映画・海外ドラマ・本 ひとこと言いた~い

映画・海外ドラマ・本 ひとこと言いた~い

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海外のノンフィクション・エッセイ・その他のジャンル

August 9, 2022
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みなさん、こんばんは。声優の小林清志さんが、7月30日にご逝去されました。
「ルパン三世」ではパイロット版をはじめTV、映画と2021年まで次元大介の声をご担当いただきました。今日は未だ解決されていない事件を扱ったノンフィクションを紹介します。

消えた将校たち―― カチンの森虐殺事件​
Death In The Forest
ヤヌシュ・K.ザヴォドニー
みすず書房

第二次大戦中の1943年2月、西ロシアのカチン地区を占領中のドイツ軍は、偶然ポーランド将校数千名の遺体を発見した。

 連行されたのは将校に留まらない。学者、宗教指導者、学生、教師ら、後のポーランドを背負って立つ指導者候補がごっそりと連行され、収容所に入れられた。将校に至っては、退役や予備役に関わらず連行された。そしてある時から家族との文通が途絶えてしまった。連行された人達のポジションにロシア人を投入し、傀儡にする目論見だ。ナチスドイツのジェノサイドは民族を対象とした殺戮だったが、ポーランドのこれは特定の階級に限った殺戮だ。

 日本も無縁の話ではない。先の戦争の時にシベリア抑留された日本人が強いられたのが、共産主義を叩きこまれることだ。カチンの森で連行されたポーランド人への体験が生かされているという。親世代にはシベリア抑留から戻り、ばりばりの共産主義者となった人がいたらしい。

 連行されたポーランド人で生き残れたのは、思想教育に染まった、或いは染まったふりが出来た人達だけだ。将校たちはポーランドの軍人であることに誇りを持っており、そもそも思想教育が無理だと見做されていたため、最初から殺害対象だった。

 今では、1940年春の虐殺がソ連の犯行だったことは周知の事実だが、本書が米国で刊行された1962年当時、米英ソは協調してヒトラー犯行説を主張、事実を隠蔽し、ソ連の一次資料も90年代まで封印されていた。ワルシャワ蜂起に参加し米国に帰化したポーランド人学者である著者は、ソ連以外の関係国の資料をできるだけ収集する。連行された時期と文通の途絶えた時期、掘り起こされた遺体からわかる処刑の様子等の傍証、目撃証言と、何度も掘り起こされたことにより少なくなった物証、先の理由により生存(を許された)者の証言を集めてソ連犯行説を固める。ソ連崩壊後、一次資料が公開されはじめると著者の主張は裏付けられ、いまだに引用頻度がもっとも高く、基本研究書と位置付けられている。

 カチンの森事件の解明及び告発は、当事者であるポーランドにおいてもタブーである。国連も腰をあげない。ロシアのウクライナ侵攻に有効な手が打てない現在の国連と、同じ問題を抱えているようだ。即ち、直近の大戦で勝った国に対して何も言えない。結局は勝った国=正義と見做される。正義を主張し認めさせるには、今度は自身が戦勝国になって立場を強くするしかない。戦争が起これば必ず捕虜と避難民が生じる。

「将来おそらく、各国は勇気と叡智をもってすべての犯罪を-戦勝国か敗戦国にかかわりなく-審理する法廷を確立するだろう。」

著者の言葉に挙げられた法廷は、まだ実現していない。


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最終更新日  August 9, 2022 12:00:25 AM
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July 29, 2022
みなさん、こんばんは。1993年から「水戸黄門」の主役を務め、親しみやすい黄門像を築き上げた佐野浅夫さんが亡くなりましたね。今日は一家の家業に携わった著者の生涯にリンクしたエッセイ風の作品を紹介します。

私にぴったりの世界​
Un monde sur mesure
ナタリー・スコヴロネク
みすず書房

国を持たないユダヤ人が持っていたのは、どこにでもものになる金と裁縫道具だった。アイザック・メリット・シンガーがミシンを発明する前から、どこででも仕事ができるように、ユダヤ人は縫い針と糸を持ち歩いていた。

 東欧ユダヤ系の四代目である著者は、大学で文芸学を学び教員免許を取得。卒業後は出版社勤務をしていたが、両親が経営する既製服店で働く。後再び出版社で編集を担当し、37歳で作家デビュー。本作は自伝的小説の完結編と位置付けられている。

