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」が日の目を見るに至った経緯を書いた「ゲンコウ、タノム」や、本では見つけられませんでしたが。確か亡くなった小学校の恩師をしのぶ同窓会を描いた作品が好きでした。 この本に掲載されていた「世界名作の旅」チボー家の人々の冒頭の引用です。 いつかはこんな美しい文章を書きたいです。 「天人 深代惇郎と新聞の時代 (講談社文庫) Kindle版後藤正治 (著)」より引用 手にとると、軽い、純白なわた毛だった。プラタナスの実からはじけた綿だと、教えてくれた人がいた。 それが、いつ降りだしたのか、無数に、吹雪のように、セーヌの川岸を乱れとんでいた。 手のひらにのせ、フッと吹くと、また吹雪の中に帰っていく。その下で、ジェラニウムの花が炎のように、真赤に咲いていた。パリの夏。ジェラニウムのにおい。そのなかを歩きながら、私は『チボー家の人々』の主人公、ジャックの青春を思い浮かべた。 一九六五(昭和四十)年七月十八日付の「世界名作の旅」の冒頭である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.02.17 05:04:50
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