荻窪駅北口。誰もが深窓の令嬢になれる千疋屋フルーツパラーのすぐそばには、まったく対照的な風景が広がる。駅の階段を上がってすぐのところにある焼き鳥屋「鳥もと」だ。
日が落ちたころから、鳥もとはだんだんに熱気を帯びてきて、夜が更けるとさらにヒートアップする。まさに、おじさんパワー炸裂といった賑わいをみせるのだ。
ビール瓶の箱を2段重ねにして、板を渡し、それを即席のテーブルにしちゃってる焼き鳥屋。奥では立ち食いしてる面々もいる。おじさんたちに混じってミニスカでビールと焼き鳥をつまんでる大胆な若いネエちゃんもいる。
日本一高いフルーツを売ってる店の目と鼻の先に、そんな格安の「屋台発展系」の焼き鳥屋がある。そして、どっちもにぎわっている。これが荻窪の魅力でもあり、底力でもある。もっと言っちゃえば、日本のもってるよさでもある。千疋屋でも鳥もとでも、誰もが自由に選択できる。鳥もとに座るのにひけ目を感じる必要はない。同様に、千疋屋フルーツパーラーだって、誰が入ってきたって「いらっしゃいませ」と愛想良く声をかける。お店がお客を選別したりはしないのだ。日本人はそれを当たり前だと思っているかもしれない。だけど、欧米のちょっと気取った店に行けば、必ずしもそうではないということがわかるだろう。有名な高級店でも、店員の教育レベルが店のステータスに追いついていないようなところはたくさんある。「他者に対する礼儀」についての意識の差というのが根底にある。あるいは「礼儀正しさ」についての価値観の差だともいえるかもしれない。日本の人材の教育レベルは、やはりまだまだ広い範囲で、相当高いのだ。
また、どこの国だって庶民派の店はある。でも、日本ほど味のレベルが高く、サービスも早く的確で、しかも清潔な店の多い国はないといってもいい。
荻窪駅は再開発されるという。でも、昭和時代からの庶民パワーを今に伝える、こういう店は残ってほしい。どこもここも新しいこぎれいなビルばかりになってしまっては、つまらない。