 祖父母はポーランドからベルギーに移住。フランスでもポーランドでもなくベルギーだったことは、ナチスドイツの迫害を逃れる上では有効だった。母方の祖母はショア―の悲劇から一生逃れることができず細々と店を営み、父方の祖父母は事業を拡大していく。出自は同じユダヤ人でありながら、もともとの性格及び体験から全く別の方向に舵を切った祖父母・両親たちを、家族というより観察者の目線で見ながら、自身の道を見つけてゆく。

 自身の成長譚を追うウェットな話になるのかと思いきや、既製品→プレタポルテ→ファストファッションの隆盛という、服飾業界&家業の変遷をドライなエッセイ風に綴っている。ファッションの変遷というテーマは『ザ・ハウス・オブ・グッチ』と共通。


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最終更新日  July 29, 2022 12:00:26 AM
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June 16, 2022
みなさん、こんばんは。ゼレンスキー大統領は東部ドネツク州のスビャトヒルスク修道院をロシア軍が攻撃したと交流サイト(SNS)で明かし、非難しました。歴史的建造物である同修道院には子供ら300人が非難していました。今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。

ツヴァイク全集 17 権力とたたかう良心
Ein Gewissen Gegen Die Gewalt
シュテファン・ツヴァイク
みすず書房

1938年3月12日、ドイツ軍がオーストリアに侵入して全土を占領し、オーストリア・ナチスが政権を掌握。3月13日にアンシュルス(合邦)が宣言される。ロンドンへ亡命することを決意したツヴァイクは、1935年にはスイスのチューリッヒで本書の執筆を開始した。

 ジョン・カルヴァンはジュネーヴ市の宗教改革に着手したものの、一端は追放を余儀なくされた。ところが1541年には、市民の懇請によって戻り、以後30年近くにわたって、神権政治を行って同市の教会改革を強力に指導する。一切の祭日を無くすなど、市民の日常生活にも厳しい規律・戒規を求めた。1553年、カルヴァンの手の者によって異端者として告発された旅行中の神学者ミゲル・セルヴェートは、ジュネーヴ市当局によって生きながら火刑に処された。この事件に対して、セバスチャン・カステリオンなど反カトリック陣営がカルヴァンを非難した。本作のメインはこの事件である。

 自己肯定と他者排除がセットになる者に対して鋭く批判するツヴァイクの姿勢はエラスムスの勝利と悲劇でも描かれたが、本書はより鋭い。
「つねに自説を正しいとすることは彼の身についてしまった本性であって、ほかのひとがそのひとの立場からすればやはり正しいかもしれないなどということは、とうてい考えてみることもできなかったからである。ひとを教えることは彼だけに許された転職であって、ほかのひとたちはみな彼から教わらなければならない。」
「ひとがカルヴァンをたとえ学問的にでも反駁すると、それは「神の僕」にあらわれた「神の栄光」をはずかしめたことになり、サン・ピエール教会の説教者そのひとをつかまえて傲慢だと言ったりしようものなら、それは「キリストの教会を脅かした」ことになった。」


 ユダヤ人を迫害し反対派を粛清する全体主義を体現するカルヴァンをヒトラーに、強大な権力にただ一人逆らい良心と思想の自由のために戦い破れたカステリオンを我が身に重ねている。そして肩入れしているのは孤軍奮闘する後者。
「カルヴァンがセルヴェートと虐殺したのを見て良心をつよくかきたてられると、はじめて彼は自分の良心的な仕事から起ちあがり、踏みにじられた人権の名においてカルヴァンを告発したのであった。そのとき、彼の孤立は英雄的な偉大さにまでたかめられた。なぜかというと、彼の相手である千軍万馬のカルヴァンとちがって、カステリオンはその背後に彼を擁護し支持してくれる狂暴な、密集隊形の、計画的に組織された徒党をもたなかったからである。カトリック派にせよ、プロテスタント派にせよ、彼を支持する党派はひとつもなかった。」

 最期を知るだけに「これだけ強い意思を持っていたならどうして?」とツヴァイクに問いたくなるが、ふと心が弱る瞬間があったのかもしれない。







最終更新日  June 16, 2022 12:00:21 AM
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June 15, 2022
みなさん、こんばんは。作家の早乙女勝元さんが亡くなりましたね。今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。

