荻窪の駅ビル、ルミネの1階に
千疋屋フルーツパーラーがある。
ここでの初夏を飾るデザートの女王、それが「タイ産マンゴーパフェ」だ。
フィリピン産マンゴーパフェもある。値段も相当違う。でも、ここに来たら、迷わずタイ産のマンゴーにしよう。質がまったく違うのだ。
ねっとりとした独特の舌触りに、クセのある甘さ、そこはかとない野生の臭み。繊維の奥の奥まで歯でつぶして味わいたくなる。まさに熱帯の神秘。そのマンゴーを惜しげもなく飾り、下層にはアイスと生クリーム、それにダイズに切ったマンゴーの断片が控えている。
千疋屋のフルーツは、ある意味特別なのだと思う。どこか遠くの畑で獲れた、特別に見目麗しい、味のよいものだけが選ばれてやってくる。そんなイメージがある。
そして、桐の箱に入れられてどこかのお金もちにもらわれていくのだ。
荻窪にある千疋屋のフルーツパーラーも、やはりちょっと特別な存在だ。
ここで食べてる人は、なぜか皆、裕福に見える。
カートを引きずって入ってくる白髪の年配の女性も、イケメンの若い給仕係に親切にされて、それなりに嬉しそうだ。
おしゃべりに興じているおばさまグループも、深刻でビンボウ臭い話はしない。どこかハイソな自分を演出しているようだ。
ここは悩みのない世界なのだ。どうしてこのマンゴーパフェが1890円もするんだろう? なんて義憤を感じる人は入ってはいけない。なにしろ、千疋屋なのだから。
悩みのない世界といってまっさきにアタマに浮かぶのは、TVのCMの映像だ。整えられたセットの中で、何かを得た家族や恋人が幸せに笑っている。千疋屋のフルーツパーラーには、そんな虚構の世界に通じる何かがある。自動ドアが開き、フルーティな色調で明るく整えられたその空間に入った瞬間、あなたもそうした、一種、虚構の世界の登場人物になるのだ。すりガラスの向こうを通りすぎていく、せわしない駅前の現実を離れて…