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カテゴリ:Gourmet (Sweets)
ショコラティエ、Pierre Marcolini――最初に名前のスペルを見たときは、イタリア系フランス人かと思った。ベルギー生まれだという。もちろん驚きはしない。ブリュッセルはプチパリとも称される美食の街だ。
ショコラティエだけではなく、グラシエ(アイス職人)のディプロマももつマルコリーニ。 銀座の彼の店は、晴海通りから西5番街通りに入ってすぐのところにある。ここで注目を集めているのは、ショコラよりもむしろパフェだろう。店はアイスクリーム店(写真右の白いオーニング)とチョコレート店(左の茶色のオーニング)の2つに分かれていて、キャラメルパフェと季節のフルーツパフェを食べるためにはアイス店のほうに、チョコレートパフェを食べるためにはチョコ店のほうに入らなければならない。 日曜日の午後3時に行ってみたら、ちょうどおやつの時間とあって(笑)こんな行列だった。ラーメン屋みたいに回転はよくないから、30分以上待つハメに。 狭い店内の1階が店舗、狭くて急な階段の先、2階と3階がカフェになっている。カフェのインテリアは、カーテンもウッドブラインド(そしてブラインドについてるラダーテープまで)もダークブラウン、テーブルも椅子もブラウン系、コート掛けまでチョコレート色に着色されていて、まさに母なるチョコレートの胎内に入ったようなイメージだ。 チョコレートパフェはバニラアイスの上にチョコレートソースをかけ、そこにチョコレートアイスと生クリーム(生クリームはいただけない。コストコンシャスを感じさせる低レベル)、独特の口当たりの濃厚なチョコガトーを飾り、バナナを添えている。アイスの上に載っている四角いチョコはパレファン。これでしめて1680円也。 味はといえば、確かにおいしい。だがこれほど長期間にわたって行列ができるほどのものだろうか? 安い板チョコを日本人のチョコレートのスタンダードにしてしまったのは、「お口の恋人」ロッテの功罪だが、この程度のチョコレートアイスを出す店はフランスやイタリアならありふれている。日本だって、有名なショコラティエは多く進出してるし、チョコレートアイスだってこのぐらいのはあるんじゃないか。 とすると、ここの成功はショコラティエにパフェを出すカフェを併設したこと、その1点に集約されるかもしれない。集まってくるのは「ナンバーワン、ショコラティエによる究極のパフェ」の宣伝に夢をふくらませた若い女性だ。リピーターが多いとも思えない。その証拠に足を止める客止める客全員が、店員に「こちらがキャラメルパフェとピーチパフェ、こちらがチョコレートパフェ」と説明を受けていた。もちろん、チョコレートを買いに来るお金持ち風のマダムもいるにはいたが… ショコラティエ兼グラシエの提案するパフェというのは、確かにあまりお目にかかれない。チョコレートはフランスの名店のショコラに引けをとらない濃厚なカカオの香り、バニラアイスはイタリアのジェラートを思わせるあっさりとしながらコクのある仕上がり。それを日本で出して大評判を取ったのがベルギー人。してみると、このチョコレートパフェは非常にコスモポリタンな逸品だといえるかもしれない。マルコリーニは、カカオにしても、ベネズエラ産、メキシコ産と、さまざまな産地のものをチョイスして使っているという。 だが、そのこだわりとて、日本でいかに誇大に宣伝しようとも、マルコリーニの独創ではない。ベネズエラ産のカカオに最初に注目したのはフランスのリヨンのショコラティエだと聞く。Mizumizuはリヨンの街角で、忘れがたいショコラに出会っている。街の中心のベルクール広場から、ボナパルト通りに少し入った目立たない場所にそのショコラティエはあった。小さな店で、英語がまったく話せない中年のマダムが売り子をしていた。プラリーヌやトリュフといった定番商品に混じって、信じられないほど薄い、円いショコラが並べられていた。パレファンよりもっとずっと薄いそのショコラは、10枚ごとに紙の小箱に入って売られており、小箱には「ベネズエラ産カカオ」という文字が目立つように印刷されていた。 このシンプルきわまりないショコラからMizumizuは目が離せなくなった。「これは美味しいに違いない」と踏んで、売り子のマダムに話しかけてみた。しかし、英語・ドイツ語・イタリア語なら話せるMizumizuもフランス語はほとんどダメだ。リヨンのマダムも英語がまったくダメ。というわけで、ショコラの薀蓄はまったく聞きだせず、お互いにワケの分からないやり取りで時間をつぶしたあと、「えーい」と思って、小箱のセットを何個か買ってみた。確か10枚1箱で6~8ユーロぐらいだっただろうか。 「アベック、カフェ~」などとマダムが言っていたのを反芻し、「ショコラがコーヒーと合うのは当たり前だよな」などと思いながら、旅の空の下のカフェでコーヒーと一緒に一枚食べてみた(フランスのカフェでは持ち込みOKなのだ)。 そのときの感動をどう表現したらいいだろう? 「ベネズエラ産カカオの酸味を含んだ深い味わいは衝撃的ですらあった」とでも? チョコレートは甘いものだが、苦味も大切だ。そこまではありふれた話だが、実のところ、さらに味を高みに押し上げるのは特別なカカオのもつ独特な「酸味」なのだ。しかもナッツもヌガーも、何も使われていないショコラだからこそ、そうした素材の素晴しさが最大限味わえる。 銀座を席捲するコスモポリタンなチョコレートパフェをたいらげて、西5番街の暗い路地から空を見上げながら、Mizumizuは思ったのだ。あのリヨンの街角で偶然出会った極薄のショコラこそ、究極の味だったと。それは大量生産では決してできない。あんなに薄いショコラを一枚一枚作るなんて、ほとんど職人の趣味みたいなものだ。その意味では、ショコラというのはローカルで、ごくごくパーソナルなものなのだ。 たとえば、阿佐ヶ谷の小さな和菓子店、うさぎやがパリに進出するなんて考えられない。でも、たとえグローバルな名声は得なくても、うさぎやのどら焼きは絶品には違いない。ショコラも同じなのだ。日本のショコラの歴史は浅い。だからこそ、コスポリタンな若きショコラティエのパフェが拍手をもって迎えられるのだろう。その現象はだが、少しばかり寂しい。もっとローカルでパーソナルなショコラティエが街角に気の効いたショップを構え、地元のリピーターだけでなりたっていってこそ、ショコラ文化が日本に根付いたといえるのではないだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.07.11 11:42:27
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