ツヴァイク全集 8 三人の巨匠
Drei Meister Balzac,Dickens,Dostojewski Montaigne
シュテファン・ツヴァイク
みすず書房

 バルザックについては、鹿島茂さんも書いているように、ナポレオンの影響をもろに受けた世代である。生まれ落ちた1799年が帝政の始まりで少年時代は
「ナポレオンの権力に渇えた手はヨーロッパの半ばをおさえ、彼の栄誉に憧れる夢は鷲の如く力強くはばたいて、アジアからヨーロッパに至る全世界をおおっている。」
「名もない一人の男が、何の伝手も持たぬよそものが、素手一貫でパリを得、そしてフランスを、そして全世界を手に入れる」
と、こうして文章を読んでいてもえらくかっこよく見えるナポレオンを見ていた。我こそは!と思っても不思議はない。ところが
「作品の中ではすべてを知っていたはずの彼、取引所の仲買人たちの巧妙な手段にも、大小の企業の精緻な術策にも、高利貸の奸計にも通暁し、あらゆるものの価値を知り尽し、作品中の何百という人々にその生計の手段を講じてやり、間違いのない論理にかなった手段で人財産築き上げてみせた彼、グランデ、ポピノ、クルヴェル、ゴリオ、プリドー、メシンゲン、ヴェールプルスト、そしてゴブセックを金持にしてみせた彼、そうした彼が自身のこととなれば手もなく資本を失い、屈辱にまみれた破滅を体験し、ただ残された船のように重い恐るべき借財を、そののち半世紀にわたる彼の生涯を通じて、運送夫の如く広い肩にうめきつつ背負い、ひきずり歩く羽目におちいった。」
作品で、いくら成功の秘訣を描いたとしても、本人が実践できるわけではない、という皮肉な結果に。

 規格外上等主義のバルザックに対してディケンズは伝統重視主義だ。それはバルザックが革命と動乱を経験したフランス人であり、ディケンズが革命に遭遇していないイギリス人であることにも関係する。
「イギリスは一八四八年前後のヨーロッパで、革命を経験しなかった唯一の国家である。したがって、彼も転覆や新しい創造を夢みず、訂正と改善で満足した。」
「ディケンズは直線的性向の人物を描けばたしかに成功する。善人から悪人へ、神から動物へと抵抗なく移行し得るような、興味深々たる人物は不向きである。つねに黒白の明らかな人間、模範的な主人公でなければ陋劣の悪党、はじめから神の光を放つか、さもなければ罪の烙印をいただいている、それがディケンズの人物だ」
わかりやすいが、その分先が見えてて面白みがないという意見も。

巨匠のトリを飾るドストエフスキーは、死一歩手前の経験をした事でよく知られている。しかしツヴァイクはその経験こそが彼を作家なさしめたと断言。
「運命はドストエフスキーを永遠の人間像に彫りあげようと思えばこそ、すすんで苛酷な形をとったのであり、強大な人間に相応するために運命も強大になったのだ。」
「彼はヤコブのように永遠に天使と闘わなければならず、ヨブのように永遠に神に反抗し、そして永遠に屈服しつづけなければならない。」
いや死んでもそんな苦労したくないです、と言いたくなるようなあらゆる苦難が降りかかってくるドストエフスキーだが
「彼ドストエフスキー自身も、自分におおいかぶさっているこの運命の強大な意思をおぼろげに感じとっていたらしい。というのは、彼は一度も自分の運命に対して抵抗したことがないのである。」
ということは彼にもMっ気が?破れ鍋に綴蓋的な(違う)。

他ツヴァイクが「若い時は全然彼の良さがわからなかった」と述懐する『随想録』で知られるモンテーニュの評伝収録。







最終更新日  June 15, 2022 12:00:19 AM
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June 14, 2022
みなさん、こんばんは。国連総会で安全保障理事会の非常任理事国のうち5カ国の入れ替え選挙が行われました。日本は国連加盟国193カ国中、184カ国から支持票を得て加盟国最多の12回目の当選を果たしました。今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。


ツヴァイク全集 5 人類の星の時間
Sternstunden Der Menschheit
シュテファン・ツヴァイク
みすず書房

 どんな平坦な人生にも、いっとき、輝く瞬間がある。『平家物語』で語られるように、栄華はいっときにすぎないが、その時、確かに世界の歴史は変わった。

『不滅の中への逃亡』
アメリカを発見したのはコロンブスOrアメリゴ・ヴェスプッチ。ヴァスコ・ダ・ガマがインド、ペドロ・アルヴァレス・カブラルがブラジル。で、バスコ・ヌニェス・デ・バルボアって誰?

 答え:初めて太平洋を見た男である。貴族出身ながら貧乏に苦しんでいたバルボアは、黄金伝説を信じ、かつ借金取りから逃げるために荷箱で密航し、ヨーロッパ人最初の植民都市サンタ・マリア・ラ・アンティグア(現コロンビアとパナマの国境付近)に移住する。新天地で意気消沈する者もいるが、幸いバルボアは失うものが何もない。インディオの酋長から
「王たちは黄金の器で飲み食いしている。」
と聞いて探索を開始し、パナマ地峡を渡って海を目にする。太平洋だ。彼の探索によりアメリカ大陸が二つに分かれている事がわかった。黄金を獲得して更なる栄誉を求めたバルボアだが、彼を破滅に追い込んだのは意外な人物だった。実は歴史上この人物の方が有名だ。

『ビザンチンの都を奪い取る』
塩野七生さんの『コンスタンティノープルの陥落』では
「あの街を下さい」
と決め台詞をびしっときめてくれるマホメッド二世。難攻不落のコンスタンチノープルが陥落したのは、思わず「えっそんな事で?」と言いたくなる痛恨のミスだった。

『一と晩だけの天才』
外国の国歌はえらくかっこいい!『ラ・マルセイエーズ』もその一つ。当時著作権料の制度がなかったとしてもこれだけ有名な作品の作詞作曲を手掛けた人は、巨万の富を得たのでは?と思うのだがそうならないのがまた人生。

『ウォーターローの世界的瞬間』
「あらゆる時の中できわめて稀に、運命はいかにも奇妙な気まぐれから、行き当りばったりに、いかにも平凡な人間に身をまかせることが往々にしてある」

ウォーターロー(ワーテルロー)の闘いで、ナポレオンはプロシア軍がイギリス兵に合流することを防ぐため、グルシー元帥にプロシア軍追撃と、主隊との連絡を絶やさないよう命じた。しかしなかなかプロシア軍にゆきあたらない。部下の中には遠くで聞こえる砲撃から「戻った方がいいのでは?」と進言する者もいたが、愚直を絵にかいたグルシー元帥は、プロシア軍とぶつかるまでただ前進し続ける。さて戦いの行方は。天才だけでは戦ができない。

「もう俺は駄目だ!」諦めていたヘンデルを救った一曲とは?『ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデルの復活』年の離れた女性に恋したゲーテの詩作は?『マリーエンバートの悲歌』ゴールドラッシュに沸く以前のカリフォルニアで土地を得たにも関わらず奪われていくJ・A・ずーター『エルドラード(黄金郷)の発見』ドストエフスキー『壮烈な瞬間』アメリカとイギリスを繋ぐ電信に打ち込んだサイラス・W・フィールド『大洋をわたった最初のことば』トルストイの有名な妻との確執を戯曲形式で描く『神への逃走』極点争いに敗れたスコット大佐『南極探検の闘い』世界を震撼する10日間に向かっていくレーニン『封印列車』収録。


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最終更新日  June 14, 2022 12:07:59 AM
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June 13, 2022
みなさん、こんばんは。ブルース・ウィリスが失語症で俳優を引退するそうです。 今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。

エラスムスの勝利と悲劇 (ツヴァイク伝記文学コレクション6)
Triumph und Tragik des Erasmus Von Rotterdam
シュテファン・ツヴァイク
みすず書房

タイトルに“勝利と悲劇”とあるからには、栄枯盛衰を味わったくちである。よく知られているのは『痴愚神礼賛』というタイトルくらいか。

 高名な司祭と医師の娘の間に生まれたエラスムスは、庶子だったことに加えて相次いで両親を亡くし、後見人によって寄宿学校に入り、親族の意思によって修道院に入る。聖職者としての人生がいわば最初から決められていた。

 「カトリック教会を批判した人文主義者」というのが後世の評価だが、ツヴァイクの評価は異なる。
「エラスムスにとっては、イエスとソクラテス、キリスト教の教義と西洋古代の叡智、敬虔と人倫のあいだに、越えがたい道徳的な対立は何ひとつ成立しなかった。彼はみずから聖別された司祭でありながら、異教徒たちを寛容の気持からその精神の天国へ受けいれ、兄弟のように教父たちのそばに立たせた。」

 要は喧嘩はしないで仲良くいきましょうよ、というスタンスだったが、そんな彼の前に現れるのがこちらも有名人マルティン・ルター。
「彼は最初のドイツの宗教改革者(またそもそも唯一の、と言ってよい-他の連中は、改革者よりもむしろ革命家だったからである。)として、理性の法則にしたがってカトリック教会を革新しようと努めたのであった。だがこの視野の広い精神的人間、進化論者である彼に対して、運命は行動的人間を、ルターを、革命家を、陰湿なドイツ的民衆の暴力に魔神のように駆りたてられた人を送る。エラスムスの華奢な、鵞ペンで守られただけの手が、おずおずと優しく結合しようと努力したものを、ドクトル・マティーンの百姓育ちの鉄拳が、一撃のもとに粉砕する」
 党派や争い事が大嫌いなエラスムスは、肝心な時にノーと言えず、大事な アウグスブルグの帝国議会を欠席。かくてカソリックとプロテスタントの亀裂は修復不可能なものに。

 かつては当代の文人たちがこぞってエラスムス詣でをしたのに、今は遠くから誹謗中傷の弾ががんがん飛んでくる。もともと体が弱かった彼はますます隠居生活にのめりこむ。彼の死と前後して出版されるのが“たとえ敵を作ることになろうとも新たな時代を切り開くべき”とこちらも対立を恐れないマキャベリの『君主論』。

なまくらな論じゃ、この中世を生きていけない、というわけだがツヴァイクはエラスムスに幾分同情的である。
歴史は、敗北者に対して公平ではない。歴史は節度の人、仲介し宥和させる人、人間性の人をあまり好まない。情熱の人、節度のない人、精神と行動の狂暴な冒険者たちがその寵児なのである。こうして歴史は人道的なものに静かに仕える者たちを、ほとんど軽蔑の眼で見すごしてきた。

先の大戦を終えたばかりなのに、また新たな大戦に臨もうとする大国の空気を感じていたからかもしれない。

他に『世界大戦中の発言Worte wahrend des Weltkrieges』として五篇の論文「不眠の世界」「うれい知らぬ人びとのもとで」「ベルタ・フォン・ズットナー」「ヨーロッパの心」「砲火」、講演『ヨーロッパ思想の歴史的発展Der europaische Gedanke』を収める。


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最終更新日  June 13, 2022 12:00:24 AM
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June 12, 2022
みなさん、こんばんは。新型コロナ対策を厚労省に助言する専門家組織はマスク着用について、屋外で会話がほとんどなければ「必ずしも必要ない」とする見解をまとめました。今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。

マリー・アントワネット〈2〉
Marie Antoinette
シュテファン・ツヴァイク
みすず書房

​下巻最初はまずベルばらでおなじみフェルゼンとアントワネットの悲恋について、たっぷり一章をかけて述べられている。二人の仲をプラトニックにしておきたいのだろうが、ツヴァイクは自信ありげに「関係はあった」と断言。
「この男こそ彼女にとってのいっさいを一身にそなえ、友人で恋人、腹心で道連れ、彼女自身と同じように勇敢で、彼女の犠牲心を犠牲心でつぐなう心がまえを持っているのだ。あまったるい貞節の王妃などというでっちあげの仮説はいずれも、彼女のふるまいの明晰な現実に対置するとき、なんと貧弱に見えることか。」

いや、見てきたんですかあなた。

 フェルゼンを上げる一方、ルイ十六世へのディスリスペクトが止まらない。最大の山場といえるヴァレンヌ逃亡事件においても
ミラボー
「王ともあるものは、国民から逃げだすものではない」
「王たるものは、立ち去るならば白昼公然とおこなうべきであり、それも、そうすることによって真実に王となろうとするばあいにかぎられる」
と生前アドバイスしたにもかかわらず、こっそり逃亡といいとこなし。予定していた日程をどんどん日延べするので、末端までの連絡が行き届かず、連絡の馬車が見つからない。また、逃亡というより物見遊山気分になってきて途中で休憩するものだから、やけに豪勢な馬車と外に出ようとしない乗客に対して、周囲の民衆の関心が高まり遂に駅長ドゥルエが気づいてヴァレンヌに早馬を飛ばす。国を捨てようとしたということは、今外国から攻められている国民をも捨てようとしたと見做され、国王一家への敵意は一気に高まってしまう。

 一方、最大の危機において、ようやく母マリア・テレジアから「あなたはやればできる子なのに」と言われていたアントワネットの底力が発動。
「いまはじめて、これらすべてを、王冠も、子どもたちも、自分の生命も、史上もっとも大規模な動乱にたいして防衛しなければならないという、とてつもない要求に挑発されて、自分自身のうちに抵抗の力をもとめ、突如として、これまで利用することもなく貯蔵されていた知性と行動力をおのれの身内から引きだしてくる。ついに鉱脈を掘りあてたのだ。」

家族を守るため暗号文にも手を染め、人たらしの才能を発揮。しかしキーワードは何もかも「遅すぎる」。ハプスブルグ家のお姫様が、未亡人カペと呼ばれ、墓の場所もわからないような埋葬をされる羽目になったのは、ひとえに時を読めなかったこと。


『中古』マリー・アントワネット〈2〉 (ツヴァイク伝記文学コレクション4)​​KSC







最終更新日  June 12, 2022 12:00:22 AM
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June 11, 2022
みなさんこんばんは。新型コロナウイルスの感染拡大で停止していた海外からの観光客受け入れが団体ツアーに限って解禁されますね。今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。

マリー・アントワネット〈1〉
Marie Antoinette
シュテファン・ツヴァイク
みすず書房

 オーストリア女帝マリア・テレジアの皇女に生まれ、ヨーロッパ随一の美しい王国、フランスの王妃となる。お姫様から王妃になる、普通ならめでたしめでたしで終わるはずのマリー・アントワネットの物語が、そうならなかったのは史実の通り。上巻は、15歳でブルボン王家皇太子(のちのルイ十六世)妃として、豪華な輿入れ行列をする描写から始まり、1789年7月14日のバスティーユ襲撃の民衆蜂起までを記す。

「すでに十三歳の少女のうちに、なんでもできるのに何ひとつ本気でやろうとしないこういう性格の危険性が、あますところなくあらわれているのだ」
と、ツヴァイクはアントワネットの愚かさを否定はしない。しかし一方で
「フランスの宮廷では、側室政治が行われるようになってからというもの、女性の実質よりはむしろその物腰のほうが高く評価される。マリー・アントワネットはかわいらしい。品位があるし、礼儀正しい性格である。これで十分なのだ」
当時の宮廷もまた彼女にそれ以上のものを求めなかったと弁護。更には「まともな夫婦生活を長い間送れなかったからだ」と、夫ルイ十六世に対して手厳しい。

「こういう生まれながらの神経のにぶさのためルイ16世はいかなる強烈な感性的な行為にもうつることができない。(精神的、心理的)愛、歓喜、欲望、不安、苦痛、恐怖など、あらゆる感情の要素が、象の皮膚のような冷淡さをつき抜けることがないし、生命の危険が身近に迫ってもかれを無感覚の境地からゆりおこすことができないのである革命軍がデュイルリーにおしよせても、かれの脈搏はただの一秒も早まらず、断頭台をあすにひかえた夜もかれの快楽の二本柱である睡眠と食欲は減退しない。胸にピストルをつきつけられてもこの男はあおざめることがなく、どんよりした眼から怒りの色がきらめくこともないだろう。かれをおどろかしうるものはなにひとつないが、またかれを感激させうるものもなにひとつない。」

「マリー・アントワネットとルイ十六世とでは、その肉体の末梢神経、血液の律動、気質の表面的な振幅にいたる、あらゆる特質、特性の点で、まさに正確な対照を示している。一方は鈍重、他方は軽快、一方は不器用、他方は柔軟、一方は淀んだようで、他方は沸きたつ性格、一方は神経がにぶく、他方はきらきらと神経質である。さらに精神状態についていえば、一方は優柔不断、他方はあまりにも果断、一方はぐずぐず考えるのにたいし、他方はその勢いにまかせて諾否を口にし、一方は正統派的な信心家、他方は現世に幸福を見、一方は謙虚、従順であり、他方はなまめかしい自信家、一方は杓子定規、他方は散漫、一方は倹約家、他方は浪費家、一方はまじめそのもの、他方は異常な遊び好き、一方は淀み流れる底流、他方は泡沫であり波の舞踏である。」
こんな二人が合うわけない!と言いたげだが、妊娠、出産でアントワネットは変化する。にも拘わらず、本当に無実だった首飾り事件も、王妃への民衆の反感を強める結果になり、せっかく任命した財務長官ネッケルをわずか一年で解任するなど、下手を打ち続けた国王夫妻は、遂に運命の日に遭遇する。
「それは暴動というものではないか」
「blockquote>いいえ、陛下、革命でございます」

「フランス革命そのものによってはじめて、われわれが今日使用しているような、広範、激烈な世界史的意義を獲得した」
「革命」の最中に放り込まれたアントワネットの成長は、ここから始まる。


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最終更新日  June 11, 2022 12:00:19 AM
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June 10, 2022
みなさん、こんばんは。「言論の自由絶対主義者」を自称する実業家イーロン・マスク(Elon Musk)氏が米ツイッター(Twitter)を買収することで、同サイト上でヘイトスピーチや偽情報が横行するのではないかとの懸念が、人権団体から上がっていますね。今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。

ジョゼフ・フーシェ—明日の歴史 (ツヴァイク伝記文学コレクション2)
Joseph Fouche Bildnis eines politischen Menschen Geschichitsschreibung Von Morgen Die Geschchte As Dichterin
シュテファン・ツヴァイク
みすず書房

オラトリオ教団の学校で成績優秀だったフーシェは20歳で僧院の教師になる。ところが折しもフランスは革命の最中。
「人間どころか、神に対してすら、終生忠誠を守る義務を感じない」
リアリストの彼はルイ16世の死刑に賛成を表明したそばから、その事実を隠そうとし、
「かつての同志が自分をどう思い何と呼ぼうと、大衆とか世間がどう考えようと、彼は全然何とも思わない。大事なのはただ一点、いつも勝者の側にいること、断じて敗者の側には残らぬことだ。」

とポリシーなき人生をまっしぐら。州総督として各地に赴き、私有財産を禁じる法令をナント州などで発布し、リヨンの虐殺者と呼ばれる。しかしロベスピエールら指導層もいいかげんなもので、粛清を成した人物として一度は称賛しながらも「あまりにも寛大すぎる」として彼の罪を問うなど一貫性がない。ロベスピエール、ダントンら革命の大立者が亡くなっていく中、プー太郎生活を支えてくれたのが後に総裁となるバラスだった。テルミドール9日のクーデターに参加し、情報収集能力の高さを評価されて総裁政府の警察大臣に。バラスを通じて知り合ったコルシカの田舎者ナポレオン・ボナパルトの政権奪取に貢献し、統領政府でも引き続いて警察大臣に就任した。百日天下では再びナポレオンを支持して警察大臣に再復帰。王政復古時代がやってきて、かつて死刑を唱えた国王一族のルイ18世をパリに迎え入れる。王政復古でも短期間だけ警察大臣となったが、両親であるルイ16世とマリー・アントワネットを殺されたマリー・テレーズの彼への憎悪はすさまじいものだった。パリの議会による「百日天下の際にナポレオンに与した国王死刑賛成投票者はフランスから永遠に追放する」というフーシェを狙い撃ちにする決議により国外追放される形でプラハに亡命。

 経歴をざっと書いてもいかに警察長官時代が長いかわかる。ロベスピエールが処刑され、フーシェはテロ行為のかどで逮捕され3年間追放される。この時代は最もフーシェが貧乏な時代で最も困難な時代だったが、バラスに救われスパイのような事をやらされるうち、彼はいわゆる秘密警察を作り上げる。災い転じて福となしたわけで、ただでは転ばないフーシェらしい。後のFBI長官エドガー・フーヴァーを想起させるような存在になっていくことで、どんな政権下でも生きていける力を身に着ける。

ともすれば戦績と下剋上人生ばかり注目されがちなナポレオンだが、ツヴァイクは
「党派によって分裂し、かきまわされたフランスが、もう一度、生活力のある国家に形成され、二束三文のアシニア紙幣が、ちゃんとした貨幣制度に席を譲り、新しく制定されたナポレオン法典が、法と慣習とを、厳格でしかも人道的な鋳型にはめこんだ時代、いいかえれば、この高度の天才政治家が、政治の全領域にわたって、どこも同じように完璧に国家を健全化し、ヨーロッパを平和ならしめた時代こそ、彼の偉大さを示すものである。」

と彼の天才ぶりを絶賛。

他にツヴァイクの歴史観を知るうえで手がかりとなる、歴史講演を二篇収録。


『中古』ジョゼフ・フーシェ—明日の歴史 (ツヴァイク伝記文学コレクション2)​​KSC







最終更新日  June 10, 2022 12:00:24 AM
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June 9, 2022
みなさん、こんばんは。俳優のフレッド・ウォードが亡くなりましたね。今日もシュテファン・ツヴァイク作品を紹介します。

メリー・スチュアート
Maria Stuart
シュテファン・ツヴァイク
みすず書房


エリザベス女王が姉の死によってやっと女王になれたのとは対照的に、メリー・スチュアートは生後6日でスコットランドの女王となる。ラッキー!と言いたいところだが、メリーの生涯を俯瞰すると、まるでいいカードを最初に全部切ってしまったようなものだ。

 父ジェームズ五世は31歳で戦争に敗れ臨終の床にあった時に予言めいた言葉を遺している。
「一人の女性から王冠がわれわれの頭上に来た。一人の女性とともに、この王冠は去っていくのだろう」

 エリザベスにはウォルシンガム、セシル、レスターなどの家臣がいた。ではメリーを取り巻く貴族達はどうだったのか。フランス大使によれば
「金銭と利得とがスコットランド貴族の耳をそばただせるただ一つの魔女の声なのです。彼らに彼らの主君たちに対する義務、名誉、正義、徳、気高い行為といったものを説いたりすれば、彼らはきっと吹きだすことでしょう」
というとんでもない輩である。
「あるときは彼らは、数年のあいだ徒党を組んで反目し合い、あるときは団結して第三者にたち向かうために、もったいぶった証書で、つかのまの誠実を誓いあい、つねに彼らは一味徒党を組むが、内心ではだれがだれの味方というわけでもなく、たとえどんな姻戚関係があろうと、各人は他人を仮借なくそねみ、敵視することに変わりはない。異教的で野蛮なものが、彼らのあらあらしい魂のなかでそっくりそのまま生きのびている」
仲間同士でもまとまっていない。ならば簡単に倒せるかと思いきや
「スコットランド王がひとたび、支配者となって法律と秩序とをこの国に強制することを実際に断行しようとすれば、彼が血気にまかせて貴族たちの高慢さと強奪欲とに対抗しようと試みようものならば!そうすればたちまち、いつもは敵意を持ち合っているこのならずものどもが、兄弟のように団結し、彼らの支配者を無力にしようとする。そして、剣で成功しないときには、暗殺者の短刀が確実にこの務めを果たすのである。」
というどうにも読めないアウトレイジの集団なのだ。とてもじゃないが、エリザベスの下なら一枚岩になれるイングランドとは戦えない。

 フランスの女王からあっという間に未亡人、そしてスコットランドへの帰還と、良いカードを使い果たしながらメリーは終焉の地に向かってゆく。
「スコットランドのために生き、かつ、死んだのではなくて、ただひたすらにスコットランド女王でありつづけようとして生き、かつ、死んだ」
メリーと、土台が盤石でなかった故に
ただひたすらにイングランド女王でありつづけようとするために、イングランドのために生き、かつ、死んだエリザベス。ツヴァイクは、エリザベスのみをよき為政者とするのではなく、メリーの美点を挙げつつ、そもそもの出発点の違いが二人の運命を分けたと断じている。


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最終更新日  June 9, 2022 12:00:22 AM
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